コラム

2025.11.18

下肢静脈瘤はなぜ起こる?専門医が教える発症メカニズム

足の血管がボコボコと浮き出たり、夕方になると足がむくんでだるくなったりする症状でお悩みではありませんか?これらは「下肢静脈瘤」の症状かもしれません。下肢静脈瘤は日本人の約10人に1人が抱える身近な病気です。特に妊娠・出産を経験した女性では2人に1人の割合で発症するとも言われています。

私は西梅田静脈瘤・痛みのクリニック院長の小田晃義です。血管外科専門医として多くの下肢静脈瘤患者さんを診てきた経験から、今回は下肢静脈瘤がなぜ起こるのか、そのメカニズムについて詳しく解説します。

この記事を読むことで、下肢静脈瘤の発症原因を理解し、適切な予防法や治療法を知ることができます。日常生活での注意点も含めて説明しますので、症状でお悩みの方はぜひ参考にしてください。

下肢静脈瘤とは?基本的なメカニズムを理解しよう

下肢静脈瘤(かしじょうみゃくりゅう)は、足の静脈が異常に拡張してコブ(瘤)のように膨らんでしまう血管の病気です。「下肢」とは足のことで、「静脈瘤」は静脈がコブのようにふくらんだ状態を表します。

静脈瘤と聞くと、腫瘍のように静脈が悪性化するものと誤解される方もいらっしゃいますが、そうではありません。静脈としての働きが悪くなった結果、静脈がふくらんでコブのようになるのが静脈瘤の正体です。

まずは血管の基本的な仕組みから説明しましょう。血管には「動脈」「毛細血管」「静脈」の3種類があります。

動脈は心臓から酸素や栄養を豊富に含んだ血液を体中に送り出す役割を持っています。

毛細血管は動脈から送られてきた血液の酸素や栄養素を体の細胞に届け、同時に老廃物を回収します。

静脈は栄養分が少なく老廃物を含んだ「使用済みの血液」を心臓に戻す役割を担っています。

動脈では心臓がポンプの役割をして血液を全身に送り出しますが、静脈には血液を心臓へ戻すためのポンプがありません。頭など心臓より高い位置にある静脈の血液は重力によって自然と心臓に戻りますが、足など心臓より低い位置にある静脈の血液は重力に逆らって戻る必要があります。

では、足の静脈はどのようにして血液を心臓に戻しているのでしょうか?

足の静脈が血液を心臓に戻す2つの仕組み

足の静脈が血液を心臓に戻すには、主に2つの重要な仕組みがあります。

1. ふくらはぎの筋肉による「ポンプ作用」

歩いたり立ったりすると、ふくらはぎの筋肉が収縮します。この筋肉の収縮によって静脈が押しつぶされ、その圧力で静脈内の血液が上へ押し上げられるのです。

具体的には「筋肉が縮む→静脈が圧迫される→血液が上に押し上げられる」「筋肉が伸びる→静脈が緩む」というサイクルが繰り返され、ポンプのような働きをして血液を心臓に送り返します。これを「筋ポンプ作用」と呼びます。

2. 血液の逆流を防ぐ「静脈弁」

ふくらはぎの筋肉のポンプ作用で血液を上に押し上げても、静脈がただの管だけでは、重力によって血液はまた下に逆流してしまいます。そこで重要な役割を果たすのが「静脈弁」です。

静脈弁は「ハの字型」をしており、血液が下から上には流れますが、上から下には流れない一方通行の構造になっています。この弁が正常に機能していれば、血液の逆流を防ぎながら心臓に戻すことができます。

この2つの仕組み、「ふくらはぎの筋肉ポンプ」と「静脈弁」が正常に機能することで、足の静脈の血液は重力に逆らって心臓に戻ることができるのです。

しかし、何らかの原因でこの静脈弁が機能不全を起こすと、血液の逆流が生じてしまいます。

静脈弁が壊れると、どうなるのでしょうか?

下肢静脈瘤が発症するメカニズム

下肢静脈瘤の発症メカニズムは、主に静脈弁の機能不全から始まります。

静脈弁の機能不全と血液の逆流

静脈弁が何らかの理由で壊れたり、うまく閉じなくなったりすると、本来心臓に戻るべき血液が下方向に逆流してしまいます。血液が逆流すると、静脈内の圧力が高まり、静脈の壁に負担がかかります。

この状態が続くと、静脈の壁が徐々に伸びて拡張し、やがてコブ状に膨らんで下肢静脈瘤となるのです。

表在静脈と深部静脈の関係

足の静脈は「表在静脈」と「深部静脈」の2種類に分けられます。

深部静脈は筋肉の間など足の深い部分を流れる太い静脈で、歩いたり足を動かしたりすることで筋肉に囲まれてポンプの働きをします。

表在静脈は皮膚のすぐ下を流れる細い静脈で、大伏在静脈(だいふくざいじょうみゃく)と小伏在静脈(しょうふくざいじょうみゃく)に分かれています。表在静脈は筋肉に囲まれていないため、ポンプの役割が弱く、血液はゆっくりと流れています。

通常、表在静脈の血液は「穿通枝(せんつうし)」という枝を通って深部静脈へ流れていきます。しかし、この穿通枝の弁や表在静脈の弁が機能不全を起こすと、深部静脈から表在静脈へ血液が逆流し、表在静脈が拡張して静脈瘤になってしまうのです。

下肢静脈瘤の発症メカニズムをまとめると、次のようになります:

  • 静脈の逆流防止弁が機能不全を起こす
  • 本来心臓へ戻るべき血液が逆流する
  • 逆流した血液により静脈内の圧力が高まる
  • 静脈が拡張してコブ状に膨らむ

では、なぜ静脈弁が機能不全を起こすのでしょうか?

下肢静脈瘤になりやすい人の特徴と原因

下肢静脈瘤の発症には様々な要因が関わっています。ここでは、下肢静脈瘤になりやすい人の特徴と主な原因を解説します。

1. 遺伝的要因

下肢静脈瘤は非常に遺伝性が高い病気です。両親のどちらかに下肢静脈瘤がある場合は約40%、両親ともに下肢静脈瘤がある場合は約90%の確率で発症するというデータもあります。

生まれつき静脈の壁が弱かったり、静脈弁の構造に問題があったりすると、若いうちから下肢静脈瘤を発症することがあります。遺伝的な要因は最も大きな原因の一つと言えるでしょう。

2. 妊娠・出産

妊娠中は黄体ホルモンの影響で静脈が柔らかくなり、弁が壊れやすくなります。また、子宮が大きくなると腹部の静脈が圧迫され、足の静脈への負担が増加します。

そのため、妊娠・出産を経験した女性は下肢静脈瘤になりやすく、出産回数が多いほど発症リスクが高まります。実際、出産経験のある女性の約半数が何らかの静脈瘤症状を持つと言われています。

3. 職業・生活習慣

長時間の立ち仕事や座り仕事は下肢静脈瘤のリスクを高めます。特に美容師、販売員、調理師、教師、看護師など、1日10時間以上立ち仕事をする職業の方は要注意です。

立ちっぱなしの状態では、ふくらはぎの筋肉ポンプが十分に機能せず、静脈内の血液が滞りやすくなります。また、デスクワークなどで座りっぱなしの状態も同様に血液循環を悪化させます。

4. 加齢

年齢を重ねるにつれて静脈の壁や弁の弾力性が低下し、機能が衰えていきます。そのため、60〜70代の発症率は若い世代に比べて高くなります。加齢による組織の老化は避けられないため、年齢とともに下肢静脈瘤のリスクは自然と高まります。

5. その他の要因

肥満も重要なリスク因子です。体重が増えると足にかかる負担が大きくなり、静脈への圧力も増加します。また、激しいスポーツ(特にマラソンやバスケットボールなど足に負担のかかるもの)、高身長、便秘なども下肢静脈瘤の発症や悪化に関わることがあります。

性別で見ると、男性よりも女性に多い傾向があります。これは女性ホルモンの影響や、筋力の差などが関係していると考えられています。

下肢静脈瘤の主な症状と進行

下肢静脈瘤は初期には目立った症状がないことも多いですが、進行するにつれて様々な症状が現れます。ここでは主な症状と進行について説明します。

初期症状

初期段階では、以下のような症状が見られることがあります:

  • 足のむくみ(特に夕方から夜にかけて悪化)
  • 足の重だるさ、疲れやすさ
  • 足のほてりや熱感
  • 夜間のこむら返り(足がつる)
  • かゆみ

これらの症状は立ち仕事や長時間の同じ姿勢の後に悪化することが多く、横になって休むと改善する傾向があります。

進行した症状

静脈瘤が進行すると、以下のような症状が現れることがあります:

  • 静脈が浮き出て蛇行する(特にふくらはぎに多い)
  • 皮膚の色素沈着(茶褐色や黒褐色に変色)
  • 湿疹や皮膚炎
  • 皮膚の硬化や萎縮
  • 潰瘍形成(治りにくい傷)
  • 静脈炎(静脈の炎症)による痛み

特に潰瘍は重症化した下肢静脈瘤の合併症として注意が必要です。一度潰瘍ができると治りにくく、感染症のリスクも高まります。

下肢静脈瘤の種類

下肢静脈瘤は見た目や症状によって以下のように分類されます:

  • 伏在型静脈瘤:大伏在静脈や小伏在静脈の逆流が原因で発生し、様々な症状を引き起こします。
  • 側枝型静脈瘤:主幹ではなく支流の静脈に発生し、比較的小さなコブ状になります。
  • 網目状静脈瘤:皮膚下の細い静脈が拡張した状態で、下肢静脈瘤の中でもっとも多い症状です。
  • くも状静脈瘤:皮膚内の毛細血管が拡張した状態で、血管がクモの巣のように広がって見えます。

これらの種類によって適切な治療法が異なるため、専門医による正確な診断が重要です。

下肢静脈瘤は命に関わる病気ではありませんが、放置すると症状が進行し、日常生活に支障をきたすことがあります。

では、下肢静脈瘤はどのように診断され、治療されるのでしょうか?

下肢静脈瘤の診断と治療法

下肢静脈瘤の診断には、主に超音波(エコー)検査が用いられます。かつては静脈造影検査という造影剤を注射してレントゲンを撮影する方法が一般的でしたが、現在はより安全で痛みのない超音波検査が主流となっています。

超音波検査では、足の付け根からふくらはぎまでの皮膚にゼリーを塗り、プローブと呼ばれる機器を当てて静脈の状態を確認します。この検査により、静脈の逆流の有無や程度、静脈瘤の範囲などを正確に把握することができます。

保存的治療

症状が軽度の場合や、手術が難しい場合には以下のような保存的治療が行われます:

1. 圧迫療法(弾性ストッキング)

弾性ストッキングは足首部分の圧力が強く、心臓に向かって圧が弱くなるグラデーション設計になっています。この圧迫によって血液の逆流や停滞を抑え、むくみや重だるさなどの症状を軽減することができます。

ただし、弾性ストッキングは静脈瘤そのものを消失させることはできません。また、市販の着圧ソックスと医療用弾性ストッキングは圧迫力や効果が異なるため、症状がある場合は医師の処方を受けることをお勧めします。

2. 生活習慣の改善

適度な運動(特にウォーキングや水泳など)、体重管理、長時間の立ち仕事や座り仕事を避ける、足を高くして休むなどの生活習慣の改善も効果的です。

積極的な治療法

症状が強い場合や、血液の逆流が著しい場合には、以下のような治療法が検討されます:

1. 硬化療法

細い静脈瘤に対して行われる治療法で、特殊な薬剤を静脈瘤に直接注入して静脈を閉塞させます。比較的小さな静脈瘤に対して効果的です。

2. 血管内焼灼術

現在、下肢静脈瘤の標準的な治療法となっています。カテーテルを静脈内に挿入し、レーザーや高周波(ラジオ波)を用いて静脈を内側から焼灼して閉塞させる方法です。

主な血管内焼灼術には以下の種類があります:

  • EVLA(レーザー焼灼術):レーザーを用いて静脈を焼灼します
  • RFA(高周波焼灼術):ラジオ波を用いて静脈壁を熱凝固させます

これらの治療は局所麻酔で行われ、日帰り手術が可能です。傷跡も最小限で済み、術後の痛みも少ないのが特徴です。

3. ストリッピング手術

従来から行われている手術法で、小さな切開から逆流の原因となっている静脈を引き抜く方法です。血管内焼灼術ができない場合(静脈の蛇行が強い場合など)に選択されることがあります。

4. グルー治療

最近では、シアノアクリレートという接着剤を用いたグルー治療(VenaSeal)なども行われるようになってきています。

当院では患者さんの症状や静脈の状態に合わせて、最適な治療法をご提案しています。特に血管内焼灼術については、レーザーと高周波を症例に応じて使い分けることで、より効果的な治療を目指しています。

下肢静脈瘤の予防法と日常生活での注意点

下肢静脈瘤は完全に予防することは難しいですが、以下のような対策を取ることでリスクを減らしたり、症状の進行を遅らせたりすることができます。

日常生活での予防法
  • 適度な運動:ウォーキングや水泳など、ふくらはぎの筋肉を使う運動を定期的に行いましょう。筋肉ポンプの機能を高めることで、静脈の血液循環を改善することができます。
  • 体重管理:肥満は静脈への負担を増やすため、適正体重を維持することが重要です。
  • 長時間の同じ姿勢を避ける:立ちっぱなしや座りっぱなしの状態が続くと血液が滞りやすくなります。1時間に1回程度は姿勢を変えたり、軽く歩いたりするようにしましょう。
  • 足を高くして休む:就寝時や休憩時に足を心臓より高い位置に上げることで、静脈の血液が心臓に戻りやすくなります。
  • 圧迫療法の活用:リスクが高い方や初期症状がある方は、医療用弾性ストッキングの着用を検討してください。
立ち仕事の方への具体的アドバイス

美容師や販売員、看護師など立ち仕事が多い職業の方は、特に下肢静脈瘤のリスクが高いです。以下のような工夫を取り入れてみてください:

  • 休憩時間にはできるだけ足を高くして休む
  • 医療用弾性ストッキングを着用する
  • 足踏み運動や足首の回転運動を定期的に行う
  • 適切なクッション性のある靴を選ぶ
  • 勤務後は足を高くして横になり、血液循環を促す
妊娠中・出産後の女性へのアドバイス

妊娠中は特に下肢静脈瘤のリスクが高まります。以下のような対策を心がけましょう:

  • 医師と相談の上、妊娠用の弾性ストッキングを着用する
  • 左側を下にして横になる習慣をつける(右側に比べて血液循環が改善される)
  • 長時間の立ち仕事や座り仕事を避ける
  • 適度な運動を継続する(医師の許可を得た上で)
  • 出産後も症状が続く場合は専門医に相談する

下肢静脈瘤は一度発症すると完全に元に戻ることは難しいですが、適切な予防と早期治療によって症状をコントロールすることが可能です。気になる症状がある場合は、早めに専門医に相談することをお勧めします。

まとめ:下肢静脈瘤の発症メカニズムと対策

今回は下肢静脈瘤の発症メカニズムについて詳しく解説しました。要点をまとめると以下のようになります:

  • 下肢静脈瘤は、足の静脈の逆流防止弁が機能不全を起こし、血液が逆流することで静脈が拡張して発症します。
  • 主な原因としては、遺伝的要因、妊娠・出産、立ち仕事などの職業、加齢、肥満などが挙げられます。
  • 症状としては、足のむくみ、重だるさ、こむら返り、静脈の浮き出し、皮膚の変色などがあり、進行すると潰瘍を形成することもあります。
  • 診断には主に超音波検査が用いられ、症状に応じて弾性ストッキングなどの保存的治療や、血管内焼灼術などの手術的治療が選択されます。
  • 予防法としては、適度な運動、体重管理、長時間の同じ姿勢を避けること、足を高くして休むことなどが効果的です。

下肢静脈瘤は放置すると症状が進行する可能性がありますが、早期に適切な治療を受ければ、症状の改善や進行の抑制が期待できます。気になる症状がある方は、専門医への相談をお勧めします。

当院では下肢静脈瘤の日帰り手術を含む様々な治療法を提供しています。血管内焼灼術(レーザー治療・高周波治療)、硬化療法、ストリッピング手術など、患者さんの症状や状態に合わせた最適な治療法をご提案いたします。

足の症状でお悩みの方は、ぜひ一度西梅田静脈瘤・痛みのクリニックにご相談ください。専門医による適切な診断と治療で、快適な日常生活を取り戻すお手伝いをいたします。

西梅田静脈瘤・痛みのクリニックでは、下肢静脈瘤の診断から治療まで一貫して対応しております。お気軽にご相談ください。

【著者】

西梅田 静脈瘤・痛みのクリニック 院長 小田 晃義

【略歴】

現在は大阪・西梅田にて「西梅田 静脈瘤・痛みのクリニック」の院長を務める。

下肢静脈瘤の日帰りレーザー手術・グルー治療(血管内塞栓術)・カテーテル治療、再発予防指導を得意とし、

患者様一人ひとりの状態に合わせたオーダーメイド医療を提供している。

早期診断・早期治療”を軸に、「足のだるさ・むくみ・痛み」の原因を根本から改善することを目的とした診療方針を掲げ、静脈瘤だけでなく神経障害性疼痛・慢性腰痛・坐骨神経痛にも対応している。

【所属学会・資格】

日本医学放射線学会読影専門医、認定医

日本IVR学会専門医

日本脈管学会専門医

下肢静脈瘤血管内焼灼術指導医、実施医

マンモグラフィー読影認定医

本記事は、日々の臨床現場での経験と、医学的根拠に基づいた情報をもとに監修・執筆しています。

インターネットには誤解を招く情報も多くありますが、当院では医学的エビデンスに基づいた正確で信頼性のある情報提供を重視しています。

特に下肢静脈瘤や慢性疼痛は、自己判断では悪化を招くケースも多いため、正しい知識を広く伝えることを使命と考えています。