下肢静脈瘤の再発リスクと向き合う
下肢静脈瘤の治療を受けた後、「もう二度と悩まされたくない」と思うのは当然です。しかし現実には、適切な治療を受けても5〜10年後には10〜20%の方に再発が見られます。
下肢静脈瘤は一度治療したからといって、完全に終わりではないのです。再発のメカニズムを理解し、適切な予防策を講じることが長期的な足の健康維持には欠かせません。
血管外科医として数多くの再発症例を診てきた経験から言えることは、再発を防ぐための日常生活での対策が非常に重要だということです。治療後のケアを怠ると、せっかくの治療効果も半減してしまいます。
では、なぜ下肢静脈瘤は再発するのでしょうか?主な原因は2つあります。1つ目は、以前は正常だった静脈が新たに機能不全を起こすケース。2つ目は、治療が不完全だったために残存した静脈瘤が悪化するケースです。
いずれの場合も、適切な予防策と定期的な検査によって再発リスクを大幅に減らすことが可能です。

下肢静脈瘤が再発する主な原因
下肢静脈瘤の再発について理解するには、まず再発のメカニズムを知ることが大切です。再発の主な原因は以下の通りです。
1. 新たな静脈の機能不全
治療時には正常だった静脈が、時間の経過とともに新たに機能不全を起こすことがあります。特に、静脈の逆流防止弁が加齢などによって劣化すると、血液の逆流が生じて新たな静脈瘤が形成されます。
これは厳密には「再発」ではなく、「新規発症」と考えるべきものです。しかし患者さんにとっては同じ足に再び静脈瘤が現れるため、再発と感じられることが多いでしょう。
2. 不完全な治療
治療が不十分だった場合、残存した静脈瘤が時間とともに悪化することがあります。例えば、進行した静脈瘤に対して硬化療法のみを行った場合や、切除すべき静脈瘤を切除しなかった場合などです。
また、高位結紮術のみを行い、逆流している静脈本体を処理しなかった場合も再発リスクが高まります。
3. 治療後のケア不足
手術後の圧迫療法や生活習慣の改善を怠ると、再発リスクが高まります。特に術後の定期検査(最低1年間)を受けていない場合、初期段階での再発を見逃してしまう可能性があります。
下肢静脈瘤の再発は、これらの要因が単独で、あるいは複合的に作用して起こります。しかし、適切な予防策を講じることで、再発リスクを大幅に低減することが可能です。
下肢静脈瘤の再発を防ぐ10の効果的な方法
下肢静脈瘤の再発を防ぐためには、日常生活での継続的な取り組みが不可欠です。以下に、専門医として推奨する10の効果的な予防策をご紹介します。
1. 医療用弾性ストッキングの着用
治療後も医療用弾性ストッキングを継続して着用することは、再発防止の基本です。特に立ち仕事の方や長時間座り続ける方には必須と言えます。
市販の着圧ソックスではなく、必ず医師に処方してもらった医療用弾性ストッキングを使用しましょう。圧迫圧や段階圧が適切に設計されており、足首が一番圧が高く、上に行くほど圧が弱くなる構造になっています。
朝起きたらすぐに履き、寝る前に脱ぐことを習慣にしましょう。しわを伸ばしながら履くことも重要です。半年程度使用できますが、伸びてきたら交換することをお勧めします。

2. 適度な運動習慣の確立
ふくらはぎの筋肉を動かす運動は、静脈のポンプ機能を高め、血液の循環を促進します。特に水中ウォーキングや水泳は浮力と水圧によって足の循環が改善するため、下肢静脈瘤の予防に非常に効果的です。
また、軽いジョギングやウォーキング、散歩なども継続して行うと良いでしょう。運動は全身の循環を改善するだけでなく、肥満防止にも役立ちます。肥満は下肢静脈瘤を悪化させる要因の一つです。
3. 長時間の同一姿勢を避ける
立ちっぱなしや座りっぱなしの姿勢は、足の静脈に血液がたまる原因となります。長時間同じ姿勢を続けると、静脈の逆流防止弁に過度な負担がかかり、最終的には弁が壊れて正常に閉じなくなります。
立ち仕事の方は、1時間に一度は短時間でも歩くようにしましょう。デスクワークの方も同様に、定期的に立ち上がって歩くことが重要です。同じ立ち仕事でも、途中で歩いたり体を動かしたりする場合は、筋肉のポンプ作用が機能して下肢静脈瘤の発生リスクが低くなります。
4. 足の挙上習慣
就寝時や休息時に足を心臓より高い位置に上げることで、静脈の血液が心臓に戻りやすくなります。クッションや枕などを膝下に入れて、脚を心臓より高くして寝る習慣をつけましょう。
また、日中でも可能な限り足を高く上げる時間を作ることをお勧めします。特に夕方から夜にかけては足のむくみが強くなるため、帰宅後に15〜20分程度足を高く上げて休むことが効果的です。
5. 定期的なマッサージ
足のマッサージは下肢静脈瘤の悪化を予防したり、症状を改善したりする効果があります。座ってふくらはぎを両方の手のひらでさするように心臓に向かってマッサージしましょう。
あまり力を入れなくても良いので、手のひら全体が皮膚に密着するようにマッサージします。寝る前や入浴時に1回2〜3分で十分ですので、毎日行うことをお勧めします。午後から夕方に数回マッサージをするとさらに効果的です。
6. 食生活の改善
高血圧や便秘は下肢静脈瘤を悪化させる要因となります。塩分や脂分を多く含む食べ物、肉類など高血圧や便秘を悪化させる食品は控えめにしましょう。
代わりに、食物繊維が豊富な野菜や果物、適度なタンパク質を含むバランスの良い食事を心がけることが大切です。また、十分な水分摂取も血液の粘度を下げ、循環を促進するのに役立ちます。

7. 体重管理
肥満は腹圧を高め、下肢静脈や弁への負荷を増大させます。また、血液中の脂質やコレステロール値が高いと血栓性静脈炎を発症するリスクがあり、静脈瘤に痛みが生じることがあります。
適正体重の維持は下肢静脈瘤の再発予防において非常に重要です。バランスの取れた食事と適度な運動を組み合わせて、健康的な体重を維持するよう心がけましょう。
8. 定期的な医療機関での検査
治療後も定期的に医療機関での検査を受けることが重要です。特に術後1年間は定期的な超音波検査を受けることで、初期段階での再発を発見し、適切な対処が可能になります。
超音波検査は痛みもなく、放射線被曝もない安全な検査です。現在の静脈の状態を正確に診断することができるため、再発の早期発見に非常に有効です。
9. 適切な靴の選択
ハイヒールなど足に負担のかかる靴の長時間使用は避けましょう。ヒールが高い靴は、ふくらはぎの筋肉を常に緊張状態にし、静脈のポンプ機能を低下させます。
できるだけ低めのヒールの靴を選び、長時間歩く場合はクッション性の良いウォーキングシューズなどを使用することをお勧めします。また、足のサイズに合った靴を選ぶことも重要です。
10. 温度管理と入浴習慣
過度に熱い環境は静脈を拡張させるため、サウナや熱い風呂の長時間利用は控えめにしましょう。入浴時は40度以下のぬるめのお湯に浸かり、長湯は避けることをお勧めします。
また、入浴時にふくらはぎのマッサージを行うことで、血行促進効果が高まります。特に下から上へと心臓に向かってマッサージすることが効果的です。
これらの10の方法を日常生活に取り入れることで、下肢静脈瘤の再発リスクを大幅に低減することができます。特に重要なのは継続性です。一時的ではなく、生活習慣として定着させることが再発予防の鍵となります。
再発した場合の対処法
適切な予防策を講じていても、残念ながら下肢静脈瘤が再発してしまうことがあります。再発を感じたらどうすればよいのでしょうか?
再発の早期発見のポイント
再発の兆候としては、足のむくみ、だるさ、痛み、かゆみなどの症状の再出現や、目に見える静脈瘤の再形成などがあります。これらの症状を感じたら、早めに医療機関を受診しましょう。
特に注意すべきなのは、症状がなくても静脈瘤が再発している場合があることです。定期的な検査を受けることで、自覚症状が現れる前に再発を発見できることもあります。
再発時の治療選択肢
再発した下肢静脈瘤の治療方法は、再発の原因や程度によって異なります。最も重要なのは、超音波検査による正確な診断です。手術後の場合、静脈が元の状態と変わってしまっているため、現在の静脈の状態を知る必要があります。
再発の治療には、カテーテル治療(血管内焼灼術)、硬化療法、ストリッピング手術、高位結紮術などがあります。患者さんの状態に応じて最適な治療法が選択されます。
現在では、下肢静脈瘤が再発しても、様々な治療法を駆使して治療することが可能です。あきらめずに、まずは相談することをお勧めします。
専門医が教える再発防止のための生活習慣アドバイス
下肢静脈瘤の再発防止には、日々の生活習慣が非常に重要です。血管外科専門医として、患者さんに特に意識していただきたいポイントをいくつかご紹介します。
日常生活での工夫
下肢静脈瘤の再発予防には、日常生活での小さな工夫が大きな効果を発揮します。例えば、長時間のデスクワーク中でも、足首を回す、つま先立ちを繰り返すなどの簡単な運動を取り入れることで、ふくらはぎの筋肉を活性化させることができます。
また、就寝時に足の下にクッションを置いて少し高くするだけでも、静脈の血液が心臓に戻りやすくなります。これらの小さな習慣が、長期的には大きな予防効果をもたらします。
季節による対策の変化
下肢静脈瘤の症状は季節によって変化することがあります。特に夏場は気温の上昇により静脈が拡張しやすくなるため、症状が悪化することがあります。
夏場は特に水分補給を十分に行い、涼しい環境を保つよう心がけましょう。また、冬場でも暖房で室内が暖かくなりすぎないよう注意が必要です。季節に応じた対策を講じることで、年間を通じて症状をコントロールしやすくなります。
仕事環境の改善
職業によっては下肢静脈瘤のリスクが高まることがあります。特に立ち仕事や座り仕事が多い方は、職場環境の改善を検討しましょう。
立ち仕事の場合は、適度に足を動かしたり、休憩時に足を高く上げる時間を作ったりすることが重要です。座り仕事の場合は、定期的に立ち上がって歩くことや、足首を回すなどの簡単な運動を取り入れることをお勧めします。
また、可能であれば、立ち机と座り机を切り替えて使用するなど、姿勢を変えられる環境を整えることも効果的です。
まとめ:下肢静脈瘤の再発を防ぐための継続的なケア
下肢静脈瘤の再発予防は、治療後の継続的なケアと生活習慣の改善が鍵となります。医療用弾性ストッキングの着用、適度な運動、長時間の同一姿勢を避けること、足の挙上習慣、定期的なマッサージ、食生活の改善、体重管理、定期的な医療機関での検査、適切な靴の選択、温度管理と入浴習慣の10の方法を日常生活に取り入れることで、再発リスクを大幅に低減できます。
もし再発の兆候を感じたら、早めに医療機関を受診することが重要です。現在の医療技術では、再発した場合でも適切な治療によって症状を改善することが可能です。
下肢静脈瘤の治療は一度で終わりではなく、生涯にわたる足の健康管理の一環として捉えることが大切です。日々の小さな習慣の積み重ねが、長期的な足の健康を支えます。
当院では、下肢静脈瘤の治療だけでなく、治療後のケアや再発予防についても丁寧にサポートしています。お悩みやご不安がありましたら、お気軽に西梅田静脈瘤・痛みのクリニックまでご相談ください。専門医による適切なアドバイスと治療で、健やかな足の状態を維持するお手伝いをいたします。
【著者】
西梅田 静脈瘤・痛みのクリニック 院長 小田 晃義
【略歴】
現在は大阪・西梅田にて「西梅田 静脈瘤・痛みのクリニック」の院長を務める。
下肢静脈瘤の日帰りレーザー手術・グルー治療(血管内塞栓術)・カテーテル治療、再発予防指導を得意とし、
患者様一人ひとりの状態に合わせたオーダーメイド医療を提供している。
早期診断・早期治療”を軸に、「足のだるさ・むくみ・痛み」の原因を根本から改善することを目的とした診療方針を掲げ、静脈瘤だけでなく神経障害性疼痛・慢性腰痛・坐骨神経痛にも対応している。
【所属学会・資格】
日本医学放射線学会読影専門医、認定医
日本IVR学会専門医
日本脈管学会専門医
下肢静脈瘤血管内焼灼術指導医、実施医
マンモグラフィー読影認定医
本記事は、日々の臨床現場での経験と、医学的根拠に基づいた情報をもとに監修・執筆しています。
インターネットには誤解を招く情報も多くありますが、当院では医学的エビデンスに基づいた正確で信頼性のある情報提供を重視しています。
特に下肢静脈瘤や慢性疼痛は、自己判断では悪化を招くケースも多いため、正しい知識を広く伝えることを使命と考えています。

