コラム

2025.07.24

テニス肘にハイドロリリースが効果的な理由と治療の実際

テニス肘とは?痛みの原因と症状

テニス肘(上腕骨外側上顆炎)は、肘の外側が痛くなる頻度の高い疾患です。40代、50代の年齢層に多く見られ、男女差はありません。テニスやバドミントンなどのラケット競技をされる方に多い疾患ですが、テニスをしていなくても日常動作や仕事で腕を使い過ぎることで発生することもあります。

テニス肘は単なる使い過ぎで発症するのではなく、肘の外側にある手首や指を伸ばす短橈側手根伸筋や総指伸筋と呼ばれる腱の炎症が強く関係しています。腱はコラーゲンでできており、年齢とともに脆くなります。そのため、スポーツに限らず日常生活のちょっとした使い過ぎで腱を痛めてしまうのです。

ちょっとした動作で損傷が起こった場合、その動作が生活中に繰り返されるために損傷が治る時間が作れず、損傷し続けてしまいます。これが腱の損傷が治りにくい理由です。

痛みが出現して病院を受診した頃には、かなり腱の障害が進んでしまっていることも少なくありません。当クリニックでは、できるだけ超音波検査やMRIを行い、腱の状態を調べどの程度損傷されているかを評価しています。

テニス肘が治りにくい理由と炎症の悪循環

テニス肘の治療において重要なのは、早期発見と適切な治療です。人間には自然治癒力が備わっていますが、腱の損傷の修復には2~3ヶ月が必要で、なかなか完治まで休めない方が多いのが実情です。

さらに、自然治癒力には期限があり、通常受傷後3ヶ月でその能力は下がってきます。痛みに気づいてからなるべく腱を休ませ、3ヶ月以内に治るように努力することが大切なのです。

最初の損傷が治らずに数ヶ月間損傷し続けてしまうと、修復のためにおきた血流増加反応が過剰におこり、痛みの神経と炎症血管増殖、局所の血流低下、浮腫を起こすようになります。

こうなるとなかなか修復反応が起こりにくくなり、炎症がつづく慢性期(難治性)となってしまいます。慢性期には、瘢痕組織とよばれる炎症組織がはびこり正常な腱の再生は起こらなくなります。

これを防ぐには、できるだけ炎症を長引かせないことが大切です。炎症の原因である炎症血管や神経をなくす様々な治療法を使って炎症の悪循環を断ち切り、組織の修復・再生を促していくことが重要になります。

どうですか?あなたも肘の外側の痛みが長引いているなら、早めの受診をおすすめします。

ハイドロリリースとは?テニス肘治療の新しいアプローチ

ハイドロリリースとは、超音波(エコー)ガイド下で筋膜と周辺組織を確認しながら薬液を注入する治療法です。テニス肘をはじめとする様々な整形外科疾患に効果があります。

この治療法は、痛みやこりを伴う部位に生理食塩水や乳酸リンゲル液などを注射することで、その部位の癒着、動き低下、循環不全、神経への刺激を解消させます。硬くなったスポンジに水を垂らすと柔らかくなるようなイメージです。

人間の体は、スポーツの怪我、運動のしすぎ、悪い姿勢の継続、加齢などによって、筋肉、筋膜、神経、靭帯、関節といったあらゆる組織が硬くなり、くっついて、その本来の動きや滑りを妨げます。場合によっては神経にその刺激が入り痛みを出します。

ハイドロリリースはその硬くなった組織を柔らかくし(柔軟性改善)、動きを改善(癒着解除)、圧迫を緩める(除圧)、疼痛物質を薄める(除痛)と考えられています。

最近の研究で、トリガーポイントと呼ばれる痛みの部位は、Fascia=ファシアと呼ばれる部位、すなわち筋肉や筋膜、腱や靭帯、脂肪組織といったいろいろな結合組織に存在することがわかってきています。

このファシアは、様々な組織のスキマに存在し、お互いに連結してからだの動きを制限したり協調したりしています(ファシアの連動)。長年の姿勢の悪さや、怪我などによって、ファシアが硬くなったり、隣の組織と癒着して動きを制限し、痛み物質が貯留したり、神経そのものを圧迫絞扼することで、肩こり、腰痛、五十肩や神経痛などがおこると言われています。

テニス肘に対するハイドロリリースの効果メカニズム

テニス肘に対するハイドロリリースが効果的な理由は、この治療法が腱の損傷と炎症の悪循環に直接アプローチするからです。では、具体的にどのようなメカニズムで効果を発揮するのでしょうか。

まず、エコーガイド下ハイドロリリースでは、エコーで白く重積したファシアを確認して、薬液を注射することで、くっついた組織をはがし、また痛み物質を押し流すことができます。エコーで、注射後に筋膜の滑走の改善を確認したり、周囲の血管の拍動の増大をみとめ、効果を確認します。そして何より、疼痛が一気に改善します。

薬液は生理食塩水(塩水)か乳酸リンゲル液ですので、妊婦さんでも子供さんでも、安心して使用することができます。

筋肉や腱の病気と考えられていたテニス肘や肩こりなども、筋肉が硬くなり、その間を通る神経が挟まって症状を出していることがわかっています。ハイドロリリースは、この神経の圧迫も改善する「末梢神経リリース」としての効果も期待できます。

テニス肘の場合、肘の外側にある短橈側手根伸筋や総指伸筋の腱の付着部に炎症が起き、その周囲のファシアも硬くなっています。ハイドロリリースでは、この硬くなったファシアを柔らかくし、腱の付着部周囲の炎症を和らげることで痛みを軽減します。

さらに、ハイドロリリースは通常のブロック注射と比べて副作用のリスクが少なく、麻酔の効果が切れた後も効果が長持ちするという利点があります。これは、単に痛みを一時的に抑えるだけでなく、組織の状態そのものを改善するアプローチだからです。

ハイドロリリース治療の実際:施術の流れと患者体験

ハイドロリリース治療は、どのような流れで行われるのでしょうか?実際の施術の様子と患者さんが体験することについて詳しく見ていきましょう。

まず、診察で痛みの部位や症状を確認した後、超音波(エコー)検査を行います。エコーを使うことで、痛みの原因となっている部位を正確に特定できます。テニス肘の場合は、肘の外側の腱付着部とその周囲のファシアの状態を確認します。

エコーで白く重積した異常ファシアを確認できたら、治療に移ります。施術前に皮膚を消毒し、必要に応じて少量の局所麻酔を使用することもあります。

ハイドロリリースでは、エコーガイド下で細い針を使って生理食塩水や乳酸リンゲル液を注入します。針を刺す際の痛みは、細い針を使用するため、ほとんどの場合は軽微です。ハイドロリリースでは少量の麻酔を一緒に注射するため、痛みが少ないことが特徴です。

治療中は、エコー画面で針先の位置と薬液の広がりを確認しながら進めていきます。患者さんによっては、薬液が広がる感覚や、固まっていた組織がほぐれる感覚を感じることもあります。

治療時間は通常5分程度で終了します。治療後は、多くの患者さんがその場で痛みの軽減を実感されます。

ハイドロリリースの効果は人それぞれですが、1回で効果が出る方もいらっしゃいます。治療にかかる期間や回数はファシアの状況などで変化するため、一概には言えません。治療効果を高めるには、理学療法などと併用することもおすすめです。

治療後は特別な制限はなく、当日の入浴も可能です。ただし、治療直後は激しい運動は避け、徐々に日常活動に戻ることをお勧めします。

テニス肘の総合的治療アプローチ:ハイドロリリースと併用療法

テニス肘の効果的な治療には、ハイドロリリースだけでなく、様々な治療法を組み合わせた総合的なアプローチが重要です。ここでは、ハイドロリリースと併用できる治療法について見ていきましょう。

テニス肘の治療には、様々なものがありますが、通常、痛みの少ない治療から選択します。治りにくい症例には、注射や再生医療、手術などの治療法を選択することになります。

初期治療の選択肢(注射以外)

まず試したい治療としては、リハビリテーション、マッサージ、ストレッチ、体外衝撃波治療(ショックウェーブ)、超音波治療、テーピング・装具、薬物治療などがあります。

リハビリテーションでは、筋腱・関節の柔軟性改善、癒着はがし、運動機能改善、日常生活の指導を行います。マッサージやストレッチは自己で行うコンディショニングとして効果的です。

体外衝撃波治療(ショックウェーブ)は、衝撃波による神経・炎症血管の減少、修復細胞活性化を促します。超音波治療は、微細振動による組織血流増加、腫脹軽減に効果があります。

テーピング・装具は腱にかかる負荷を減らして保護し、薬物治療は疼痛炎症の緩和に役立ちます。

ハイドロリリースと併用する治療法

ハイドロリリースの効果をさらに高めるためには、以下の治療法との併用が効果的です。

理学療法は、ハイドロリリースで改善した組織の状態を維持し、さらに機能を向上させるのに役立ちます。特に、腱の柔軟性を高め、筋力を適切に回復させるエクササイズが重要です。

生活習慣の改善や運動を同時進行で行い、治療をスムーズに進めることも大切です。特に、テニス肘の原因となった動作や姿勢の修正は再発防止に欠かせません。

また、当クリニックでは再生医療の一環として、幹細胞培養上清による治療も行っています。幹細胞から分泌される成長因子やサイトカイン等の生理活性物質が、体内の幹細胞や再生能力の高い細胞に直接働きかけて組織の再生を促す治療法です。難治性のテニス肘に対して効果が期待できます。

治療効果を長期的に維持するためには、患者さん自身による自己管理も重要です。適切なストレッチやエクササイズ、日常生活での負担軽減など、医師の指導に基づいたセルフケアを継続することで、再発を防ぎ、長期的な改善を目指します。

ハイドロリリース治療のよくある質問と注意点

ハイドロリリース治療について、患者さんからよく寄せられる質問と注意点についてお答えします。

どんな症状に効果がありますか?

ハイドロリリースは以下のような疾患に対して効果が期待できます。

  • テニス肘やゴルフ肘
  • 五十肩
  • 変形性関節症

上記以外にも、全身の筋肉や関節などさまざまな部位に生じる疾患に効果が期待でき、痛みなどの症状を和らげる可能性があります。特に慢性的な腰痛や肩の痛み、しびれなどにお悩みの方は、治療を実施してみるとよいでしょう。

治療自体は痛いですか?

ハイドロリリースでは生理食塩水を注射するため、細い針を指す程度の痛みで済みます。本来、固まっているファシアへ生理食塩水を流すのは痛みを伴いますが、ハイドロリリースでは少量の麻酔を一緒に注射するため、痛みが少ないことが特徴です。そのため、ほとんど痛みを感じることなく治療を受けられます。

治療にかかる期間や回数は?

ハイドロリリースの効果は人それぞれですが、1回で効果が出る方もいらっしゃいます。治療にかかる期間や回数はファシアの状況などで変化するため、一概には言えません。治療効果を高めるには、理学療法などと併用することもおすすめです。

治療を受ける際の注意点はありますか?

ハイドロリリースでは注射を行うため、まれに内出血や感染が生じます。免疫力が低下している方や、服用している薬の副作用で出血しやすい方は、事前に相談のうえ実施するかどうかを判断します。

無事に実施できた場合、帰宅後に気を付けることは特にありません。当日に入浴もできるため、安心して治療を受けていただくことが可能です。

まとめ:テニス肘治療におけるハイドロリリースの位置づけと展望

テニス肘は単なる使い過ぎではなく、肘の外側にある腱の老化が強く関係している疾患です。痛みが長引くと、炎症の悪循環に陥り、瘢痕組織が形成されて治りにくくなります。

ハイドロリリースは、エコーガイド下で筋膜と周辺組織を確認しながら薬液を注入する治療法で、テニス肘に対して以下のような効果が期待できます:

  • 硬くなった組織を柔らかくする(柔軟性改善)
  • 癒着した組織をはがす(癒着解除)
  • 神経への圧迫を緩める(除圧)
  • 疼痛物質を薄める(除痛)

ハイドロリリースの特徴として、通常のブロック注射と比べて副作用のリスクが少なく、麻酔の効果が切れた後も効果が長持ちするという利点があります。また、生理食塩水や乳酸リンゲル液を使用するため、安全性が高いことも魅力です。

テニス肘の効果的な治療には、ハイドロリリースだけでなく、リハビリテーション、体外衝撃波治療、超音波治療、テーピング・装具、薬物治療など、様々な治療法を組み合わせた総合的なアプローチが重要です。特に、ハイドロリリース後のリハビリテーションは、治療効果を維持・向上させるために欠かせません。

痛みやこりが長引いている方、従来の治療で効果が見られない方は、ハイドロリリースを検討してみる価値があります。当クリニックでは、患者さん一人ひとりの症状や状態に合わせた最適な治療プランをご提案しています。

テニス肘でお悩みの方は、早めに専門医に相談することをお勧めします。適切な診断と治療により、痛みのない快適な日常生活を取り戻しましょう。

詳しい情報や治療についてのご相談は、西梅田静脈瘤・痛みのクリニックまでお気軽にお問い合わせください。経験豊富な専門医が、あなたの症状に合わせた最適な治療法をご提案いたします。

【著者】

西梅田 静脈瘤・痛みのクリニック 院長 小田 晃義

【略歴】

現在は大阪・西梅田にて「西梅田 静脈瘤・痛みのクリニック」の院長を務める。

下肢静脈瘤の日帰りレーザー手術・グルー治療(血管内塞栓術)・カテーテル治療、再発予防指導を得意とし、

患者様一人ひとりの状態に合わせたオーダーメイド医療を提供している。

早期診断・早期治療”を軸に、「足のだるさ・むくみ・痛み」の原因を根本から改善することを目的とした診療方針を掲げ、静脈瘤だけでなく神経障害性疼痛・慢性腰痛・坐骨神経痛にも対応している。

【所属学会・資格】

日本医学放射線学会読影専門医、認定医

日本IVR学会専門医

日本脈管学会専門医

下肢静脈瘤血管内焼灼術指導医、実施医

マンモグラフィー読影認定医

本記事は、日々の臨床現場での経験と、医学的根拠に基づいた情報をもとに監修・執筆しています。

インターネットには誤解を招く情報も多くありますが、当院では医学的エビデンスに基づいた正確で信頼性のある情報提供を重視しています。

特に下肢静脈瘤や慢性疼痛は、自己判断では悪化を招くケースも多いため、正しい知識を広く伝えることを使命と考えています。