コラム

2025.10.31

下肢静脈瘤の原因と効果的な7つの対策〜専門医が解説

足の血管がボコボコと浮き出る下肢静脈瘤。見た目の問題だけでなく、足のだるさやむくみなど、日常生活に支障をきたす症状に悩まされている方も多いのではないでしょうか。

下肢静脈瘤は、実は珍しい病気ではありません。成人の約8.7%、70歳以上では23.3%もの方が経験するといわれています。

本記事では、下肢静脈瘤の原因から効果的な対策まで、血管外科専門医の立場から詳しく解説していきます。

下肢静脈瘤とは?症状と発症メカニズム

下肢静脈瘤(かしじょうみゃくりゅう)とは、足の静脈が瘤(こぶ)のように膨らんだ状態を指します。

健康な静脈には「逆流防止弁」が存在し、血液が心臓に向かって一方向に流れるようになっています。この弁が正常に機能しなくなると、血液が足に溜まりやすくなり、静脈の壁に圧力がかかって拡張し、やがて皮膚の下に浮き出て見えるようになるのです。

主な症状としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 足の血管が浮き出る・目立つ
  • 足のむくみ
  • 足の重だるさ
  • こむら返り(足がつる)
  • かゆみ
  • 足の冷え

初期には静脈瘤が見られるだけで特に症状がないことも多いですが、進行すると皮膚炎や静脈炎を起こし、痛みを伴ったり、さらには治りにくい潰瘍になり、複数回の手術必要となる場合もあります。

下肢静脈瘤は見た目の問題だけでなく、放置すると症状が悪化する可能性がある病気です。早期の適切な対応が重要になります。

下肢静脈瘤の主な原因とリスク要因

下肢静脈瘤はなぜ発症するのでしょうか?

主な原因は静脈の逆流防止弁の機能不全です。この機能不全を引き起こすリスク要因として、以下のようなものが挙げられます。

1. 遺伝的要因

下肢静脈瘤には遺伝的な素因があるとされています。家族に静脈瘤を患った方がいる場合は注意が必要です。

両親ともに静脈瘤がある場合、子供に遺伝する確率は約90%。片方の親だけの場合、女の子には62%、男の子には25%の確率で遺伝するといわれています。

2. 加齢

年齢を重ねると静脈弁の機能が低下し、血液が逆流しやすくなります。特に60代以降で有病率が急上昇します。

3. 性別とホルモンの影響

女性は男性よりも下肢静脈瘤になりやすい傾向があります。これは女性ホルモンが血管壁を緩める作用を持つためです。

特に妊娠中は、子宮の圧迫やホルモンバランスの変化でリスクが高まります。妊娠・出産経験のある女性、特に出産回数が多い方ほど発症リスクが高くなります。

4. 生活習慣

長時間の立ち仕事や座り仕事は、血液が脚に滞留しやすくなります。調理師、美容師、看護師など立ちっぱなしの職業や、デスクワークなど長時間座り続ける仕事は特にリスクが高いです。

また、運動不足も下肢静脈瘤のリスクを高めます。ふくらはぎは「第2の心臓」とも言われるほど、血液の還流に重要な役割を果たします。歩行やストレッチの習慣がない人は要注意です。

5. 肥満

体重が増えると、下半身にかかる静脈圧が増加し、静脈瘤の引き金になります。特に腹部肥満は血流を圧迫するため注意が必要です。

どうですか?思い当たる原因はありましたか?

これらの原因が重なると、下肢静脈瘤のリスクはさらに高まります。次に、効果的な対策について見ていきましょう。

下肢静脈瘤の効果的な7つの対策

下肢静脈瘤の症状を改善し、進行を防ぐためには、日常生活での対策が非常に重要です。ここでは、専門医として推奨する7つの効果的な対策を紹介します。

1. 圧迫療法(弾性ストッキングの活用)

弾性ストッキングは下肢静脈瘤の基本的な治療法です。足首部分の圧力が強く、心臓に向かって圧が弱くなるグラデーション設計になっており、圧迫によって血液の逆流や停滞を抑えることができます。

市販の着圧ソックスと医療用弾性ストッキングは異なります。医療用は圧迫力が強く、段階圧が適切に設計されています。症状がある方は医師に相談して、適切な弾性ストッキングを処方してもらいましょう。

2. 適度な運動習慣

ウォーキングやサイクリングなどの有酸素運動は、ふくらはぎの筋肉を動かし、血液循環を促進します。1日20〜30分程度のウォーキングだけでも効果があります。

特におすすめなのは、足首を回す運動や、つま先立ちを繰り返す運動です。これらはふくらはぎのポンプ機能を高め、静脈の血流改善に役立ちます。

3. 足を高く上げる習慣

就寝時や休憩時に足を心臓より高い位置に置くことで、血液の戻りを促進できます。

仕事の合間や帰宅後、10〜15分程度足を高くして休むだけでも、むくみの軽減に効果的です。壁に足をつけて上げるのも良い方法です。

4. 体重管理

肥満は静脈への圧力を増加させるため、適正体重の維持が重要です。バランスの良い食事と適度な運動で体重管理を心がけましょう。

特に腹部の脂肪は腹圧を上げ、静脈への負担を増やします。腹部周りの脂肪を減らすことも効果的です。

5. 長時間の同じ姿勢を避ける

立ちっぱなしや座りっぱなしの姿勢が続くと、血液循環が悪くなります。1時間に1回は姿勢を変えたり、簡単なストレッチをしたりすることをおすすめします。

デスクワークの方は、定期的に立ち上がって歩いたり、足首を回したりする習慣をつけましょう。

6. 水分摂取の適正化

適切な水分摂取は血液の粘度を下げ、循環を改善します。一日あたり1.5〜2リットルの水分摂取を心がけましょう。

アルコールには利尿作用があり、体が脱水状態になると血液がドロドロになりやすくなります。アルコールを摂取する際は、水分補給を十分に行うことが大切です。

7. 専門医による適切な治療

症状が進行している場合は、専門医による適切な治療が必要です。現在では、日帰りで行える低侵襲な治療法が多数あります。

レーザー治療、ラジオ波治療、硬化療法など、患者さんの状態に合わせた治療法を選択できます。症状が気になる方は、専門医への相談をおすすめします。

これらの対策を日常生活に取り入れることで、下肢静脈瘤の症状改善や予防につながります。特に初期段階では、生活習慣の改善だけでも大きな効果が期待できるのです。

下肢静脈瘤の種類と治療法

下肢静脈瘤にはいくつかの種類があり、それぞれ適した治療法が異なります。ここでは主な種類と治療法について解説します。

下肢静脈瘤の主な種類
  • 網目状静脈瘤:皮膚下の細い静脈が拡張した状態。下肢静脈瘤の中でもっとも多い症状です。
  • 側枝静脈瘤:伏在静脈から枝分かれした交通枝が拡張した状態。下腿にできやすい症状です。
  • くも状静脈瘤:皮膚内の毛細血管が拡張した状態。血管がクモの巣のように広がって見えます。
  • 伏在静脈瘤:伏在静脈の逆流防止弁が機能しなくなり発症。悪化すると大腿部まで広がります。

症状の程度や種類によって、適切な治療法が異なります。軽度の場合は保存的治療、重度の場合は手術的治療が選択されます。

保存的治療

症状が軽度の場合や、手術が難しい場合には以下の保存的治療が行われます。

  • 圧迫療法:弾性ストッキングを用いた治療法です。
  • 薬物療法:静脈の緊張を高める薬や、血行を改善する薬を用いることがあります。
  • 生活指導:適度な運動や体重管理など、生活習慣の改善指導を行います。

手術的治療

症状が進行している場合や、保存的治療で改善しない場合には、以下のような手術的治療が検討されます。

  • 血管内焼灼術:カテーテルからレーザーや高周波を用いて静脈を焼灼する治療法です。日帰りでの治療が可能で、傷跡も最小限に抑えられます。
  • 硬化療法:硬化剤を静脈内に注入し、静脈を閉塞させる治療法です。小さな静脈瘤に適しています。
  • ストリッピング手術:逆流の原因となっている静脈を引き抜く手術です。再発が少ないという特徴があります。
  • 高位結紮術:逆流の原因となっている静脈の結合部を結紮する手術です。
  • グルー治療:接着剤を血管内に注入して血管をくっつける新しい治療法です。

これらの治療法は、患者さんの状態や静脈瘤の種類、生活スタイルなどを考慮して選択されます。どの治療法が自分に適しているかは、専門医との相談が重要です。

下肢静脈瘤の予防と日常生活での注意点

下肢静脈瘤は完全に予防することは難しいですが、リスクを減らすための工夫はたくさんあります。特に遺伝的要因がある方は、予防策を積極的に取り入れることが大切です。

日常生活での具体的な予防策
  • 定期的な足の観察:足の血管の変化に早めに気づくことが大切です。
  • 適切な靴の選択:長時間のハイヒール着用は避け、足にフィットする靴を選びましょう。
  • 足を冷やさない:冷えは血行不良を招きます。足を温める習慣をつけましょう。
  • 入浴習慣:ぬるめのお湯にゆっくりつかることで、血行が促進されます。
  • 食生活の改善:食物繊維が豊富な食品を摂り、便秘を防ぐことも大切です。

これらの予防策は、下肢静脈瘤だけでなく、全身の健康維持にも役立ちます。日常生活に無理なく取り入れていきましょう。

下肢静脈瘤と間違えやすい症状

足の症状には下肢静脈瘤以外にも様々な原因があります。以下のような症状がある場合は、別の病気の可能性もあるため、専門医への相談が重要です。

  • 急激な足の腫れや痛み:深部静脈血栓症の可能性があります。
  • 片側だけの強いむくみ:リンパ浮腫などの可能性があります。
  • 足の色調変化や冷感:動脈疾患の可能性があります。

症状に不安がある場合は、自己判断せず専門医に相談することをおすすめします。

まとめ:下肢静脈瘤との上手な付き合い方

下肢静脈瘤は多くの方が経験する疾患ですが、適切な対策と治療で症状を改善し、快適な生活を送ることができます。

本記事でご紹介した7つの対策を日常生活に取り入れることで、下肢静脈瘤の予防や症状の軽減につながります。特に初期段階では、生活習慣の改善だけでも大きな効果が期待できます。

症状が気になる方、家族に下肢静脈瘤の方がいる方は、早めに専門医に相談することをおすすめします。現在では日帰りで行える低侵襲な治療法も多数あり、患者さんの負担を最小限に抑えながら効果的な治療が可能です。

下肢静脈瘤は完治が難しい疾患ですが、上手に付き合っていくことで、その影響を最小限に抑えることができます。ご自身の足の健康を大切にし、快適な毎日を過ごしましょう。

下肢静脈瘤でお悩みの方は、ぜひ専門医療機関である西梅田静脈瘤・痛みのクリニックにご相談ください。血管外科専門医による適切な診断と治療をご提供いたします。

【著者】

西梅田 静脈瘤・痛みのクリニック 院長 小田 晃義

【略歴】

現在は大阪・西梅田にて「西梅田 静脈瘤・痛みのクリニック」の院長を務める。

下肢静脈瘤の日帰りレーザー手術・グルー治療(血管内塞栓術)・カテーテル治療、再発予防指導を得意とし、

患者様一人ひとりの状態に合わせたオーダーメイド医療を提供している。

早期診断・早期治療”を軸に、「足のだるさ・むくみ・痛み」の原因を根本から改善することを目的とした診療方針を掲げ、静脈瘤だけでなく神経障害性疼痛・慢性腰痛・坐骨神経痛にも対応している。

【所属学会・資格】

日本医学放射線学会読影専門医、認定医

日本IVR学会専門医

日本脈管学会専門医

下肢静脈瘤血管内焼灼術指導医、実施医

マンモグラフィー読影認定医

本記事は、日々の臨床現場での経験と、医学的根拠に基づいた情報をもとに監修・執筆しています。

インターネットには誤解を招く情報も多くありますが、当院では医学的エビデンスに基づいた正確で信頼性のある情報提供を重視しています。

特に下肢静脈瘤や慢性疼痛は、自己判断では悪化を招くケースも多いため、正しい知識を広く伝えることを使命と考えています。