コラム

2025.08.26

下肢静脈瘤の方必見〜快適な靴選び5つのポイント

足の健康は全身の健康に直結します。特に下肢静脈瘤を抱える方にとって、適切な靴選びは日常生活の質を大きく左右する重要な要素です。
下肢静脈瘤の症状がある方は、足のむくみや痛み、だるさに悩まされることが多いものです。そんな方々にとって、毎日履く靴は単なるファッションアイテムではなく、症状を和らげ快適に過ごすための大切なパートナーとなります。
私は下肢静脈瘤の指導医として多くの下肢静脈瘤患者さんを診てきましたが、適切な靴選びによって症状が改善したケースを数多く見てきました。逆に、不適切な靴によって症状が悪化してしまうケースも少なくありません。

下肢静脈瘤と靴の関係性

下肢静脈瘤は、足の静脈の逆流防止弁が壊れることで起こります。血液が下向きに流れないように静脈には逆流防止の弁が付いていますが、この弁が壊れると血液が逆流し、足に血液がたまってしまうのです。
その結果、静脈は膨れてこぶのようになり、下肢静脈瘤の症状が現れます。
靴は足の血行に大きな影響を与えます。窮屈な靴や足にフィットしていない靴は、血行を妨げ、下肢静脈瘤の症状を悪化させる原因となります。逆に、適切な靴は足の血行を促進し、症状の緩和に役立つのです。
特に立ち仕事の方や、長時間同じ姿勢でいる方は、靴選びが非常に重要です。1日8時間以上立ち続けている人は下肢静脈瘤の発生頻度が高いことがわかっています。
では、下肢静脈瘤の方はどのような点に注意して靴を選べばよいのでしょうか?
下肢静脈瘤の方が感じる靴の悩み
下肢静脈瘤の方が靴選びで抱える悩みには、次のようなものがあります。
日中の足のむくみで、朝は履けても夕方には窮屈になる
長時間履いていると足が痛くなる
足が疲れやすく、歩くのがつらい
足の形が変わってきて、以前の靴が合わなくなった
おしゃれな靴と健康的な靴の両立が難しい
これらの悩みを解決するためには、下肢静脈瘤の方に適した靴選びのポイントを押さえることが大切です。
 

下肢静脈瘤の方のための靴選び5つのポイント

下肢静脈瘤の症状がある方が快適に過ごすための靴選びには、次の5つのポイントが重要です。これらを意識して靴を選ぶことで、足の負担を軽減し、症状の緩和につながります。
それぞれのポイントについて、詳しく見ていきましょう。
1. サイズと幅のゆとり
  • 下肢静脈瘤の方にとって、靴のサイズと幅は非常に重要です。特に、日中の足のむくみを考慮したゆとりが必要です。
    足のサイズは朝と夕方で変わることをご存知でしょうか?特に下肢静脈瘤の方は、日中に足がむくみやすいため、この変化が顕著です。

  • 私のクリニックに来られる患者さんの中には、朝は問題なく履けていた靴が、夕方には窮屈になって足を圧迫し、かえって症状を悪化させてしまうというケースがよくあります。
    ・靴を購入する際は、できるだけ夕方に試着する
    ・つま先に1cm程度の余裕があるサイズを選ぶ
    ・幅広(4E以上)の靴を選ぶ
    ・甲高の方は、甲の部分にゆとりがあるタイプを選ぶ
    ・調節可能なストラップやマジックテープ付きの靴が便利
    特に女性の場合、おしゃれを優先して窮屈な靴を選びがちですが、下肢静脈瘤の症状がある方は、見た目よりも機能性を重視することをお勧めします。
2. クッション性と衝撃吸収性
下肢静脈瘤の方は、歩行時の衝撃が足の血行に影響を与えることがあります。そのため、クッション性と衝撃吸収性に優れた靴を選ぶことが重要です。
特に、かかとの部分のクッション性は重視すべきポイントです。歩行時の衝撃は、まずかかとから伝わります。この衝撃をしっかり吸収できる靴を選ぶことで、足への負担を軽減できます。
中敷きがクッション性に優れたものを選ぶ
かかと部分に特殊なクッション素材が使用されているものがおすすめ
必要に応じて、専用のクッションインソールを追加する
軽量な素材でできた靴を選ぶ
最近では、スポーツシューズのテクノロジーを取り入れた、見た目もおしゃれなコンフォートシューズが多く販売されています。これらは下肢静脈瘤の方にもおすすめです。
3. アーチサポートと足底圧の分散
足のアーチ(土踏まず)をしっかりサポートする靴は、下肢静脈瘤の方にとって非常に重要です。アーチサポートが適切に機能することで、足底の圧力が分散され、血行が促進されます。

足のアーチには、内側縦アーチ、外側縦アーチ、横アーチの3つがあります。これらのアーチが適切にサポートされることで、歩行時の衝撃を吸収し、足の疲労を軽減することができるのです。
先日、長年足の痛みに悩まされていた60代の女性患者さんが、アーチサポートのしっかりした靴に変えたところ、「歩くのが楽になった」と喜ばれていました。適切なアーチサポートは、それだけで大きな違いを生むことがあるのです。
・土踏まずのアーチをサポートする構造の靴を選ぶ
・足底全体に圧力が分散されるデザインのものを選ぶ
・必要に応じて、医療用のアーチサポートインソールを使用する
・足の形に合わせて成形できるタイプのインソールも効果的
特に扁平足(偏平足)の方は、アーチサポートが不足すると足の疲れやむくみが悪化することがあります。自分の足のアーチの状態を知り、それに合った靴を選ぶことが大切です。
4. 素材と通気性
下肢静脈瘤の方は、足の蒸れやむれが症状を悪化させることがあります。そのため、靴の素材と通気性も重要なポイントです。
通気性の良い素材は、足の蒸れを防ぎ、快適な状態を保ちます。また、柔らかい素材は足を優しく包み込み、圧迫感を軽減します。
・天然素材(革、コットンなど)や通気性の良い合成素材を選ぶ
・メッシュ素材を部分的に使用した靴も通気性に優れている
・靴の内側の素材も確認し、肌触りの良いものを選ぶ
・防水性と通気性のバランスが取れたものを選ぶ
特に夏場は足の蒸れが気になる季節です。通気性の良い靴を選ぶことで、足の不快感を軽減し、下肢静脈瘤の症状悪化を防ぐことができます。
また、弾性ストッキングを着用している方は、靴下と靴の組み合わせも考慮する必要があります。弾性ストッキングの上から履いても窮屈にならない靴を選びましょう。
5. ヒールの高さと靴底の安定性
下肢静脈瘤の方にとって、ヒールの高さと靴底の安定性は非常に重要です。高いヒールは足の血行を妨げ、症状を悪化させる原因となります。

理想的なのは、2〜3cm程度の低めのヒールです。完全なフラットシューズよりも、わずかにヒールがある方がふくらはぎの筋肉を適度に使うことができ、血行促進につながります。
あるとき、いつも高いヒールを履いていた40代の女性患者さんが、3cmほどの低めのヒールに変えたところ、「足のだるさが軽減した」と報告してくれました。小さな変化でも、大きな効果をもたらすことがあるのです。
・ヒールの高さは2〜3cm程度が理想的
・靴底が厚すぎず、適度な柔軟性があるものを選ぶ
・靴底のグリップ性が良く、滑りにくいものを選ぶ
・かかとの部分がしっかりと固定されるデザインのものを選ぶ
・ロッカーボトム(前後に丸みを帯びた靴底)も歩行をサポート
特に高齢の方は、安定性を重視した靴選びが重要です。転倒リスクを減らすことも、下肢静脈瘤の管理において大切なポイントです。
 

靴の試着と購入時のアドバイス

下肢静脈瘤の方が靴を購入する際には、いくつかのポイントを押さえることで、より適切な靴を選ぶことができます。
特に重要なのは、試着のタイミングです。足のむくみが出やすい夕方に試着することで、一日中快適に過ごせる靴を選ぶことができます。
試着のポイント
靴を試着する際には、次のポイントをチェックしましょう。
・できるだけ夕方(足がむくむ時間帯)に試着する
・普段使用している弾性ストッキングや靴下を履いて試着する
・両足とも試着する(左右で足のサイズが異なることがある)
・店内を少し歩いてみて、歩きやすさを確認する
・つま先、かかと、足の幅など、複数の箇所で圧迫感がないか確認する
試着時に「少しきついけど、履いているうちに馴染むだろう」と妥協するのはやめましょう。特に下肢静脈瘤の方は、少しでも圧迫感があると症状が悪化する可能性があります。

私が患者さんによくお伝えしているのは、「靴は試着した時点で完全に快適でなければならない」ということです。「履いているうちに馴染む」という考えは、下肢静脈瘤の方には当てはまりません。
専門店の活用
下肢静脈瘤の方は、できれば靴の専門店や医療用シューズを扱う店舗での購入をお勧めします。専門知識を持ったスタッフのアドバイスを受けることで、より適切な靴を選ぶことができます。
最近では、足のトラブルに特化した靴専門店も増えています。そのような店舗では、足の計測や歩き方のチェックなど、専門的なサービスを受けることができます。
足の計測サービスがある店舗を利用する
医療用や健康靴を専門に扱う店舗を探す
自分の足の特徴や悩みを店員に伝える
必要に応じて、医師からのアドバイスを店員に伝える
「靴選びは健康投資」という意識を持つことが大切です。良い靴は決して安くはありませんが、足の健康を守り、下肢静脈瘤の症状を緩和するための重要な投資と考えましょう。
 

日常生活での靴の活用と管理

 
適切な靴を選んだ後は、日常生活での靴の活用と管理も重要です。下肢静脈瘤の方が快適に過ごすためのアドバイスをご紹介します。
足の状態は日によって変化します。その日の体調や活動内容に合わせて、複数の靴を使い分けることも大切です。
靴の使い分け
下肢静脈瘤の方は、一日中同じ靴を履き続けるのではなく、状況に応じて靴を使い分けることをお勧めします。
・長時間歩く日は特にクッション性の高い靴を選ぶ
・立ち仕事の日はサポート力の高い靴を選ぶ
・足のむくみが強い日は、調節可能なストラップ付きの靴を選ぶ
・家の中でも裸足ではなく、室内用のサポートシューズを履く
・複数の靴をローテーションで使用し、靴も足も休ませる
特に室内での過ごし方は重要です。高齢者の転倒事故の5割以上が家の中で起きているという事実があります。下肢静脈瘤の方は、家の中でも適切なサポート力を持つ室内履きを使用することをお勧めします。
私のクリニックの患者さんの中には、「家では裸足で過ごしていたが、室内用のサポートシューズを履くようになってから足のだるさが軽減した」という方もいらっしゃいます。
靴のメンテナンス
靴は適切にメンテナンスすることで、サポート力と快適さを長く保つことができます。
・靴の中敷きは定期的に取り出して乾燥させる
・汚れは早めに落とし、素材に合った方法でケアする
・形が崩れないよう、シューキーパーを使用する
・靴底の摩耗が進んだら、早めに修理や交換を検討する
・インソールは半年〜1年を目安に交換する
特にインソール(中敷き)は、使用するうちに徐々にクッション性が失われていきます。定期的に状態をチェックし、必要に応じて交換することが大切です。
靴は足の健康を守るための大切なパートナーです。大切にケアすることで、長く快適に使用することができます。
 

下肢静脈瘤の症状緩和のための総合的アプローチ

下肢静脈瘤の症状緩和には、適切な靴選びに加えて、総合的なアプローチが効果的です。日常生活での工夫や医療的なサポートを組み合わせることで、より快適に過ごすことができます。
ここでは、靴選びと合わせて実践したい対策をご紹介します。

日常生活での工夫
下肢静脈瘤の症状緩和には、日常生活での工夫も重要です。
長時間の立ち仕事や座り仕事では、定期的に足を動かす
足を高くして休む時間を作る(就寝時は足の下に枕を置くなど)
適度な運動(ウォーキングや水中運動など)を取り入れる
体重管理に気を付ける(肥満は下肢静脈瘤のリスク因子)
水分をしっかり摂り、塩分の取りすぎに注意する
特に「ふくらはぎの筋ポンプ作用」を活用することが大切です。ふくらはぎの筋肉は「第二の心臓」とも呼ばれ、その収縮によって静脈血を心臓に戻す働きを助けています。
私のクリニックでは、患者さんに簡単なふくらはぎのエクササイズをお伝えしています。例えば、つま先立ちを10回×3セット、1日数回行うだけでも効果があります。
医療的サポート
靴選びと日常生活の工夫に加えて、医療的なサポートも活用しましょう。
弾性ストッキングの適切な使用(医師の指導のもと)
定期的な医師の診察と相談
必要に応じて、専門的な治療の検討
足のケア(保湿や爪のケアなど)の習慣化
弾性ストッキングは、足を下から上へと段階的に圧迫する特殊な編み方でつくられている医療用のストッキングです。履くことでむくみや血液のたまりを予防できます。
ただし、弾性ストッキングのタイプやサイズ、圧力の違いを自己判断すると、効果が現れなかったり、逆に血液のたまりを悪化させたりすることがあります。必ず医師や専門家のアドバイスを受けて選びましょう。
下肢静脈瘤の症状が気になる方は、専門医への相談をお勧めします。当院(西梅田静脈瘤・痛みのクリニック)では、下肢静脈瘤の日帰り手術や、症状に合わせた総合的なアドバイスを提供しています。

まとめ:快適な歩行のために

下肢静脈瘤の方にとって、適切な靴選びは症状緩和と快適な日常生活のために非常に重要です。この記事でご紹介した5つのポイントを参考に、ご自身に合った靴を見つけていただければ幸いです。
サイズと幅のゆとり:足のむくみを考慮したゆとりのあるサイズを選ぶ
クッション性と衝撃吸収性:歩行時の衝撃を吸収し、足への負担を軽減する
アーチサポートと足底圧の分散:足のアーチをサポートし、圧力を分散させる
素材と通気性:蒸れを防ぎ、快適な状態を保つ素材を選ぶ
ヒールの高さと靴底の安定性:適切なヒールの高さと安定した靴底を選ぶ
靴は単なるファッションアイテムではなく、健康を支える大切なアイテムです。特に下肢静脈瘤の方は、見た目だけでなく機能性を重視した靴選びを心がけましょう。
最後に、靴選びは一度で完結するものではありません。足の状態や体調、生活環境の変化に合わせて、定期的に見直すことが大切です。
足の健康は全身の健康につながります。適切な靴選びと日常生活の工夫、必要に応じた医療的サポートを組み合わせることで、下肢静脈瘤の症状を緩和し、快適な毎日を過ごしましょう。
下肢静脈瘤でお悩みの方は、ぜひ専門医にご相談ください。西梅田静脈瘤・痛みのクリニックでは、下肢静脈瘤の日帰り手術や、患者様一人ひとりに合わせた総合的なケアを提供しています。足の健康と快適な歩行をサポートするために、いつでもお力になります。
詳しい情報や診療のご予約は、西梅田静脈瘤・痛みのクリニックのウェブサイトをご覧ください。