コラム

2025.10.30

下肢静脈瘤を放置するリスクとは?専門医が警告する危険性

下肢静脈瘤とは?放置すると起こる症状の進行

下肢静脈瘤は足の静脈にある逆流防止弁が壊れることで発症する病気です。静脈の中の血液が逆流し、足の静脈に滞留することで、静脈が瘤(こぶ)状に膨らんで浮き出てくる状態を指します。長時間の立ち仕事や座り仕事、遺伝、肥満、妊娠などが原因となることがあります。

初期症状が軽いために「様子を見ても大丈夫だろう」と治療を先送りにしてしまいがちな病気ですが、放置するとどうなるのでしょうか?

下肢静脈瘤は決して恐ろしい病気ではなく、適切な治療を受ければ根治することができます。しかし、放置すると症状が徐々に進行し、生活の質に大きな影響を及ぼす可能性があるのです。

下肢静脈瘤の進行度を示す「CEAP分類」

下肢静脈瘤の進行度は「CEAP分類」という国際的な基準で評価されます。これは臨床症状(C)・病因(E)・解剖学的分布(A)・病態(P)の頭文字を取った分類法で、特にC(臨床症状)がよく使われています。

CEAP分類のCは0から6までの7段階に分けられ、数字が大きくなるほど症状が重くなります。放置すると、これらの段階が徐々に進行していくことがあるのです。

C1:クモの巣状・網目状静脈瘤

細い毛細血管が皮膚の表面に網目状・クモの巣状に浮き出る状態です。多くの場合は痛みやかゆみなどの自覚症状はありません。美容的な見た目が気になるという理由で受診される方が多いです。

ごく一部の方ではチクチクした痛みや軽いかゆみ、灼熱感を伴うことがあり、日常生活で不快感を覚える場合もあります。進行して太い静脈瘤に変化することは少ないため、心配しすぎる必要はありませんが、気になる場合は専門医に相談すると安心です。

C2:3mm以上のボコボコした静脈瘤

この段階では、足のだるさ・重さ・疲れやすさといった慢性的な不快感のほか、明け方や夜間に起こるこむら返り(筋肉のけいれん)が見られることがあります。

これらの症状は一時的なものと思われがちですが、静脈内の血液の逆流が慢性化しているサインです。何もせずに放置してしまうと、足のむくみや皮膚の変色・炎症など、より進行した状態に移行するリスクが高まります。

この段階での受診・治療により、進行を防ぎ、将来的な合併症のリスクを大幅に減らすことが可能です。見た目の改善だけでなく、生活の質(QOL)の維持にもつながるため、早期の対応が望まれます。

放置による深刻な合併症のリスク

C3:足のむくみが目立つ状態

朝はスッキリしていた足が、夕方になると靴がきつく感じるほど腫れてくる場合、それは静脈瘤が進行しているサインかもしれません。これは、立ち仕事や長時間の座位によって、足の静脈に血液がたまりやすくなることが原因です。

特に、足首やすね周辺に限定したむくみが繰り返されるようであれば、単なる水分代謝の問題ではなく、下肢静脈瘤による慢性的な静脈うっ滞の可能性が高いと考えられます。放置すると皮膚の色素沈着や湿疹へと進行するおそれがあるため、早期に専門医の診断を受けることが大切です。

C4:うっ滞性皮膚炎

皮膚が茶色や黒っぽく変色し、硬くゴワゴワした質感になったり、湿疹・かゆみが現れる場合、これは「うっ滞性皮膚炎」と呼ばれる状態です。

静脈内の血液が慢性的に滞ることで、皮膚の毛細血管から血液成分がにじみ出て炎症を引き起こし、皮膚の栄養状態が悪化することでさまざまな皮膚トラブルが生じます。

この状態になると、皮膚は本来のバリア機能を失いやすくなり、わずかな刺激でも赤みやただれが出る、かきこわして出血するなど、日常生活にも支障をきたす症状が現れることがあります。

放置すると、さらに重症化して皮膚潰瘍へと進行するリスクが高まります。この段階で専門医の診察を受け、適切な治療を開始することが重要です。

C5・C6:皮膚潰瘍

最も重症な状態が皮膚潰瘍です。C5は潰瘍が治癒した状態、C6は活動性の潰瘍がある状態を指します。

皮膚潰瘍とは、皮膚の表皮だけでなく、その下にある真皮にまで障害が起きて、皮膚に穴が開いてしまう状態です。一見すると足が壊死しているように見えるため、放置したら足を切断するのではないか、と誤解してしまう方がいるようです。

静脈性の潰瘍で足を切断するケースは基本的にはありませんが、潰瘍から細菌が入ってしまったり、潰瘍が骨にまで達し骨髄炎(骨の感染症)を起こしたようなケースでは切断する可能性が極めて稀にあります。

下肢静脈瘤を放置して後悔するケース

下肢静脈瘤を放置することで命に関わることは基本的にありませんが、中には早めに治療しておけばよかったと思われるケースもあります。

血栓性静脈炎の発症

静脈のこぶ(静脈瘤)に血の固まり(血栓)ができて炎症を起こす状態です。強い痛みや周囲の熱感をもちます。

血栓ができるため、これが飛んで脳梗塞や心筋梗塞になると心配される方もおられますが、この血栓が浅いところにできていますので、脳梗塞や心筋梗塞の原因となることはありません。そのため、静脈瘤があるからと、血液をサラサラにする薬も飲む必要はありません。

静脈瘤からの出血

拡張した血管が傷ついたりすると、出血することがあります。静脈血ですので、圧迫すれば止まりますが、こぶ(静脈瘤)の中に溜まった血液が出てきますので、勢いよく出血する場合もあります。

突然の出血は患者さんを驚かせ、不安を引き起こすことがあります。特に高齢者や独居の方の場合、対処が遅れると貧血などの二次的な問題を引き起こす可能性もあります。

日常生活の質の低下

足のだるさや痛みが慢性化すると、活動性が低下し、運動不足や社会的な活動の制限につながることがあります。また、見た目の問題から人目を気にして、スカートやショートパンツを避けるなど、服装の選択肢が狭まることも少なくありません。

これらの症状が長期間続くと、精神的な負担も増加し、生活の質が著しく低下する可能性があります。早期に適切な治療を受けることで、こうした問題を防ぐことができます。

早期発見・早期治療の重要性

では、下肢静脈瘤を発見したらどうすればよいのでしょうか?

まず、以下のような症状がある場合は、専門医の診察を受けることをお勧めします:

  • 足のだるさが気になる
  • 目立つ血管がある
  • むくみが頻繁に起こる
  • 夜間のこむら返りがある

現代の下肢静脈瘤治療は、日帰り手術が可能な低侵襲な方法が主流です。レーザーや高周波を使用した治療法は、痛みも少なく、術後の回復も早いのが特徴です。

保険適用となる治療法も多くあり、経済的な負担を抑えながら治療を受けることができます。

早期に治療を開始することで、以下のようなメリットがあります:

  • 症状の進行を防げる
  • 合併症のリスクを減らせる
  • より簡単な治療で済む
  • 治療期間が短くて済む
  • 医療費を抑えられる

まとめ:下肢静脈瘤は放置せず専門医に相談を

下肢静脈瘤は、放置すると重大な合併症を引き起こす可能性がある進行性の病気です。血栓が飛んで脳梗塞や心筋梗塞になる、足を切断することになるといった心配は基本的に不要ですが、症状が進行すると生活の質が著しく低下する可能性があります。

特に注意すべきは、初期症状が軽いために放置されがちだということです。足のだるさ、むくみ、こむら返りなどの症状がある場合は、早めに専門医に相談することをお勧めします。

現代の治療法は日帰りで行える低侵襲なものが多く、早期に治療を開始することで、より簡単かつ効果的に症状を改善することができます。

下肢静脈瘤でお悩みの方は、ぜひ専門医療機関である西梅田静脈瘤・痛みのクリニックにご相談ください。血管外科と整形外科を専門とする医師が、患者様の症状や生活スタイルに合わせた最適な治療法をご提案いたします。

足の健康は全身の健康と生活の質に直結します。少しでも気になる症状があれば、放置せずに早めの受診をお勧めします。

西梅田静脈瘤・痛みのクリニックでは、下肢静脈瘤血管内焼灼術指導医・実施医の資格を持つ医師による専門的な治療を提供しています。日帰り手術も可能ですので、お気軽にご相談ください。

【著者】

西梅田 静脈瘤・痛みのクリニック 院長 小田 晃義

【略歴】

現在は大阪・西梅田にて「西梅田 静脈瘤・痛みのクリニック」の院長を務める。

下肢静脈瘤の日帰りレーザー手術・グルー治療(血管内塞栓術)・カテーテル治療、再発予防指導を得意とし、

患者様一人ひとりの状態に合わせたオーダーメイド医療を提供している。

早期診断・早期治療”を軸に、「足のだるさ・むくみ・痛み」の原因を根本から改善することを目的とした診療方針を掲げ、静脈瘤だけでなく神経障害性疼痛・慢性腰痛・坐骨神経痛にも対応している。

【所属学会・資格】

日本医学放射線学会読影専門医、認定医

日本IVR学会専門医

日本脈管学会専門医

下肢静脈瘤血管内焼灼術指導医、実施医

マンモグラフィー読影認定医

本記事は、日々の臨床現場での経験と、医学的根拠に基づいた情報をもとに監修・執筆しています。

インターネットには誤解を招く情報も多くありますが、当院では医学的エビデンスに基づいた正確で信頼性のある情報提供を重視しています。

特に下肢静脈瘤や慢性疼痛は、自己判断では悪化を招くケースも多いため、正しい知識を広く伝えることを使命と考えています。