デスクワークが増えた現代社会では、長時間同じ姿勢でいることによる健康リスクが注目されています。その中でも「下肢静脈瘤」は、デスクワーカーに多く見られる血管のトラブルです。足のむくみやだるさ、血管の浮き出りなどの症状が特徴的ですが、適切な対策を取ることで予防や改善が可能です。
この記事では、下肢静脈瘤血管内治療指導医の立場から、デスクワークによる下肢静脈瘤の予防と対策について詳しく解説します。長時間座り続ける仕事環境でも実践できる具体的な方法を8つご紹介します。
下肢静脈瘤とは?デスクワークとの関係性
下肢静脈瘤は、足の静脈が拡張して血管が浮き出て見える状態です。静脈内の血液が心臓に向かって正常に流れず、逆流することで発生します。
実は下肢静脈瘤は非常にポピュラーな疾患で、15歳以上の約4割、50歳以上になると3人に2人に見られるとされています。女性に多い傾向がありますが、男性でも発症するリスクがあります。
デスクワークと下肢静脈瘤の関係は深く、長時間座り続ける姿勢がリスク要因となります。座りっぱなしの状態では、ふくらはぎの筋肉(筋ポンプ)が十分に働かないため、足の血液が滞りやすくなるのです。
通常、足の血液は「ふくらはぎの筋肉によるポンプ作用」と「静脈内の逆流防止弁」によって心臓に押し上げられます。しかし、デスクワークでは筋肉を動かさないため、このポンプ機能が低下し、静脈内の血液がうっ滞します。
その結果、静脈の壁にかかる圧力が高まり、静脈弁が壊れて血液の逆流が起こり、静脈瘤が形成されるのです。
デスクワーカーに多い下肢静脈瘤の症状
下肢静脈瘤の初期症状は見た目の変化だけで気づかないことも多いのですが、進行すると様々な不快な症状が現れます。デスクワーカーによく見られる症状をご紹介します。
足のむくみと重だるさ
長時間のデスクワークで最も多く感じるのが、足のむくみと重だるさです。特に夕方になるにつれて症状が悪化し、帰宅時には靴がきつく感じることもあります。
静脈瘤の場合、むくみに左右差があることが多いのも特徴です。片方の足だけが特にむくむ場合は注意が必要です。
足の血管の浮き出り
ふくらはぎや膝の裏に青い血管がボコボコと浮き出るのが、下肢静脈瘤の典型的な症状です。初期は細い血管が網目状に見える程度ですが、進行すると太い血管が蛇行して目立つようになります。
夜間のこむら返り
夜中や朝方に突然ふくらはぎがつる「こむら返り」も、下肢静脈瘤の症状のひとつです。デスクワークで血行が悪くなった状態で就寝すると、睡眠中に筋肉が痙攣を起こしやすくなります。
こむら返りが頻繁に起こる場合は、単なる疲れではなく、静脈瘤の可能性を疑ってみましょう。

皮膚の変化
症状が進行すると、足首付近の皮膚が茶色く変色したり、かゆみや湿疹が現れることがあります。これは「うっ滞性皮膚炎」と呼ばれる状態で、血液のうっ滞が長期間続いた結果起こります。
さらに悪化すると皮膚が硬くなったり、小さな傷から潰瘍ができやすくなるため、早めの対処が必要です。
デスクワークによる下肢静脈瘤を防ぐ8つの対策
デスクワークによる下肢静脈瘤を予防するための効果的な対策を8つご紹介します。どれも日常生活に取り入れやすいものばかりですので、ぜひ実践してみてください。
1. 定期的な小休憩と足の運動
1時間に1回は立ち上がり、足首を回したり、つま先立ちをしたりして、ふくらはぎの筋肉を動かしましょう。デスクワークの最大の問題点は、長時間同じ姿勢でいることです。
簡単なストレッチとして、足首の回転運動や、かかとの上げ下げ運動が効果的です。これだけでもふくらはぎの筋ポンプが活性化され、血液循環が改善します。
2. 弾性ストッキングの着用
医療用弾性ストッキングは、足首部分に強い圧力がかかり、上に行くほど圧力が弱くなる設計になっています。この圧力勾配によって、心臓に血液を戻しやすくする効果があります。
デスクワーク中も着用することで、静脈の拡張や血液の逆流を防ぎ、むくみの軽減にも効果的です。医学的にも効果が証明されており、予防だけでなく再発防止にも役立ちます。

3. 足を高く上げる習慣
デスクワーク中でも、フットレストやクッションを使って足を少し高くすることで、血液の戻りをサポートできます。休憩時間には、可能であれば足を心臓より高い位置に上げて休ませましょう。
帰宅後も15分程度、壁に足をつけて寝転ぶだけでも効果があります。重力を利用して血液の流れを改善する簡単な方法です。
4. 適度な水分摂取
水分をこまめに摂ることで血液の粘度が下がり、流れがスムーズになります。デスクワーク中は喉の渇きを感じにくいため、意識的に水分補給を心がけましょう。
ただし、カフェインの多い飲み物は利尿作用があるため、水やノンカフェインのお茶がおすすめです。1日1.5〜2リットルの水分摂取を目標にしてください。
5. 座り方と姿勢の改善
足を組む姿勢は血流を妨げるため避けましょう。また、椅子の高さを調整して、太ももが軽く下向きになるようにすると、足への圧迫が減少します。
デスクと椅子の高さが合っていないと、知らず知らずのうちに血流に悪影響を与えていることがあります。人間工学に基づいた姿勢を意識することが大切です。
6. ランチタイムの軽い散歩
昼休みに10〜15分程度の軽い散歩を取り入れると、血流が活性化します。オフィス内を歩くだけでも効果があるので、エレベーターではなく階段を使うなど、意識的に体を動かす機会を作りましょう。
ウォーキングは下肢静脈瘤の予防に最適な運動のひとつです。激しい運動よりも、軽く継続的に行う方が効果的です。

7. 食生活の見直し
塩分の取りすぎはむくみの原因になります。また、食物繊維を多く含む食品は便秘予防に役立ちます。便秘になると排便時にいきむことで腹圧がかかり、足の静脈に血液が押し戻されてしまうのです。
バランスの良い食事を心がけ、特に野菜や果物、全粒穀物などの食物繊維が豊富な食品を積極的に摂りましょう。
8. 就寝前のケア
入浴で体を温めると血行が良くなります。特にシャワーだけでなく湯船にしっかりつかることで、一日の疲れとともにむくみも取れやすくなります。
また、就寝前に足を軽くマッサージすることも効果的です。足首から太ももに向かって、血液の流れに沿って優しくマッサージしましょう。
静脈瘤が進行したときの治療法
予防や対策を行っても症状が改善しない場合は、専門医による治療が必要になることがあります。現在の下肢静脈瘤治療は、日帰りで受けられる低侵襲な方法が主流となっています。
カテーテル治療(レーザー・高周波)
細いカテーテルを静脈内に挿入し、レーザーや高周波で熱処理して血管を閉鎖する方法です。従来の「ストリッピング手術」と比べて傷が小さく、回復も早いのが特徴です。
日帰りで受けられ、治療後すぐに歩くことができます。痛みも少なく、多くの患者さんに選ばれている治療法です。
グルー治療
医療用接着剤(グルー)を静脈内に注入して血管を閉じる新しい治療法です。熱を使わないため痛みが少なく、麻酔の必要もありません。
傷跡がほとんど残らず、治療後の圧迫療法も短期間で済むため、美容面でも優れた方法です。
硬化療法
細い静脈瘤に対しては、薬剤を直接注入して血管を固める「硬化療法」が行われます。比較的小さな静脈瘤に適した治療法です。
いずれの治療も、専門医のいるクリニックで適切な診断を受けた上で、自分に合った方法を選ぶことが大切です。
まとめ:デスクワークでも健康な足を維持するために
デスクワークによる下肢静脈瘤は、適切な予防策を講じることで防ぐことができます。1時間に1回の小休憩、弾性ストッキングの着用、足を高く上げる習慣など、日常生活に取り入れやすい対策を継続することが重要です。
症状が気になる場合は、我慢せずに専門医に相談しましょう。現在の治療法は日帰りで受けられるものが多く、早期に対処することで症状の悪化を防ぐことができます。
デスクワークが増える現代社会だからこそ、足の健康に気を配り、快適な毎日を送りましょう。
足の症状でお悩みの方は、血管外科や静脈瘤専門のクリニックでの相談をおすすめします。専門的な検査と診断で、あなたに最適な予防法や治療法を見つけることができます。
詳しい情報や診療についてのご相談は、西梅田静脈瘤・痛みのクリニックまでお気軽にお問い合わせください。血管外科と整形外科を専門とする当院では、下肢静脈瘤の日帰り手術や痛みに対する治療を提供しています。
【著者】
西梅田 静脈瘤・痛みのクリニック 院長 小田 晃義
【略歴】
現在は大阪・西梅田にて「西梅田 静脈瘤・痛みのクリニック」の院長を務める。
下肢静脈瘤の日帰りレーザー手術・グルー治療(血管内塞栓術)・カテーテル治療、再発予防指導を得意とし、
患者様一人ひとりの状態に合わせたオーダーメイド医療を提供している。
早期診断・早期治療”を軸に、「足のだるさ・むくみ・痛み」の原因を根本から改善することを目的とした診療方針を掲げ、静脈瘤だけでなく神経障害性疼痛・慢性腰痛・坐骨神経痛にも対応している。
【所属学会・資格】
日本医学放射線学会読影専門医、認定医
日本IVR学会専門医
日本脈管学会専門医
下肢静脈瘤血管内焼灼術指導医、実施医
マンモグラフィー読影認定医
本記事は、日々の臨床現場での経験と、医学的根拠に基づいた情報をもとに監修・執筆しています。
インターネットには誤解を招く情報も多くありますが、当院では医学的エビデンスに基づいた正確で信頼性のある情報提供を重視しています。
特に下肢静脈瘤や慢性疼痛は、自己判断では悪化を招くケースも多いため、正しい知識を広く伝えることを使命と考えています。

