静脈瘤手術後の回復期間とは?日帰り手術の実際
下肢静脈瘤の手術を受けようと考えているけれど、「術後の回復期間はどのくらいかかるのだろう」「仕事や日常生活への影響は?」と不安を感じていませんか?
下肢静脈瘤の治療法は近年大きく進化し、多くの場合で日帰り手術が可能になっています。しかし、実際の回復期間や術後の生活については、正確な情報を知っておくことが大切です。
私は血管外科医として、これまで数多くの下肢静脈瘤手術を行ってきました。その経験から言えるのは、適切な治療法の選択と術後ケアの理解が、スムーズな回復への鍵だということです。
この記事では、静脈瘤手術後の回復期間について、日帰り治療から完全復帰までのプロセスを詳しく解説します。手術方法による違いや、日常生活への復帰時期、注意点まで、あなたの不安を解消するための情報をお届けします。

静脈瘤手術の種類と回復期間の違い
下肢静脈瘤の手術方法は大きく分けて、カテーテル治療(血管内焼灼術・血管内塞栓術)と従来の外科的手術(ストリッピング手術)があります。それぞれの回復期間には特徴があるので見ていきましょう。
血管内焼灼術(レーザー・高周波)の回復期間
血管内焼灼術は、カテーテルを使って静脈内からレーザーや高周波を照射し、内側から血管を閉塞させる方法です。小さな傷で済み、回復も早いため、現在の下肢静脈瘤治療の主流となっています。
回復期間の目安としては、手術翌日から通常の日常生活に戻ることができます。立ち仕事などでも、激しい運動を伴わないものであれば術後から復帰可能です。ただし、サッカーやテニスなどの激しい運動は術後1週間ほど控える必要があります。
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血管内塞栓術(グルー治療)の回復期間
グルー治療は、医療用接着剤を注入して静脈を閉塞させる最新の治療法です。2019年から日本でも保険適用となりました。この治療の大きな特徴は、熱を使わないため痛みが少なく、術後の弾性ストッキングが不要な場合が多いことです。
回復期間については、血管内焼灼術と同様に手術翌日から日常生活に戻れます。さらに弾性ストッキングが不要なケースが多いため、より早期の社会復帰が可能です。職場復帰を急いでいる方や、術後の負担を最小限にしたい方に特におすすめの治療法と言えるでしょう。

ストリッピング手術の回復期間
従来のストリッピング手術は、静脈を物理的に引き抜く方法です。現在は血管内焼灼術や塞栓術に置き換わりつつありますが、症例によっては選択されることもあります。
回復期間は他の治療法より長く、通常の日常生活への復帰には3〜7日程度、仕事復帰には1〜2週間程度かかることが一般的です。また、術後の痛みや内出血も比較的強く出ることがあります。
ストリッピング手術は侵襲性が高いため、現在では適応を慎重に判断しています。特殊なケースを除き、患者さんの負担が少ない血管内治療を第一選択としているクリニックがほとんどです。
静脈瘤手術後の経過と回復プロセス
静脈瘤の手術後は、時間の経過とともに症状が改善していきます。ここでは、術後の経過を時系列で見ていきましょう。
術直後〜1日目:初期回復期
手術当日は、手術を受けた足を弾力包帯で固定します。足の甲からテーピングをするように弾性包帯で巻き上げ、状態によってはサポーターで固定することもあります。
巻き方については専門性が高いため、弾性ストッキング・圧迫療法コンダクターなどの専門家が施術します。少しきつく感じることがあるかもしれませんが、通常は翌日にはずしますので心配ありません。
手術当日の飲酒は控えるようにしてください。アルコールの影響で痛みが強くなる場合があります。食事については特に制限はありません。
2日目〜1週間:生活復帰期
術後1〜2日目には弾力包帯を外し、その後は約1ヶ月間、弾性ストッキングを着用していただきます(グルー治療では不要なケースが多い)。この圧迫療法は、術後の合併症(特に血栓)を予防するために非常に重要ですので、必ず守ってください。
この時期から、通常の日常生活に戻ることができます。立ち仕事などの激しい運動を伴わない仕事であれば、術後から可能です。
ただし、サッカー、野球、テニスなどの激しい運動や長時間の正座は術後1週間ほど控えていただく必要があります。
合併症予防の観点では全く動かないことはよくないため、日常生活レベルの活動やウォーキングは続けていただくことをお勧めします。
1週間〜1ヶ月:完全回復期
術後1週間を過ぎると、多くの患者さんは日常生活のほぼすべての活動に復帰できるようになります。この時期から徐々に運動強度を上げていくことが可能です。
術後1ヶ月程度で弾性ストッキングの着用が終了し、完全回復となります。この時点で、スポーツなどの激しい運動も制限なく行えるようになります。
レーザーや高周波によるカテーテル治療では、従来のストリッピング手術と比較して合併症は稀ですが、一時的に内出血や疼痛、ツッパリ感や痺れが発生することがあります。これらはいつまでも続くものではなく、時間経過と共に改善し、後遺症を残すことはほとんどありません。
静脈瘤手術後の注意点と合併症予防
静脈瘤手術後の回復をスムーズに進め、合併症を予防するためには、いくつかの注意点があります。
圧迫療法の重要性
術後の圧迫療法(弾性ストッキングの着用)は、血管をしっかりと閉じさせるために非常に重要です。医師の指示通りに約1ヶ月間、寝る時以外の時間に弾性ストッキングを着用してください。
弾性ストッキングとは、足の圧迫を目的として作られた医療用のストッキングで、下肢静脈の血液の流れを促進する働きがあります。適切に着用することで、術後の血栓形成リスクを大幅に減らすことができます。
静脈瘤は深部静脈血栓症(エコノミークラス症候群)の危険因子のひとつです。エコノミークラス症候群を予防するためにも、特に術後は医師の指示通りに弾性ストッキングを着用することが重要です。
血栓性静脈炎の予防
下肢静脈瘤を放置すると逆流する血液が血管内で固まって炎症を起こすことがあります。これを血栓性静脈炎といいます。レーザー手術やラジオ波手術後にもまれに血栓性静脈炎が起こることがあります。
血栓性静脈炎を予防する方法は、手術後に弾性ストッキングを医師の指示通りに着用し、適度に身体を動かすことです。日常的な歩行などで十分ですので、動くことを心がけましょう。

術後の症状と対処法
術後に一時的に内出血や疼痛、ツッパリ感や痺れが発生することがありますが、これらは時間経過と共に改善します。痛みが強い場合は、処方された鎮痛薬を服用してください。
また、レーザーの熱などで神経が傷つき、一時的に下腿部のしびれが発生するということがありますが、これも通常は時間とともに改善します。
気になる症状がある場合や、予想以上に症状が長引く場合は、必ず担当医に相談してください。早期の対応が合併症予防につながります。
静脈瘤手術の費用と保険適用
静脈瘤手術の費用は治療法によって異なります。2025年現在の保険適用時の費用相場を見てみましょう。
治療法別の費用相場
血管内焼灼術(レーザー・高周波)は、保険点数約10,200点で、3割負担の場合の自己負担額は約30,600円、実費目安は40,000円前後となります。両足の場合は約1.5〜2倍になります。
血管内塞栓術(グルー治療)は、保険点数約14,360点で、3割負担の場合の自己負担額は約40,380円、実費目安は約50,000円前後です。弾性ストッキングが不要なため、その分の費用が節約できる場合があります。
硬化療法は、保険点数約1,720点で、3割負担の場合の自己負担額は約5,160円、実費目安は6,000円前後です。小静脈瘤や蜘蛛の巣血管向けの治療法です。
これらの費用に加えて、初診料・検査料(約2,000〜3,000円)が別途かかります。
治療費に影響する要素
治療費は以下の要素によって変動します:
- 片足か両足か:両足の場合は片足の約1.5~2倍
- 静脈瘤の本数や状態:範囲が広いと薬剤量が増加
- 麻酔や検査内容:体格によって薬剤量が増加
- 弾性ストッキングの有無:3,750円~7,700円程度(保険適用外)
医療機関によって費用は若干異なりますので、事前に確認することをお勧めします。また、医療費控除や民間保険の給付金が適用される場合もありますので、併せて確認しておくとよいでしょう。
静脈瘤手術後の生活改善とケア
静脈瘤の手術は症状を改善するための大切なステップですが、術後の生活習慣も再発予防に重要です。ここでは、手術後の生活改善とケアについてご紹介します。
再発予防のための生活習慣
静脈瘤の再発を予防するためには、以下のような生活習慣の改善が効果的です:
- 長時間の立ち仕事や座り仕事では、こまめに足を動かす
- 適度な運動(ウォーキングなど)を継続する
- 肥満を防ぐための食生活と運動習慣
- きつい下着や靴下を避ける
- 足を組んで座る習慣を改める
これらの習慣は、下肢の血流を改善し、静脈に過度な圧力がかかるのを防ぎます。
定期的なフォローアップの重要性
手術後も定期的に医師の診察を受けることが大切です。術後の経過確認だけでなく、新たな静脈瘤の発生や再発の早期発見につながります。
多くの場合、術後1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月、1年といったタイミングでのフォローアップが推奨されます。その後も年に1回程度の定期検診を続けることで、長期的な健康管理が可能になります。
まとめ:静脈瘤手術後の回復と社会復帰
静脈瘤手術後の回復期間は、治療法によって異なりますが、現在主流となっている血管内焼灼術やグルー治療では、多くの場合、手術翌日から日常生活に復帰することが可能です。
回復のポイントをまとめると:
- 術後約1ヶ月間の弾性ストッキング着用(グルー治療では不要な場合も)
- 術後1週間程度は激しい運動を控える
- 適度な日常活動は推奨される
- 術後の一時的な症状(内出血、痛み、しびれなど)は通常時間とともに改善
- 再発予防のための生活習慣改善と定期的なフォローアップが重要
現在の静脈瘤治療は、身体への負担が少なく、早期社会復帰が可能な方法が主流となっています。適切な術後ケアを行うことで、合併症を予防し、健康な足を取り戻すことができるでしょう。
静脈瘤でお悩みの方は、まずは専門医に相談することをお勧めします。あなたの症状や生活スタイルに合わせた最適な治療法を提案してもらえるはずです。
健康の土台は足にあります。足の健康を取り戻して、活動的な毎日を送りましょう。
詳しい情報や治療についてのご相談は、西梅田静脈瘤・痛みのクリニックまでお気軽にお問い合わせください。
【著者】
西梅田 静脈瘤・痛みのクリニック 院長 小田 晃義
【略歴】
現在は大阪・西梅田にて「西梅田 静脈瘤・痛みのクリニック」の院長を務める。
下肢静脈瘤の日帰りレーザー手術・グルー治療(血管内塞栓術)・カテーテル治療、再発予防指導を得意とし、
患者様一人ひとりの状態に合わせたオーダーメイド医療を提供している。
早期診断・早期治療”を軸に、「足のだるさ・むくみ・痛み」の原因を根本から改善することを目的とした診療方針を掲げ、静脈瘤だけでなく神経障害性疼痛・慢性腰痛・坐骨神経痛にも対応している。
【所属学会・資格】
日本医学放射線学会読影専門医、認定医
日本IVR学会専門医
日本脈管学会専門医
下肢静脈瘤血管内焼灼術指導医、実施医
マンモグラフィー読影認定医
本記事は、日々の臨床現場での経験と、医学的根拠に基づいた情報をもとに監修・執筆しています。
インターネットには誤解を招く情報も多くありますが、当院では医学的エビデンスに基づいた正確で信頼性のある情報提供を重視しています。
特に下肢静脈瘤や慢性疼痛は、自己判断では悪化を招くケースも多いため、正しい知識を広く伝えることを使命と考えています。

