下肢静脈瘤手術後の回復期間と基本的な過ごし方
下肢静脈瘤の手術を受けた後、多くの患者さんは「どのように過ごせばいいのだろう?」と不安を抱えています。術後の痛みはどの程度なのか、いつから仕事に復帰できるのか、日常生活はどう送ればいいのか。
手術後の適切なケアは、回復を早めるだけでなく、再発予防にも大きく関わってきます。血管外科医として多くの下肢静脈瘤手術を担当してきた経験から、術後の理想的な過ごし方についてお伝えしていきます。
下肢静脈瘤の手術は、現在では日帰りで受けられる低侵襲な治療が主流となっています。レーザーや高周波による血管内焼灼術、グルー治療などの最新技術により、体への負担が少なく、回復も早くなっているのです。
術後は、約1時間程度の経過観察の後、問題がなければ歩いて帰宅することができます。驚かれる方も多いですが、実は手術直後からある程度の活動は推奨されているのです。
では、具体的に手術当日からの過ごし方を見ていきましょう。

手術当日の注意点
手術当日は、足に弾性包帯が巻かれています。この包帯は翌朝まで外さないでください。包帯の上から弾性ストッキングを着用する場合もあります。
歩行はもちろん可能です。むしろ、深部静脈血栓症を予防するためには、適度に動くことが推奨されます。帰宅途中に買い物をしたり、自宅での軽い家事などは問題ありません。
ただし、手術当日は以下の点に注意が必要です。
- 入浴・シャワーは避ける(弾性包帯を濡らさないため)
- 自動車・自転車の運転は控える(鎮静剤の影響が残っている可能性があるため)
- 飲酒は避ける(内出血や炎症が強くなる可能性があるため)
痛みについては個人差がありますが、多くの患者さんは「思ったほど痛くない」と言われます。10人中9人は鎮痛剤を服用しなくても過ごせるほどです。
でも、痛みを感じたら我慢する必要はありません。処方された鎮痛剤を適宜服用してください。
手術翌日以降の生活
手術翌日の朝には、ご自身で弾性包帯を外していただいて構いません。包帯を外した後は、弾性ストッキングを着用します。グルー治療の場合は弾性ストッキングが不要な場合もあります。
シャワー浴は包帯を外した直後から可能です。入浴も基本的には問題ありませんが、傷の状態によってはシャワーのみにしていただく場合もあります。
仕事への復帰は、基本的に手術翌日から可能です。デスクワークであれば問題なく復帰できますし、立ち仕事でも無理のない範囲で行っていただいて構いません。むしろ、適度に動くことで血行が促進され、回復を早める効果があります。
ただし、激しい運動については、術後1週間程度は控えていただくことをお勧めします。サッカー、テニス、ジョギングなどは、傷の状態や血管の回復具合を見てから徐々に再開するようにしましょう。
あなたは手術を受けたばかりなのに、こんなに早く日常生活に戻れるの?と驚くかもしれませんね。
現代の下肢静脈瘤治療は、以前のストリッピング手術と比べて格段に低侵襲になっています。だからこそ、早期の回復と日常生活への復帰が可能なのです。
下肢静脈瘤手術後によくある症状と対処法
手術後には、いくつかの症状が現れることがあります。これらは通常の回復過程で見られるもので、多くの場合は時間とともに自然に改善していきます。
でも、どんな症状が出るのか、どう対処すればいいのか知っておくことで、不安なく過ごせるようになります。よくある症状と対処法を見ていきましょう。
内出血(あざ)について
手術後、針で穿刺した部分や静脈瘤を切除した部分の周囲に内出血(青あざのようなもの)ができることがあります。これは個人差がありますが、ごく一般的な術後反応です。
内出血は重力の影響で移動することもあります。例えば、最初は太ももに出ていたものが、数日後には膝の方に移動していることもあります。これも正常な経過ですので心配いりません。
内出血は通常、1〜2週間程度で自然に吸収され、消えていきます。特別な処置は必要ありません。
つっぱり感と違和感

血管内焼灼術を受けた方は、治療した血管に沿ってつっぱり感や違和感を感じることがあります。特に太ももの治療を受けた方は、足を曲げたり伸ばしたりする際に感じやすいです。
これは焼灼された静脈が徐々に硬く縮んでいく過程で起きる正常な反応です。多くの場合、1〜2ヶ月かけて徐々に軽快していきます。
長時間座っていて立ち上がる瞬間に強く感じることが多いですが、歩き始めると自然と楽になるのが特徴です。
もし、つっぱり感が強く不快な場合は、ウォーキングなどの軽い運動が効果的です。血行が促進されることで、症状の緩和につながります。
あなたは「いつまでこの違和感が続くの?」と心配かもしれませんが、個人差はあるものの、多くの場合は時間とともに改善していきます。
しこりについて
術前にボコボコと目立っていた静脈瘤の部分に、術後もしばらく「しこり」のような硬さや盛り上がりが残ることがあります。これは焼灼や塞栓によって閉塞された血管が、体内でゆっくりと吸収されていく過程で見られるものです。
個人差はありますが、おおよそ3〜6ヶ月ほどで自然に平坦化していきます。特別な処置は必要ありませんが、気になる場合は診察時に医師に相談してください。
弾性ストッキングの重要性と正しい着用方法
下肢静脈瘤の治療と進行予防において、医療用弾性ストッキングは欠かせません。術後の回復を促進し、合併症を予防するために、適切な着用が重要です。
弾性ストッキングは、足首の部分がもっとも圧迫圧が高く、上方にいくにしたがって圧迫圧が低くなるように設計されています。この段階的な圧迫により、ふくらはぎの筋肉を適度に圧迫し、血管の断面積を縮小させることで、足の静脈の血液が下から上に流れやすくなります。
弾性ストッキングの効果
弾性ストッキングには以下のような効果があります:
- 静脈の血管径を縮小させ、逆流を抑える
- 血管の本来の働きを改善させる
- 静脈の逆流防止弁が正常に作用するよう促す
- 血栓予防や血液のうっ滞を回避する
- 足のむくみやだるさなどの症状を緩和する
多くの患者さんは着用中に「足が軽くなった」と即効性を実感されます。これは正常な血液の流れが促進された証拠です。

着用期間と方法
下肢静脈瘤の手術後は、約1ヶ月間、弾性ストッキングを着用していただきます。ただし、グルー治療の場合は不要なこともあります。
着用時間は、起床時から就寝前までです。寝ている間は外して構いません。ただし、長時間のフライトなど、血栓リスクが高まる状況では、就寝中も着用することをお勧めします。
正しい着用方法も重要です。しわやたるみがないように注意して着用してください。きつすぎると血行不良を起こす可能性があり、逆に緩すぎると効果が得られません。
弾性ストッキングの着用に慣れないうちは、朝起きてすぐ、むくみが少ない状態で着用すると比較的楽に履けます。また、ゴム手袋を使用すると滑りがよくなり、着用しやすくなります。
下肢静脈瘤手術後の食事と生活習慣
手術後の回復を促進し、再発を予防するためには、適切な食事と生活習慣も重要です。特に注意すべき点を見ていきましょう。
食事について
手術後の食事に特別な制限はありませんが、バランスの良い食事を心がけることで、回復を促進し、静脈瘤の再発リスクを減らすことができます。
特に以下の点に注意するとよいでしょう:
- 水分を十分に摂取する(脱水を防ぎ、血液の粘度を下げる効果があります)
- 食物繊維を多く含む食品を摂る(便秘を防ぎ、腹圧上昇による静脈への負担を減らします)
- 塩分の摂りすぎに注意する(むくみの原因になります)
- ビタミンCやビタミンEを含む食品を摂る(血管の健康維持に役立ちます)
手術当日は、水分は手術直前まで積極的に摂取してください。ただし、手術の6時間前からはゼリー状・ヨーグルト状のものは控えてください。
手術後は食事の制限はありませんので、手術直後からいつも通りのお食事をしていただいて構いません。
飲酒について
飲酒については、手術当日と翌日の2日間は禁酒としてください。アルコールによって炎症や内出血が強く出ることを防ぐためです。
その後は適量であれば問題ありませんが、大量の飲酒は血管を拡張させ、痛みが増したり、回復を遅らせたりする可能性がありますので注意が必要です。
運動と日常活動
適度な運動は血行を促進し、回復を早める効果があります。特にウォーキングは、ふくらはぎの筋肉を動かすことで「第二の心臓」と呼ばれる筋ポンプ機能を活性化させ、静脈の血流を改善します。
一方で、長時間の同じ姿勢は避けるようにしましょう。特に立ちっぱなしや座りっぱなしの状態が続くと、足の静脈に血液がうっ滞しやすくなります。
デスクワークの方は、1時間に一度は立ち上がって、足首を回したり、つま先立ちを数回行うなど、簡単な運動を取り入れるとよいでしょう。
また、長時間のフライトや車での移動の際は、足首を回す、つま先を上下に動かすなどの簡単な運動を定期的に行い、エコノミークラス症候群を予防しましょう。
下肢静脈瘤手術後の注意すべき症状と対応
術後の経過は通常良好ですが、稀に注意が必要な症状が現れることがあります。早期発見・早期対応が重要ですので、以下の症状が現れた場合は、速やかに医療機関に相談してください。
静脈血栓症について
血管の手術後は血が固まりやすく、血栓(けっせん)という血の固まりができやすい状態になります。浅い部分の血栓であれば大きな問題はありませんが、深部静脈血栓症は肺塞栓症などの重篤な合併症を引き起こす可能性があります。
以下のような症状が現れた場合は、深部静脈血栓症の可能性がありますので、すぐに医療機関を受診してください:
- 片側の足だけが急に腫れる
- 足に強い痛みがある
- 足が赤く熱を持つ
- 突然の息切れや胸痛がある
深部静脈血栓症を予防するためには、弾性ストッキングの着用と適度な運動が重要です。特に長時間同じ姿勢を取り続けることは避けましょう。
創部の感染
術後の傷は通常小さく、縫合が必要ないことがほとんどです。しかし、稀に創部に感染が生じることがあります。
以下のような症状が見られた場合は、創部感染の可能性がありますので、医療機関に相談してください:
- 創部の発赤・腫脹・熱感が強くなる
- 創部から膿が出る
- 38度以上の発熱がある
創部は清潔に保ち、指示された通りのケアを行うことが大切です。
術後の痛みが強い場合
術後の痛みは個人差がありますが、通常は鎮痛剤でコントロール可能な程度です。しかし、鎮痛剤を服用しても痛みが強く続く場合や、急に痛みが強くなった場合は、何らかの合併症の可能性がありますので、医療機関に相談してください。
下肢静脈瘤手術後の長期的な管理と再発予防
下肢静脈瘤の手術は高い効果が期待できますが、生活習慣や体質によっては再発する可能性もあります。長期的な視点での管理と再発予防が重要です。
定期的な経過観察
手術後は、医師の指示に従って定期的に経過観察を受けることをお勧めします。通常、術後1週間、1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月、1年と経過を見ていきます。
経過観察では、治療した静脈の状態や新たな静脈瘤の発生がないかをチェックします。早期に異常を発見することで、適切な対応が可能になります。
再発予防のための生活習慣
下肢静脈瘤の再発を予防するためには、以下のような生活習慣を心がけましょう:
- 適度な運動を継続する(特にウォーキングがおすすめ)
- 長時間の立ち仕事や座り仕事では、定期的に姿勢を変える
- 肥満を避ける(体重管理)
- 弾性ストッキングの着用(特に立ち仕事の方や長時間のフライトの際)
- 十分な水分摂取
- バランスの良い食事
これらの習慣は、静脈の健康を維持し、再発リスクを減らすのに役立ちます。
まとめ:下肢静脈瘤手術後の理想的な過ごし方
下肢静脈瘤の手術後は、適切なケアと生活習慣の改善により、早期の回復と再発予防が可能です。
手術当日から適度に動くこと、弾性ストッキングの正しい着用、バランスの良い食事と水分摂取、定期的な経過観察など、基本的なポイントを押さえることが大切です。
現代の下肢静脈瘤治療は低侵襲化が進み、術後の回復も早くなっています。適切なケアと医師の指示に従うことで、多くの患者さんが手術後すぐに日常生活に復帰し、症状の改善を実感されています。
もし術後の経過に不安がある場合は、遠慮なく担当医に相談してください。一人ひとりの状態に合わせた適切なアドバイスを受けることが、最良の回復への道です。
下肢静脈瘤でお悩みの方や、手術後のケアについてさらに詳しく知りたい方は、専門医療機関での相談をお勧めします。西梅田静脈瘤・痛みのクリニックでは、下肢静脈瘤の日帰り手術から術後のケアまで、一人ひとりに合わせた最適な治療を提供しています。
【著者】
西梅田 静脈瘤・痛みのクリニック 院長 小田 晃義
【略歴】
現在は大阪・西梅田にて「西梅田 静脈瘤・痛みのクリニック」の院長を務める。
下肢静脈瘤の日帰りレーザー手術・グルー治療(血管内塞栓術)・カテーテル治療、再発予防指導を得意とし、
患者様一人ひとりの状態に合わせたオーダーメイド医療を提供している。
早期診断・早期治療”を軸に、「足のだるさ・むくみ・痛み」の原因を根本から改善することを目的とした診療方針を掲げ、静脈瘤だけでなく神経障害性疼痛・慢性腰痛・坐骨神経痛にも対応している。
【所属学会・資格】
日本医学放射線学会読影専門医、認定医
日本IVR学会専門医
日本脈管学会専門医
下肢静脈瘤血管内焼灼術指導医、実施医
マンモグラフィー読影認定医
本記事は、日々の臨床現場での経験と、医学的根拠に基づいた情報をもとに監修・執筆しています。
インターネットには誤解を招く情報も多くありますが、当院では医学的エビデンスに基づいた正確で信頼性のある情報提供を重視しています。
特に下肢静脈瘤や慢性疼痛は、自己判断では悪化を招くケースも多いため、正しい知識を広く伝えることを使命と考えています。

