足のむくみやだるさ、夜間のこむら返り。これらの症状、ただの疲れだと思っていませんか?実は下肢静脈瘤の初期症状かもしれません。
下肢静脈瘤は見た目の問題だけでなく、放置すると皮膚の変色や潰瘍形成など深刻な合併症を引き起こす可能性がある病気です。早期発見・早期治療が重要なのです。

下肢静脈瘤とは?基本を理解しよう
下肢静脈瘤は、足の静脈が拡張してコブのように膨らむ病気です。その名前の「瘤」は「コブ」という意味で、足の静脈がコブ状に膨らむことが由来です。
静脈には「静脈弁」という逆流防止弁があり、心臓に戻った血液が重力で下に落ちないようにしています。この弁が壊れると、血液が下肢に溜まり、静脈が拡張して瘤になるのです。
静脈弁は「ハ」の字をしており、下から上には流れますが、上から下には流れない一方通行の構造になっています。この弁が機能しなくなると、血液が足に溜まり続け、静脈が膨らんでいきます。
下肢静脈瘤は女性が男性より2~3倍多く、40歳以上で加齢とともに増加します。患者数は1000万人以上とされ、出産経験のある女性の2人に1人が発症するという報告もあります。
下肢静脈瘤の初期症状とは?
下肢静脈瘤というと、足の血管がボコボコと浮き出る症状が有名です。しかし、末期ではなく見た目の問題です。
初期の段階では、見た目の変化よりも不快な症状として現れることが多いのです。下肢静脈瘤の初期症状には以下のようなものがあります。
- 足のむくみ
- 足の重だるさ
- 足がつる(こむら返り)
- 足のほてり
- 足のかゆみ
これらの症状は、立ち仕事や長時間同じ姿勢でいた後、特に夕方から夜にかけて悪化することが特徴です。朝起きた時は症状が軽減していることが多いでしょう。
「足がむくむ」「足が重だるい」といった症状は、疲れると誰でも起こると思いがちです。そのため、病気からくる症状だとは思わず、マッサージや整体などで様子を見ている方が多いのではないでしょうか。
しかし、これらの症状が定期的に現れる場合は、下肢静脈瘤の可能性を疑ってみる必要があります。

下肢静脈瘤の種類と特徴
下肢静脈瘤には、症状や発生部位によっていくつかの種類があります。それぞれの特徴を理解することで、自分の症状がどのタイプに当てはまるのか把握しやすくなります。
伏在静脈瘤
足の付け根からふくらはぎの内側にかけて広範囲にできる曲がったり、腫れ上がったりするタイプのコブです。主に太腿、ふくらはぎ、膝の裏などに現れます。
これは大伏在静脈や小伏在静脈に影響を与える表在静脈本幹に発生するタイプのものです。
大伏在静脈瘤
大伏在静脈瘤は、足首の内側から鼠径部まで伸び、深部静脈に合流する静脈であり、この主要な分枝に発生します。足の表在静脈では最も静脈瘤ができやすいとされています。
下腿から大腿部内側、下腿の外側、大腿部の背側に発生することが多いです。
小伏在静脈瘤
小伏在静脈瘤はアキレス腱の外側から伸び、膝の裏で深部静脈に合流する静脈に発生します。主に足首の後ろや膝の後ろに現れ、大伏在静脈瘤に次いで発症率が高い下肢静脈瘤の一種です。
側枝静脈瘤
分枝静脈瘤は、伏在静脈本幹から分岐した側枝の静脈が拡張して生じるタイプで、独立型も存在します。主に膝から下の部分に静脈瘤ができ、伏在静脈瘤よりわずかに細いという特徴があります。
網目状・くも状静脈瘤
くも状の静脈瘤は、細い皮下静脈が複雑に透けて見えるタイプです。皮膚の下から血管がボコボコと浮き出てくる症状はありません。
直径2~3㎜の血管が透けて見える網目状静脈瘤と、更に細かい直径0.1~1㎜の真皮内静脈瘤であるくもの状静脈瘤があります。
下肢静脈瘤の初期症状を見分けるポイント
下肢静脈瘤の初期症状は、他の病気と似ていることもあります。どのような点に注目すれば、下肢静脈瘤の初期症状と見分けられるのでしょうか?
症状の出現パターン
下肢静脈瘤の症状は、長時間立っていたり座っていたりした後に悪化する傾向があります。特に夕方から夜にかけて症状が強くなり、朝には軽減していることが特徴です。
これは、日中の重力の影響で血液が足に溜まりやすくなるためです。横になって休むと、重力の影響が減り、症状が和らぐのです。
症状の持続性
一時的な疲れによるむくみやだるさは、休息を取ると改善します。しかし、下肢静脈瘤の場合は、十分な休息を取っても完全には症状が消えないことが多いのです。
症状が3ヶ月以上続く場合は、下肢静脈瘤を疑ってみる必要があります。
家族歴
下肢静脈瘤には遺伝的要素があります。両親や祖父母に下肢静脈瘤がある場合は、発症リスクが高くなります。
家族に下肢静脈瘤の患者がいる場合は、同じような初期症状が現れたときに注意が必要です。
リスク要因の存在
以下のようなリスク要因がある場合は、下肢静脈瘤の可能性が高まります。
- 女性(特に出産経験がある)
- 40歳以上
- 立ち仕事
- 肥満
- 家族歴
これらのリスク要因が複数当てはまり、前述の症状がある場合は、下肢静脈瘤の可能性を考えるべきでしょう。
下肢静脈瘤の簡単セルフチェック法
下肢静脈瘤の可能性を自分でチェックする簡単な方法をご紹介します。以下の質問に答えてみてください。

症状チェック
- 足の血管は浮き出ていますか?(コブのように浮き出ている、浮き出ているのがわかる、青く透けて見える、細かい血管が増えている)
- 立っていると足がだるくなりやすいですか?
- 足はむくみやすいですか?(常にむくんでいる、立っているとむくんでくる)
- 足がつることはありますか?(特に夜中から明け方にかけて)
- 足に湿疹があったり、かゆみはありますか?(3ヶ月以上症状が続いている)
- くるぶしの皮膚は黒っぽく変色していますか?
リスク要因チェック
- 女性ですか?(特に出産経験がある場合はリスクが高まります)
- 年齢は40歳以上ですか?
- 1日8時間以上の立ち仕事をしていますか?
- 両親もしくは祖父母に下肢静脈瘤の方はいますか?
これらの質問のうち、症状チェックで3つ以上、リスク要因チェックで2つ以上当てはまる場合は、下肢静脈瘤の可能性があります。専門医への受診を検討しましょう。
ただし、このセルフチェックはあくまで目安です。正確な診断は医療機関での検査が必要です。
下肢静脈瘤と間違えやすい病気
下肢静脈瘤の症状は、他の病気と似ていることがあります。特に注意すべき病気をいくつか紹介します。
深部静脈血栓症
脚の内部の静脈に血栓ができる病気です。むくみやだるさといった症状は下肢静脈瘤と似ていますが、深部静脈血栓症はより急激に症状が現れ、痛みを伴うことが多いです。
放置すると肺塞栓症を引き起こし、命に関わる可能性もある重篤な病気です。
下肢閉塞性動脈硬化症
動脈硬化により足の動脈が狭くなる病気です。足の冷えやしびれ、歩行時の痛みなどが特徴で、心筋梗塞や脳梗塞のリスクも高まります。
糖尿病性皮膚潰瘍
糖尿病により足の血行が悪くなり、皮膚に潰瘍ができる病気です。重症化すると下肢切断に至ることもあります。
脊柱管狭窄症
脊髄が圧迫され、足のしびれや痛みを引き起こす病気です。歩行時に症状が悪化し、休むと改善するという特徴があります。
これらの病気は下肢静脈瘤と症状が似ていることがありますが、治療法や重症度は大きく異なります。正確な診断のためには、専門医の診察を受けることが重要です。
早期発見・早期治療の重要性
下肢静脈瘤は進行性の病気です。初期症状の段階で適切な治療を受けることで、症状の悪化を防ぎ、合併症のリスクを減らすことができます。
放置するとどうなる?
下肢静脈瘤を放置すると、以下のような合併症のリスクが高まります。
- 皮膚の色素沈着
- 湿疹や皮膚炎
- 皮膚潰瘍
- 表在性血栓性静脈炎
- 出血
特に皮膚潰瘍は治りにくく、長期間の治療が必要になることがあります。早期の段階で適切な治療を受けることで、これらの合併症を予防できます。
早期治療のメリット
下肢静脈瘤の初期段階では、保存的治療(弾性ストッキングの着用や生活習慣の改善など)で症状を改善できることが多いです。
症状が進行してからでは、手術などの侵襲的な治療が必要になることがあります。早期に治療を始めることで、より負担の少ない方法で症状を改善できる可能性が高まります。
下肢静脈瘤の予防と自己ケア
下肢静脈瘤は完全に予防することは難しいですが、リスクを減らし、症状を軽減するための方法があります。
日常生活での予防法
- 長時間の立ち仕事や座り仕事を避け、定期的に歩いたり足を動かしたりする
- 適度な運動(ウォーキング、水泳など)でふくらはぎの筋肉を鍛える
- 健康的な体重を維持する
- 足を高く上げて休む時間を作る
- きつい下着や靴下を避ける
弾性ストッキングの活用
弾性ストッキングは、足の静脈に適度な圧力をかけることで血液の流れを改善します。正しく使用することで、下肢静脈瘤の症状を軽減できます。
重要なのは、自分の下肢のサイズに合わせ、正しいはき方を理解すること。足の専門家に教わることで、快適に使用できるようになります。
受診のタイミング
以下のような場合は、専門医への受診を検討しましょう。
- 足のむくみやだるさが長期間(3ヶ月以上)続く
- 足の静脈が目立つようになってきた
- 足の皮膚に変化(色素沈着、湿疹など)が現れた
- 夜間のこむら返りが頻繁に起こる
下肢静脈瘤の治療は、症状の程度や患者さんの希望に応じて選択されます。エコー検査などで正確な診断を受け、適切な治療法を選ぶことが大切です。
まとめ
下肢静脈瘤は、足のむくみやだるさ、夜間のこむら返りなどの初期症状から始まり、放置すると血管のコブや皮膚の変化など見た目の問題だけでなく、皮膚潰瘍などの合併症を引き起こす可能性がある病気です。
女性や立ち仕事の方、家族に下肢静脈瘤の患者がいる方は特にリスクが高まります。初期症状に気づいたら、専門医への受診を検討しましょう。
早期発見・早期治療により、症状の悪化を防ぎ、より負担の少ない方法で治療できる可能性が高まります。日常生活での予防法や自己ケアも取り入れながら、足の健康を守りましょう。
下肢静脈瘤でお悩みの方は、血管外科や下肢静脈瘤の治療を専門とする医療機関への受診をおすすめします。西梅田静脈瘤・痛みのクリニックでは、下肢静脈瘤血管内焼灼術指導医・実施医の資格を持つ医師による専門的な治療を提供しています。早期の段階から適切な治療を受けることで、足の健康を取り戻しましょう。
【著者】
西梅田 静脈瘤・痛みのクリニック 院長 小田 晃義
【略歴】
現在は大阪・西梅田にて「西梅田 静脈瘤・痛みのクリニック」の院長を務める。
下肢静脈瘤の日帰りレーザー手術・グルー治療(血管内塞栓術)・カテーテル治療、再発予防指導を得意とし、
患者様一人ひとりの状態に合わせたオーダーメイド医療を提供している。
早期診断・早期治療”を軸に、「足のだるさ・むくみ・痛み」の原因を根本から改善することを目的とした診療方針を掲げ、静脈瘤だけでなく神経障害性疼痛・慢性腰痛・坐骨神経痛にも対応している。
【所属学会・資格】
日本医学放射線学会読影専門医、認定医
日本IVR学会専門医
日本脈管学会専門医
下肢静脈瘤血管内焼灼術指導医、実施医
マンモグラフィー読影認定医
本記事は、日々の臨床現場での経験と、医学的根拠に基づいた情報をもとに監修・執筆しています。
インターネットには誤解を招く情報も多くありますが、当院では医学的エビデンスに基づいた正確で信頼性のある情報提供を重視しています。
特に下肢静脈瘤や慢性疼痛は、自己判断では悪化を招くケースも多いため、正しい知識を広く伝えることを使命と考えています。

