コラム

2025.06.19

下肢静脈瘤の重症度分類〜専門医が教える症状と治療選択

下肢静脈瘤とは?基本的な理解から始めましょう

下肢静脈瘤は、足の静脈が拡張して瘤状に浮き出る状態を指します。この疾患は単なる美容上の問題ではなく、進行すると様々な症状や合併症を引き起こす可能性がある血管の病気です。

静脈の役割は、老廃物や二酸化炭素を含む血液を心臓に戻すことにあります。足の静脈には、血液が逆流しないように5〜10cm間隔で静脈弁が付いています。この弁が正常に機能していれば、血液は心臓方向にのみ流れるのです。

しかし、何らかの原因でこの静脈弁が機能しなくなると、血液が重力に逆らえずに逆流し、足に溜まってしまいます。血管内の血液量が増えると、静脈は拡張・延長し、さらに進行すると蛇行して瘤状に膨らむようになります。これが下肢静脈瘤の基本的なメカニズムです。

日本では10人に1人が下肢静脈瘤を発症しており、特に経産婦では2人に1人が診断されるほど女性に多い疾患です。立ち仕事や妊娠が影響するため、女性の発症率は男性の2〜3倍と言われています。

下肢静脈瘤は放置しても命に関わる病気ではありませんが、症状が進行すると日常生活に支障をきたすことがあります。適切な診断と治療を受けることで、症状の改善や進行の予防が可能です。

下肢静脈瘤の種類と重症度分類

下肢静脈瘤は見た目や症状の程度によって、いくつかの種類に分けられます。まずは基本的な分類から見ていきましょう。

下肢静脈瘤は大きく「一次性静脈瘤」と「二次性静脈瘤」に分けられます。一次性静脈瘤は表在静脈の拡張や弁不全によるもので、二次性静脈瘤は深部静脈血栓症や妊娠、悪性腫瘍などが原因で生じるものです。

肉眼的所見による4つの型

一次性静脈瘤は、見た目の特徴から以下の4つに分類されます:

  • 1.クモの巣状静脈瘤:直径1mm以下の細い静脈が集まったもの。明るい照明下では2m離れると正常に見えます。
  • 2.網の目状静脈瘤:直径1mm〜3mm未満の青みがかった拡張した静脈で、通常屈曲しています。
  • 3.側枝型静脈瘤:末梢の静脈枝が拡張したもので、下腿に多く見られます。伏在静脈の分枝部分や穿通枝の弁不全によって起こることが多いです。
  • 4.伏在型静脈瘤:大伏在または小伏在静脈の本幹またはその大きな枝が拡張したもの。血管の浮き出りだけでなく、腫脹や色素沈着、潰瘍といった症状が現れることもあります。

CEAP分類による重症度評価

下肢静脈瘤の臨床的な重症度を評価する国際的な基準として「CEAP分類」があります。これは慢性静脈疾患の進行度を示すもので、C0〜C6の7段階に分類されます。

  • C0:視診・触診で静脈病変を認めない
  • C1:毛細血管拡張症(直径1mm以下)または網目状静脈(直径1〜3mm)
  • C2:静脈瘤(直径3mm以上)
  • C3:浮腫
  • C4a:色素沈着または湿疹
  • C4b:脂肪皮膚硬化症または白色萎縮
  • C5:治癒した潰瘍
  • C6:活動性潰瘍

この分類では、C0〜C1が軽症、C2〜C3が中等症、C4〜C6が重症と考えられます。重症度が上がるにつれて、治療の必要性も高まります。

軽症の場合は見た目が気になる方のみ治療の対象となりますが、中等症になると足の重さやだるさ、こむら返りなどの症状が現れます。重症になると皮膚症状が出現し、治療が必須となります。

下肢静脈瘤の症状と合併症

下肢静脈瘤の症状は、静脈に老廃物を含んだ血液が溜まることで発生します。患者さんが訴える症状は様々ですが、見た目の問題だけでなく、生活の質に影響を与える症状も多くあります。

足がだるい、重い感じがするという症状が最も多く、全体の56%を占めています。次いで、むくみが9%、かゆみが6%、こむら返りが5%と続きます。

主な症状

  • 足のだるさ・重さ
  • 足のむくみ(特に足首が強い)
  • こむら返り(特に夜間)
  • かゆみ
  • 足の血管の浮き出り
  • 足の冷え
  • 靴下の跡が残る
  • 夕方になると靴やブーツがきつくなる
  • 朝になっても足のむくみが取れない

これらの症状は立ちっぱなしの仕事や座りっぱなしの仕事をしている方に多く見られます。多くの場合、朝は症状が軽く、日中活動するにつれて悪化し、夕方から夜にかけて最も強くなるという特徴があります。

進行に伴う合併症

下肢静脈瘤が進行すると、以下のような合併症が現れることがあります。

色素沈着・湿疹・かゆみなどの皮膚症状が出現した状態を「うっ滞性皮膚炎」といいます。これは皮膚の血液循環が悪くなっていることを意味し、かゆみで皮膚をかきこわしたり、ケガをした場合に傷の治りが悪くなります。

さらに進行すると、皮膚潰瘍になることもあります。皮膚脂肪硬化になると皮膚が炎症を起こし、痛みを感じるようになります。

これらの皮膚症状が現れた場合は、好むと好まざるにかかわらず治療が必要です。放置すると症状が悪化し、日常生活に大きな支障をきたす可能性があります。

下肢静脈瘤の診断方法

下肢静脈瘤の診断は、視診・触診による評価と超音波検査が基本となります。特に超音波検査は、静脈弁不全の有無や程度、血流の状態を詳細に評価できる重要な検査です。

まずは問診で症状の経過や程度、生活習慣などを確認します。次に視診で静脈瘤の状態を観察し、触診で圧痛や硬結の有無を調べます。

超音波検査の重要性

超音波検査(エコー検査)は下肢静脈瘤の診断において最も重要な検査です。この検査では、静脈の拡張具合や弁の機能、血流の方向などを詳細に評価することができます。

特に、足の血管の目立ちやこぶがないにもかかわらず、静脈弁不全による足のだるさやつりだけが症状として出現する場合もあります。このような場合でも超音波検査で診断可能であり、静脈弁不全と症状の関連が強ければ治療対象になります。

超音波検査は痛みもなく、放射線被曝もない安全な検査です。検査時間も15〜30分程度で済むことが多いです。

その他の検査

症例によっては、以下のような追加検査が行われることもあります。

  • Dダイマー検査:血液検査の一種で、深部静脈血栓症のスクリーニングに用いられます。Dダイマー値が高い場合は、深部静脈血栓症の可能性を考慮して精密検査を行います。
  • 静脈造影検査:造影剤を注入して静脈の状態を詳細に観察する検査です。現在は超音波検査の精度が向上しているため、あまり行われなくなっています。
  • CT検査・MRI検査:複雑な症例や、他の疾患との鑑別が必要な場合に行われることがあります。

これらの検査結果と症状の程度を総合的に評価し、適切な治療方針を決定します。

下肢静脈瘤の治療が必要な場合

下肢静脈瘤は良性の疾患であり、放置しても寿命を縮めたり歩けなくなったりすることはありません。では、どのような場合に治療が必要なのでしょうか?

下肢静脈瘤の治療が必要な場合は、主に以下の3つです。

  • 1.見た目が気になる方
  • 2.自覚症状に困っている方
  • 3.うっ滞性皮膚炎の方

重症度別の治療の必要性

CEAP分類に基づいた重症度によって、治療の必要性は異なります。

軽症(C1)の場合、見た目が気になる方は治療の対象になりますが、気にならない方は治療の必要はありません。治療方法は保険診療では硬化療法、自由診療では皮膚レーザー照射が選択肢となります。

中等症(C2〜C3)になると、足の重さ、だるさ、ほてり、こむら返り、足のむくみなど、何らかの症状が出てきます。治療により症状の改善が見込めるため、症状がつらいと感じる方は治療を受けるとよいでしょう。治療方法は弾性ストッキングによる圧迫療法またはカテーテルによる血管内焼灼術が選択肢となります。

症状はあるけれど特に苦にならない場合は経過観察でも構いませんが、下肢静脈瘤は自然治癒しない病気であり、徐々に進行することを理解しておく必要があります。

重症(C4〜C6)の場合、皮膚症状が出現しているため治療が必須です。治療方法は圧迫療法とカテーテルによる血管内焼灼術を併せて行う必要があります。

治療を受けるかどうかは、症状の程度や生活への影響、患者さん自身の希望などを考慮して決定します。特に皮膚症状が現れた重症例では、合併症予防のためにも積極的な治療が推奨されます。

下肢静脈瘤の主な治療法

下肢静脈瘤の治療法は大きく分けて、「保存的治療」「硬化療法」「外科手術」「血管内治療」の4つがあります。それぞれの治療法には特徴があり、静脈瘤のタイプや患者さんの状態によって適切な治療法を選択します。

1. 保存的治療

保存的治療は、手術や薬を用いずに症状を改善したり進行を予防したりする治療法です。主に弾性ストッキングによる圧迫療法が中心となります。

弾性ストッキングは、足に血液が溜まらないよう(うっ滞しないよう)ふくらはぎを圧迫します。これにより、静脈血の心臓への還流を促進し、症状の緩和が期待できます。

保存的治療は根本的な解決策ではありませんが、軽度から中等度の症状に対して効果的です。また、他の治療法と併用されることも多いです。

2. 硬化療法

硬化療法は、静脈瘤に硬化剤というお薬を直接注射し、血管をつぶす治療法です。注射後1週間程度で血管は硬くなり、時間とともに退化して小さく細くなります。半年から1年ほど経過すると、最終的に体内に吸収されて目立たなくなります。

受診日当日にできる簡易的な治療で、10分程度で終わります。非常に細い針を使用するため、治療時の痛みはほとんどありません。

主にクモの巣状静脈瘤や網目状静脈瘤など、細い静脈瘤に対して効果的です。大きな静脈瘤には適していません。

3. 血管内治療

血管内治療は、低侵襲治療の一種で、カテーテルという細い管を血管内に挿入し、内部から静脈を焼いてふさぐ方法です。主に以下の2種類があります。

  • 血管内焼灼術:高周波(ラジオ波)またはレーザーを使用して静脈を焼く治療法です。皮膚を切らずに行え、日帰りで治療可能です。
  • グルー治療:医療用接着材(グルー)を使用して血管を塞栓する治療法です。こちらも日帰りで行えます。

血管内治療は2011年から保険適用となり、下肢静脈瘤治療の敷居を下げることに成功した画期的な治療法です。体への負担が少なく、回復も早いのが特徴です。

4. 外科手術

外科手術には主に以下の2種類があります。

  • ストリッピング手術:静脈を切除し、引き抜く方法です。100年以上前から行われている手術で、血管内治療が普及する前は最も一般的でした。
  • 高位結紮術:逆流している静脈血管の根本を糸でくくって逆流を止める手術法です。再発率が高いため、現在はほとんど行われていません。

ストリッピング手術は日帰り治療とはいかず入院が必要になることが多く、皮膚を切開する必要があります。そのため、日帰りでできて皮膚を切る必要がない血管内治療が普及した現在では、行う病院は少なくなっています。

ただし、大きく蛇行した血管や原因となっている静脈が皮膚から盛り上がっているような場合は、ストリッピング術が選択されることもあります。

治療法の選択基準と各治療法のメリット・デメリット

下肢静脈瘤の治療法は、患者さんの症状や静脈瘤のタイプ、生活スタイルなどを考慮して選択します。ここでは、治療法の選択基準と各治療法のメリット・デメリットについて解説します。

治療法の選択基準

治療法を選択する際は、主に以下の点を考慮します。

  • 静脈瘤のタイプと重症度
  • ・患者さんの年齢や全身状態
  • ・症状の程度と日常生活への影響
  • ・患者さんの希望(日帰り治療か入院治療か、など)
  • ・再発リスク

身体への負担が軽い順に並べると、1.圧迫療法(弾性ストッキング)、2.注射(硬化療法)、3.血管内治療、4.ストリッピング手術・高位結紮術となります。

当然、患者さんにとっては身体への負担が軽い治療法の方が良いでしょう。現在ではほとんどの病院で1〜3の治療法が主流となっています。

各治療法のメリット・デメリット

  1. 保存的治療(弾性ストッキング)

メリット:侵襲がなく安全/即効性がある/費用が比較的安い

デメリット:根本的な治療ではない/継続して使用する必要がある/装着が面倒、特に夏場は暑い

  1. 硬化療法

メリット:日帰りで短時間に治療可能/痛みが少ない/傷跡がほとんど残らない

デメリット:大きな静脈瘤には効果が限定的/複数回の治療が必要なことがある/色素沈着などの副作用の可能性

  1. 血管内治療

メリット:日帰りで治療可能/傷跡が小さい/回復が早い/再発率が比較的低い

デメリット:技術的に難しい場合がある/神経損傷などの合併症のリスク(ただし低確率)/保険適用条件がある/ストリッピング手術

ストリッピング手術              

メリット:効果が確実/大きな静脈瘤にも対応可能/一度の治療で完了することが多い

デメリット:入院が必要なことが多い/傷跡が残る/回復に時間がかかる/神経損傷などの合併症のリスクがやや高い

治療法の選択は、医師との十分な相談の上で決定することが重要です。自分の症状や生活スタイルに合った治療法を選ぶことで、より良い結果が期待できます。

下肢静脈瘤の予防と日常生活での注意点

下肢静脈瘤は完全に予防することは難しいですが、リスクを減らし、症状の進行を遅らせるための方法があります。ここでは、下肢静脈瘤の予防法と日常生活での注意点について解説します。

下肢静脈瘤の予防法

下肢静脈瘤のリスクを減らすためには、以下のような予防法が効果的です。

  • 適度な運動:ウォーキングや水泳などの有酸素運動は、ふくらはぎの筋肉を鍛え、血液循環を促進します。
  • ・体重管理:肥満は下肢静脈瘤のリスク因子となるため、適正体重を維持することが重要です。
  • ・弾性ストッキングの着用:リスクの高い方や初期症状がある方は、弾性ストッキングの着用が効果的です。
  • ・長時間の立ち仕事や座り仕事を避ける:可能であれば、定期的に姿勢を変えたり、足を動かしたりしましょう。

・特に立ち仕事や座り仕事が多い方、妊娠中の方、家族に下肢静脈瘤の方がいる方は、予防を意識することが大切です。

日常生活での注意点

下肢静脈瘤がある方は、日常生活で以下のような点に注意すると症状の緩和に役立ちます。

  • ・足を高くして休む:就寝時や休憩時に足を心臓より高い位置に上げると、血液の還流が促進されます。
  • ・長時間の同じ姿勢を避ける:1時間に1回程度は姿勢を変えたり、足を動かしたりしましょう。
  • ・きつい衣類を避ける:足首や太ももを締め付ける衣類は血液循環を妨げるため避けましょう。
  • ・温度管理:高温は静脈を拡張させるため、長時間の入浴や熱いお風呂、サウナは控えめにしましょう。
  • ・保湿ケア:皮膚の乾燥はかゆみや湿疹の原因になるため、保湿ケアを心がけましょう。

また、症状がある方は医師の指導のもと、適切な弾性ストッキングを着用することが重要です。弾性ストッキングは朝起きてすぐ、足がむくむ前に着用するのが効果的です。

症状悪化時の対応

以下のような症状がある場合は、早めに医療機関を受診しましょう。

  • ・急に足が腫れた、痛みが強くなった
  • ・皮膚に湿疹や潰瘍ができた
  • ・静脈瘤から出血した
  • ・足の色が急に変わった

特に静脈瘤からの出血は、圧迫して止血し、すぐに医療機関を受診してください。

まとめ:下肢静脈瘤と上手に付き合うために

下肢静脈瘤は多くの方が経験する疾患ですが、適切な知識と対処法を身につけることで、症状を軽減し、快適な生活を送ることができます。

下肢静脈瘤は静脈弁の機能不全により血液が逆流し、静脈が拡張・蛇行する疾患です。重症度はCEAP分類によりC0〜C6の7段階に分けられ、症状が進行するにつれて治療の必要性が高まります。

治療が必要なのは、見た目が気になる方、自覚症状に困っている方、うっ滞性皮膚炎の方です。特に皮膚症状が出現した重症例では、合併症予防のためにも積極的な治療が推奨されます。

治療法には保存的治療、硬化療法、血管内治療、外科手術があり、それぞれ特徴やメリット・デメリットがあります。患者さんの症状や静脈瘤のタイプ、生活スタイルなどを考慮して、最適な治療法を選択することが重要です。

予防と日常生活での注意点としては、適度な運動、体重管理、弾性ストッキングの着用、長時間の同じ姿勢を避けることなどが挙げられます。

下肢静脈瘤は完治が難しい疾患ですが、早期発見・早期治療により症状の改善や進行の予防が可能です。気になる症状がある方は、専門医に相談することをお勧めします。

当院では下肢静脈瘤の日帰り手術や、患者様の病態やご希望に応じた治療法を提供しています。お気軽にご相談ください。

詳細は西梅田静脈瘤・痛みのクリニックのウェブサイトをご覧いただくか、お電話でお問い合わせください。

著者

西梅田 静脈瘤・痛みのクリニック 院長 小田 晃義

略歴

大学卒業後、外科・麻酔科・ペインクリニック領域にて幅広い臨床経験を積み、

現在は大阪・西梅田にて「西梅田 静脈瘤・痛みのクリニック」の院長を務める。

下肢静脈瘤の日帰りレーザー手術、慢性疼痛に対する神経ブロック治療、再発予防指導を得意とし、

患者様一人ひとりの状態に合わせたオーダーメイド医療を提供している。

早期診断・早期治療”を軸に、「足のだるさ・むくみ・痛み」の原因を根本から改善することを目的とした診療方針を掲げ、静脈瘤だけでなく神経障害性疼痛・慢性腰痛・坐骨神経痛にも対応している。

所属学会・資格

日本医学放射線学会読影専門医、認定医

日本IVR学会専門医

日本脈管学会専門医

下肢静脈瘤血管内焼灼術指導医、実施医

マンモグラフィー読影認定医

 

本記事は、日々の臨床現場での経験と、医学的根拠に基づいた情報をもとに監修・執筆しています。

インターネットには誤解を招く情報も多くありますが、当院では医学的エビデンスに基づいた正確で信頼性のある情報提供を重視しています。

特に下肢静脈瘤や慢性疼痛は、自己判断では悪化を招くケースも多いため、正しい知識を広く伝えることを使命と考えています。