下肢静脈瘤とは？症状と原因を医師が解説

下肢静脈瘤は、足の静脈が瘤（こぶ）のように膨らんでしまう病気です。日本では1000万人以上の患者さんがいると推測されていますが、多くの方が「年のせいだから」と諦めて、病院を受診せずに我慢している現状があります。

足の血管が浮き出て目立つようになったり、むくみやだるさを感じたりすることはありませんか？これらは下肢静脈瘤の初期症状かもしれません。

下肢静脈瘤が発生するメカニズムを簡単に説明しましょう。私たちの体の血管は、動脈と静脈に分かれています。動脈は心臓から酸素を含んだ血液を体中に送り出し、静脈は使われた血液を心臓に戻す役割を担っています。

足の静脈には「静脈弁」と呼ばれる逆流防止弁が備わっており、重力に逆らって血液を心臓に戻す働きをしています。この静脈弁が何らかの原因で壊れると、血液が逆流して足に溜まってしまい、静脈が膨張・蛇行して下肢静脈瘤が発生するのです。

下肢静脈瘤の主な症状と進行度

下肢静脈瘤は初期症状が軽いため、「様子を見ても大丈夫だろう」と治療を先送りにしがちです。しかし、放置すると症状は徐々に進行していきます。

初期段階では、足のだるさや夕方になると感じるむくみ程度の症状であることが多いですが、進行すると以下のような症状が現れてきます。

• 足の血管が浮き出る・目立つ
• 足のむくみや重さ感
• 夜間のこむら返り（足がつる）
• かゆみや痛み
• 皮膚の変色や硬化
• 潰瘍の形成

特に立ち仕事が多い方や、妊娠中の方は症状が急速に進行する可能性があります。私の診療経験からも、美容師さんや調理師さん、看護師さんなど長時間立ち続ける職業の方に多く見られます。

下肢静脈瘤は、症状の程度によって大きく4種類に分類されます。

• クモの巣状静脈瘤：皮内の毛細血管が拡張したもので、青色に見えます
• 網目状静脈瘤：皮膚下の細い静脈が拡張した状態で、赤く見えます
• 伏在静脈瘤：本幹や主要分枝が拡張したもの
• 側枝静脈瘤：伏在静脈から分かれた血管の交通枝が拡張したもの

症状が進行すると、見た目の問題だけでなく、二酸化炭素や老廃物が溜まったままになったり、静脈内の圧力が高くなって炎症を引き起こしたりと、さまざまな症状を引き起こします。

放置するとどうなる？合併症のリスク

下肢静脈瘤を長期間放置すると、さまざまな合併症を引き起こす可能性があります。早期発見・早期治療が重要な理由はここにあります。

最も気をつけるべき合併症には、以下のようなものがあります。

血栓性静脈炎

静脈瘤のこぶに血栓（血の固まり）ができて炎症を起こす状態です。強い痛みや周囲の熱感を伴います。

「血栓ができると、それが飛んで脳梗塞や心筋梗塞になるのでは？」と心配される方もいらっしゃいますが、この血栓は浅いところにできるため、脳梗塞や心筋梗塞の原因となることはありません。そのため、静脈瘤があるからといって、血液をサラサラにする薬を飲む必要はないのです。

皮膚潰瘍（かいよう）

血液の循環が悪くなることで、足の皮膚に傷ができやすくなり、その傷が治りにくくなります。これを「静脈性潰瘍」と呼びます。

潰瘍がひどくなって足を切断しないといけなくなると心配される方もいますが、静脈性であれば、その心配はありません。ただし、潰瘍ができると治療期間が長くなり、日常生活に大きな支障をきたすことになります。

静脈瘤からの出血

拡張した血管が傷ついたりすると、出血することがあります。静脈血なので圧迫すれば止まりますが、こぶ（静脈瘤）の中に溜まった血液が出てくるため、勢いよく出血する場合もあります。

下肢静脈瘤を放置すると、これらの合併症リスクが高まるだけでなく、足のだるさや痛みによって生活の質が大きく低下します。立ち仕事や長時間の歩行が辛くなり、日常生活にも支障をきたすようになるのです。

下肢静脈瘤になりやすい人の特徴

下肢静脈瘤は誰にでも起こりうる病気ですが、特になりやすい方の特徴があります。

長年の臨床経験から、以下のような方は特に注意が必要です。

遺伝的要因

両親のうちどちらかに下肢静脈瘤がある方は、その体質の遺伝により発症率が高くなります。父もしくは母が静脈瘤であるなら40%、父母ともに静脈瘤があるなら発症率は80%になるといわれています。

ご家族に下肢静脈瘤の方がいる場合は、予防的なケアを早めに始めることをお勧めします。

職業的要因

長時間の立ち仕事や座りっぱなしの仕事をされている方は、下肢静脈瘤のリスクが高まります。

• 美容師
• 調理師
• 看護師
• 教師
• 販売員
• デスクワーク中心のオフィスワーカー

これらの職業の方は、足の筋肉が血液を心臓に戻すポンプの役割を十分に果たせないため、静脈に血液が溜まりやすくなります。

女性ホルモンの影響

妊娠をきっかけに下肢静脈瘤ができる方も少なくありません。これは女性ホルモンが血管を広がりやすくする働きがあり、静脈弁が壊れてしまうことで起こります。また、妊娠中は子宮が大きくなることで骨盤内の静脈が圧迫され、足の静脈に負担がかかることも原因の一つです。

複数回の出産経験がある方は、特に注意が必要です。

その他のリスク要因

以下の要因も下肢静脈瘤のリスクを高めます。

• 肥満：過剰な体重が静脈に圧力をかけます
• 加齢：年齢とともに静脈弁が弱くなります
• 運動不足：足の筋肉ポンプ機能が低下します
• 便秘：排便時のいきみが静脈圧を上昇させます
• 身体を締め付ける衣類：血流を妨げます
• 高いヒールの常用：足の筋肉の動きが制限されます

下肢静脈瘤の最新治療法

下肢静脈瘤の治療法は、近年大きく進化しています。2025年現在、日帰りで受けられる低侵襲な手術が主流となっており、患者さんの身体的・経済的負担も軽減されています。

当院では、患者さんの状態や希望に合わせて最適な治療法を提案しています。主な治療法をご紹介します。

血管内焼灼術（レーザー・高周波）

現在の下肢静脈瘤治療の主流となっている方法です。カテーテルを使い、静脈内からレーザーや高周波を照射して内側から血管を閉塞します。

メリットとしては、小さな傷で済み、回復も早いことが挙げられます。日帰り手術が可能で、術後すぐに歩行でき、翌日には通常の活動に戻れることが多いです。

保険適用となる治療法で、自己負担額（3割負担の場合）は約30,600円程度、両足の場合は約1.5〜2倍となります。

血管内塞栓術（グルー治療）

2019年に日本で保険適用となった最新の治療法です。医療用接着剤（グルー）を注入して静脈を閉塞します。熱を使わないため術中の痛みが少なく、術後の弾性ストッキングも不要なケースが多いのが特徴です。

特に術後弾性ストッキングを着用できない方や早期に職場復帰を希望される方、術中の負担を少なくしたい方に適しています。

自己負担額（3割負担の場合）は約40,380円程度です。

硬化療法

硬化剤を注射し、静脈を閉塞させる方法です。小さな静脈瘤や蜘蛛の巣状静脈瘤、また他の治療後の残存瘤に用いられます。費用が安価で身体的負担も軽いのが特徴です。

自己負担額（3割負担の場合）は約5,160円程度です。

ストリッピング手術

静脈を物理的に引き抜く従来の方法です。以前は主流でしたが、現在は血管内焼灼術や血管内塞栓術に置き換わりつつあります。

大きく蛇行した血管や原因となっている静脈が皮膚から盛り上がっているような場合は、この手術が選択されることもあります。

早期発見・早期治療の重要性

下肢静脈瘤は放置すると徐々に進行し、症状が悪化するだけでなく、治療も複雑になる可能性があります。早期発見・早期治療には、以下のようなメリットがあります。

• 症状の進行を防げる
• 合併症のリスクを減らせる
• より簡単な治療で済む
• 治療期間が短くて済む
• 医療費を抑えられる

以下のような症状がある場合は、専門医の診察を受けることをお勧めします。

• 足のだるさが気になる
• 目立つ血管がある
• むくみが頻繁に起こる
• 夜間のこむら返りがある

現代の下肢静脈瘤治療は、日帰り手術が可能な低侵襲な方法が主流です。レーザーや高周波、グルー治療などは、痛みも少なく、術後の回復も早いのが特徴です。

保険適用となる治療法も多くあり、経済的な負担を抑えながら治療を受けることができます。

まとめ：下肢静脈瘤は放置せず専門医に相談を

下肢静脈瘤は、放置すると重大な合併症を引き起こす可能性がある進行性の病気です。初期症状が軽いために治療を先送りにしがちですが、早期発見・早期治療が何よりも重要です。

当院では、下肢静脈瘤血管内焼灼術指導医・実施医の資格を持つ医師が、豊富な知識と経験を活かした治療を提供しています。カテーテル治療、高周波カテーテル治療、グルー治療、ストリッピング手術、高位結紮術、硬化療法などを日帰りで受けていただけます。

足のむくみやだるさ、血管の浮き出しなどの症状でお悩みの方は、ぜひ一度専門医にご相談ください。適切な治療を受けることで、症状の改善だけでなく、生活の質の向上にもつながります。

下肢静脈瘤は「年のせい」「体質だから仕方ない」と諦めるのではなく、現代の医療技術を活用して積極的に治療することをお勧めします。

詳しい情報や診療のご予約は、西梅田静脈瘤・痛みのクリニックまでお気軽にお問い合わせください。

【著者】

西梅田 静脈瘤・痛みのクリニック 院長　小田 晃義

【略歴】

現在は大阪・西梅田にて「西梅田 静脈瘤・痛みのクリニック」の院長を務める。

下肢静脈瘤の日帰りレーザー手術・グルー治療（血管内塞栓術）・カテーテル治療、再発予防指導を得意とし、

患者様一人ひとりの状態に合わせたオーダーメイド医療を提供している。

早期診断・早期治療”を軸に、「足のだるさ・むくみ・痛み」の原因を根本から改善することを目的とした診療方針を掲げ、静脈瘤だけでなく神経障害性疼痛・慢性腰痛・坐骨神経痛にも対応している。

【所属学会・資格】

日本医学放射線学会読影専門医、認定医

日本IVR学会専門医

日本脈管学会専門医

下肢静脈瘤血管内焼灼術指導医、実施医

マンモグラフィー読影認定医

本記事は、日々の臨床現場での経験と、医学的根拠に基づいた情報をもとに監修・執筆しています。

インターネットには誤解を招く情報も多くありますが、当院では医学的エビデンスに基づいた正確で信頼性のある情報提供を重視しています。

特に下肢静脈瘤や慢性疼痛は、自己判断では悪化を招くケースも多いため、正しい知識を広く伝えることを使命と考えています。