コラム

2025.11.01

下肢静脈瘤による皮膚病変の進行過程と対処法〜専門医解説

下肢静脈瘤とは?皮膚病変を引き起こすメカニズム

下肢静脈瘤は、足の静脈が異常に拡張してコブ状に膨らむ血管の病気です。この状態は、静脈内の血液が心臓へ戻る際に重要な役割を果たす「逆流防止弁」の機能低下によって引き起こされます。

健康な静脈では、この弁が正常に機能することで血液が一方向にのみ流れるようになっています。しかし、弁が壊れると血液が足に溜まり、静脈の壁に圧力がかかって拡張し、やがて皮膚の下に瘤として見えるようになるのです。

長時間の立ち仕事や座り仕事、妊娠・出産、加齢、肥満などが下肢静脈瘤のリスク因子として知られています。また、遺伝的要因も大きく関わっており、両親に静脈瘤がある場合、子供が発症する確率は非常に高くなります。

初期症状としては足のむくみやだるさ、重苦しさなどがありますが、放置すると徐々に進行し、皮膚の変化を引き起こすようになります。これが「静脈うっ滞性皮膚炎」と呼ばれる状態です。

静脈うっ滞性皮膚炎の初期症状と進行過程

静脈うっ滞性皮膚炎は、下肢静脈瘤の最も重篤な合併症の一つです。これは単なる見た目の問題ではなく、進行すると深刻な皮膚トラブルを引き起こす可能性があります。

静脈うっ滞性皮膚炎は、主に膝より下の血液や体液の流れが滞ることで皮膚に炎症が生じる病気です。足の静脈内に血液が溜まる「うっ滞」によって皮膚障害が起こるのが特徴です。

静脈うっ滞性皮膚炎の初期症状は、かゆみや皮膚の赤み、うろこ状のような角質の剥がれから始まることが多いです。この段階では、多くの方が皮膚科を受診されますが、皮膚科的治療だけではなかなか改善しないケースも少なくありません。

なぜなら、表面的な皮膚の問題ではなく、その下にある静脈の問題が根本原因だからです。皮膚科との病気の鑑別診断が非常に難しいこともあり、専門の医療機関での診断が重要になります。

進行すると、次の段階として皮膚が茶褐色に変化する色素沈着が起こります。これは、静脈の圧力によって赤血球が壊れ、ヘモジデリンという色素が皮膚に沈着することで生じます。

さらに進行すると、脂肪皮膚硬化症(硬化性脂肪織炎)と呼ばれる状態になり、皮膚が硬く厚くなって痛みを伴うようになります。最終的には潰瘍(かいよう)ができ、ただれた状態になることもあります。

皮膚病変の種類と重症度分類

下肢静脈瘤による皮膚病変は、その症状と進行度によって大きく分類されます。専門医として多くの患者さんを診てきた経験から、皮膚病変の種類と重症度を正しく理解することが適切な治療につながると考えています。

静脈うっ滞性皮膚炎は主に以下の3つのタイプに分けられます。

1. 色素沈着

最も一般的に見られる皮膚変化です。皮膚が茶褐色に変色し、特に足首周辺に現れやすい特徴があります。これは、静脈圧の上昇により赤血球が血管外に漏れ出し、その成分であるヘモジデリンが皮膚に沈着することで起こります。

2. 脂肪皮膚硬化症

皮膚だけでなく皮下組織も硬くなり、厚みを増した状態です。触ると硬く、表面がつやを失い、時に痛みを伴います。この状態は「硬化性脂肪織炎」とも呼ばれ、長期間の静脈うっ滞により組織に炎症が起き、線維化が進んだ結果です。

3. 湿疹型皮膚炎

かゆみを伴う赤い発疹や水疱、うろこ状の皮膚剥離が特徴です。皮膚のバリア機能が低下し、外部刺激に敏感になっている状態で、掻きむしることでさらに症状が悪化することもあります。

これらの皮膚病変は単独で現れることもありますが、多くの場合は複数のタイプが組み合わさって発症します。重症度は以下のように分類されます。

  • 軽度:色素沈着のみで、わずかなかゆみや不快感がある程度
  • 中等度:色素沈着に加え、脂肪皮膚硬化症や湿疹症状が現れ、日常生活に支障をきたす
  • 重度:上記の症状に加え、潰瘍形成や細菌感染を伴う

特に注意が必要なのは、色素沈着だけで脂肪皮膚硬化症や湿疹がない「白色皮膚委縮」や「出血性静脈瘤」と呼ばれる病変の場合です。これらは下肢静脈瘤治療の必要がないケースもあり、専門医による正確な診断が重要になります。

診断方法と検査の重要性

静脈うっ滞性皮膚炎の正確な診断には、適切な検査が欠かせません。皮膚の症状だけで判断するのではなく、その原因となっている静脈の状態を詳しく調べる必要があります。

診断の第一歩は、詳細な問診と視診、触診です。患者さんの生活習慣や職業、家族歴などを確認し、症状の経過や悪化要因を把握します。次に、皮膚の状態を詳しく観察し、色調や硬さ、潰瘍の有無などを確認します。

しかし、静脈うっ滞性皮膚炎の確定診断には、静脈の機能を評価する検査が必須です。現在の標準的な検査は超音波検査(エコー)です。

超音波検査では、下肢静脈瘤の原因である静脈弁の逆流を直接確認できます。特に足のつけ根や膝裏の血管を超音波画像で診ながら、血液の流れる方向や速度を測定し、逆流の有無と程度を評価します。

かつては静脈造影検査という、造影剤を注射してレントゲンを撮影する方法が一般的でしたが、現在はより安全で痛みのない超音波検査が主流となっています。

検査で確認すべき重要なポイントは以下の通りです。

  • 大伏在静脈や小伏在静脈など、主要な表在静脈の逆流の有無
  • 深部静脈の開存性と逆流の有無
  • 穿通枝(皮下静脈と深部静脈をつなぐ血管)の逆流
  • 静脈瘤の範囲と程度

これらの検査結果に基づいて、静脈うっ滞性皮膚炎の原因となっている静脈の問題を特定し、最適な治療計画を立てることができます。

皮膚の症状だけを見て皮膚科的治療を続けても改善しない場合は、下肢静脈瘤を専門とする医療機関での検査をお勧めします。早期の適切な診断が、効果的な治療と症状の改善につながります。

皮膚病変に対する保存的治療法

静脈うっ滞性皮膚炎に対する治療は、症状の程度や原因となっている静脈の状態によって異なります。まずは保存的治療から始めることが一般的です。

保存的治療の中心となるのが「圧迫療法」です。弾性ストッキングや弾性包帯を用いて脚を適切に圧迫することで、静脈内の血液の逆流を防ぎ、うっ滞を改善します。

圧迫療法は完治を目指す治療法ではありませんが、症状の軽減や進行の抑制に効果的です。特に軽度から中等度の静脈うっ滞性皮膚炎では、第一選択となる治療法です。

弾性ストッキングの選び方と使用法

弾性ストッキングは圧迫の強さによって複数のクラスに分かれています。静脈うっ滞性皮膚炎には通常、クラスⅡ(中圧)以上の製品が推奨されます。

正しく効果を得るためには、朝起きてすぐ、脚がまだむくんでいない状態で着用することが重要です。また、サイズは専門家による採寸が理想的ですが、市販品を選ぶ場合は足首、ふくらはぎ、太ももの周囲長を正確に測定しましょう。

皮膚ケアの重要性

静脈うっ滞性皮膚炎では、皮膚の保湿と清潔を保つことも非常に重要です。乾燥した皮膚はかゆみを増強させ、掻きむしることで症状が悪化する恐れがあります。

毎日のケアとして、低刺激性の石鹸で優しく洗い、十分に保湿することをお勧めします。特に尿素やセラミド配合の保湿剤は、バリア機能の回復に役立ちます。

薬物療法

皮膚症状に対しては、ステロイド外用薬やタクロリムス軟膏などの免疫調整薬が用いられることがあります。ただし、ステロイド外用薬の長期使用は皮膚萎縮などの副作用があるため、医師の指導のもとで適切に使用することが重要です。

かゆみが強い場合には、抗ヒスタミン薬の内服が処方されることもあります。また、静脈の機能を改善するための内服薬(静脈強化剤)が用いられることもありますが、その効果は限定的です。

保存的治療で改善が見られない場合や、症状が重度の場合には、下肢静脈瘤に対する手術的治療を検討する必要があります。根本的な原因である静脈の逆流を治療することで、皮膚病変の改善も期待できます。

下肢静脈瘤に対する手術的治療と皮膚病変の改善

保存的治療で十分な効果が得られない場合や、症状が進行している場合には、下肢静脈瘤に対する手術的治療が検討されます。現在では様々な低侵襲治療が発達し、日帰りでの治療が可能になっています。

下肢静脈瘤の手術的治療には、以下のような選択肢があります。

  • 血管内焼灼術:レーザーや高周波を用いて静脈内部から熱で閉塞させる方法
  • 血管内塞栓術(グルー治療):特殊な医療用接着剤を注入して静脈を閉塞させる方法
  • 硬化療法:薬剤を静脈内に注入して閉塞させる方法
  • ストリッピング手術:静脈を引き抜く従来の手術法
  • 高位結紮術:静脈の起始部を結紮する手術

これらの治療法は、患者さんの病態やニーズに応じて選択されます。特に近年は、血管内焼灼術やグルー治療など、傷が小さく回復が早い低侵襲治療が主流となっています。

手術的治療によって静脈の逆流を根本的に解消することで、静脈うっ滞性皮膚炎の改善も期待できます。特に初期から中等度の皮膚病変では、手術後に症状が著明に改善するケースが多く見られます。

ただし、長期間にわたって進行した重度の皮膚病変、特に硬化や線維化が強い場合は、手術後も完全には元に戻らないことがあります。そのため、症状が軽いうちに専門医を受診し、適切な治療を受けることが重要です。

潰瘍を形成している場合は、まず潰瘍の治療を行い、その後に静脈瘤の治療を行うことが一般的です。潰瘍の治療には、適切な洗浄と消毒、創傷被覆材の使用、必要に応じて抗生物質の投与などが行われます。

手術後も弾性ストッキングの着用を継続することで、再発予防と症状の改善を促進できます。また、定期的な経過観察も重要です。

予防と日常生活での注意点

下肢静脈瘤による皮膚病変は、適切な予防策と生活習慣の改善によって発症や進行を抑えることができます。特に静脈瘤の初期段階や、家族歴のある方は、以下の点に注意することをお勧めします。

日常生活での工夫

長時間の立ち仕事や座り仕事が避けられない場合は、定期的に足を動かすことが重要です。1時間に5分程度、足首の曲げ伸ばしやつま先立ちなどの簡単な運動を行うことで、ふくらはぎの筋肉ポンプを活性化させ、静脈の血流を促進できます。

また、足を長時間下げたままの姿勢を避け、可能であれば足を心臓より高い位置に上げる時間を作りましょう。就寝時に足の下に薄い枕を置くのも効果的です。

適切な運動の重要性

ウォーキングや水泳、自転車こぎなどの有酸素運動は、下肢の筋肉を鍛え、静脈の血流を改善するのに役立ちます。特に水中での運動は、水圧による自然な圧迫効果もあり、静脈うっ滞の予防に適しています。

ただし、重量挙げのような強い力を必要とする運動は、腹圧が上昇して静脈圧を高める可能性があるため、避けた方が良いでしょう。

体重管理と食生活

肥満は下肢静脈瘤のリスク因子の一つです。適正体重の維持を心がけ、必要であれば減量を検討しましょう。食生活では、食物繊維を多く含む食品を摂取して便秘を予防し、塩分の過剰摂取を避けることが重要です。

また、フラボノイドを多く含むブルーベリーや柑橘類、ブドウなどの果物や、ルチンを含むそばなどは、静脈の健康維持に役立つとされています。

適切な衣類の選択

きつい下着やベルト、靴下は血流を妨げる可能性があります。締め付けの少ない衣類を選び、特に長時間のフライトや移動時には、弾性ストッキングの着用を検討しましょう。

ハイヒールの常用も避け、適度な高さの靴を選ぶことで、ふくらはぎの筋肉の適切な動きを促進できます。

これらの予防策と生活習慣の改善は、下肢静脈瘤による皮膚病変の発症リスクを低減するだけでなく、すでに症状がある方の症状緩和にも役立ちます。症状が気になる場合は、早めに専門医に相談することをお勧めします。

まとめ:専門医による早期診断・治療の重要性

下肢静脈瘤による皮膚病変は、進行すると生活の質を著しく低下させる可能性がある合併症です。しかし、適切な診断と治療により、多くの場合は症状の改善や進行の抑制が可能です。

この記事でご紹介したように、静脈うっ滞性皮膚炎は初期段階では単なるかゆみや赤みとして現れますが、放置すると色素沈着や皮膚の硬化、最終的には潰瘍形成にまで進行する可能性があります。

皮膚の症状だけを見て皮膚科的治療を続けても改善しない場合は、下肢静脈瘤が原因となっている可能性を考慮する必要があります。そのような場合は、血管外科や静脈瘤を専門とするクリニックでの診察をお勧めします。

現在の医療技術では、下肢静脈瘤に対する低侵襲治療が発達しており、多くの場合は日帰りでの治療が可能です。特に初期から中等度の皮膚病変では、静脈瘤の治療によって皮膚症状も著明に改善することが期待できます。

予防と早期発見も重要です。長時間の立ち仕事や座り仕事が多い方、妊娠・出産を経験された方、家族に静脈瘤がある方は特にリスクが高いため、定期的なチェックをお勧めします。

足のむくみやだるさ、皮膚の変化に気づいたら、早めに専門医に相談しましょう。適切な診断と治療により、健康で快適な生活を取り戻すことができます。

当院では、下肢静脈瘤の診断から治療まで一貫して行っており、患者さん一人ひとりの状態に合わせた最適な治療プランをご提案しています。お気軽にご相談ください。

西梅田静脈瘤・痛みのクリニックでは、下肢静脈瘤血管内焼灼術指導医・実施医の資格を持つ医師が、豊富な知識と経験を活かした専門的な治療を提供しています。皮膚病変でお悩みの方も、ぜひ一度ご相談ください。

【著者】

西梅田 静脈瘤・痛みのクリニック 院長 小田 晃義

【略歴】

現在は大阪・西梅田にて「西梅田 静脈瘤・痛みのクリニック」の院長を務める。

下肢静脈瘤の日帰りレーザー手術・グルー治療(血管内塞栓術)・カテーテル治療、再発予防指導を得意とし、

患者様一人ひとりの状態に合わせたオーダーメイド医療を提供している。

早期診断・早期治療”を軸に、「足のだるさ・むくみ・痛み」の原因を根本から改善することを目的とした診療方針を掲げ、静脈瘤だけでなく神経障害性疼痛・慢性腰痛・坐骨神経痛にも対応している。

【所属学会・資格】

日本医学放射線学会読影専門医、認定医

日本IVR学会専門医

日本脈管学会専門医

下肢静脈瘤血管内焼灼術指導医、実施医

マンモグラフィー読影認定医

本記事は、日々の臨床現場での経験と、医学的根拠に基づいた情報をもとに監修・執筆しています。

インターネットには誤解を招く情報も多くありますが、当院では医学的エビデンスに基づいた正確で信頼性のある情報提供を重視しています。

特に下肢静脈瘤や慢性疼痛は、自己判断では悪化を招くケースも多いため、正しい知識を広く伝えることを使命と考えています。