コラム

2025.11.18

下肢静脈瘤の原因と予防法|医師が解説する6つの発症リスク

下肢静脈瘤とは?症状と基本メカニズム

下肢静脈瘤は、足の静脈の血流が逆流・停滞して静脈が拡張した状態です。見た目では足の静脈がボコボコと浮き出て、蛇行しているのが特徴的です。

足の静脈には血液の逆流を防ぐための「弁」がたくさん付いています。この弁が何らかの理由で壊れて機能しなくなると、血液が心臓に戻りにくくなり、足の静脈に血液が溜まってしまうのです。

西梅田静脈瘤・痛みのクリニックでは、このような下肢静脈瘤に対して、日帰りでの高度な治療を提供しています。私は血管内焼灼術指導医として、これまで多くの患者さんの治療に携わってきました。

下肢静脈瘤の主な症状には、足のだるさや重さ、かゆみ、痛み、むくみ、こむら返り(足がつる)などがあります。また、進行すると湿疹や色素沈着、さらには難治性の潰瘍へと進行する可能性もあるのです。

静脈瘤には、問題となる静脈の大きさによる分類があります。大きな静脈である伏在静脈の弁不全により逆流が起こる「伏在型」、支流の側枝に逆流が生じる「側枝型」、さらに小さな静脈に逆流が生じる「網目状」「クモの巣状」があります。

下肢静脈瘤の6つの発症リスク

下肢静脈瘤は誰にでも起こりうる病気ですが、特に以下のような方は発症リスクが高いことがわかっています。

1. 遺伝的要因

下肢静脈瘤には遺伝的な素因があることが明らかになっています。両親ともに静脈瘤がある場合、子供に遺伝する確率は約90%にも上ります。片方の親だけの場合でも、女の子には62%、男の子には25%の確率で遺伝するとされています。

血管の壁の弱さや、逆流を防ぐ弁の異常といった体質が遺伝することが強く示唆されています。ご家族に下肢静脈瘤の方がいる場合は、特に注意が必要です。

2. 長時間の立ち仕事・座り仕事

美容師、調理師、看護師など、長時間立ちっぱなしの職業に就いている方は要注意です。ふくらはぎの筋肉が「第二の心臓」と呼ばれるように、足の血液を心臓に戻すポンプの役割を果たしています。

立ちっぱなしや座りっぱなしの状態が続くと、このポンプ機能が低下し、静脈内の圧力が上昇して弁に負担がかかります。その結果、弁が破壊され、血液の逆流が生じてしまうのです。

3. 加齢による影響

年齢を重ねると静脈弁の機能が低下し、血液が逆流しやすくなります。60代以降で有病率が急上昇することがわかっています。

加齢に伴い、血管の弾力性が失われ、ふくらはぎの筋肉も弱くなっていきます。その結果、血液のうっ滞が起こりやすくなり、静脈瘤のリスクが高まるのです。

4. 性別とホルモンの影響

下肢静脈瘤は男性よりも女性に多く見られます。その理由の一つは、女性ホルモンが血管壁を緩める作用を持つためです。特に妊娠中は、子宮の圧迫やホルモンバランスの変化でリスクが高まります。

妊娠中に出現した静脈瘤は出産後に改善することも多いですが、完全に消えないこともあります。また、妊娠回数が多い方ほど静脈瘤の発生率は高くなる傾向にあります。

5. 肥満

体重が増えると、下半身にかかる静脈圧が増加し、静脈瘤の引き金になります。特に腹部肥満は血流を圧迫するため注意が必要です。

肥満気味で内臓脂肪の蓄積が多い方は腹圧(お腹の中の圧力)が上昇して、下肢静脈瘤が発症しやすくなります。腹圧が上昇すると、大静脈の圧力が増大し、下肢の深部静脈にも強い圧力がかかるのです。

6. 喫煙

喫煙は下肢静脈瘤の発症リスクを高める重要な因子です。タバコに含まれるニコチンやその他の有害物質が、血管系全体に悪影響を及ぼします。

ニコチンは血管を収縮させる作用があり、血流を悪化させます。これにより静脈内の圧力が上昇し、静脈弁への負担が増大するのです。長期間にわたってこの状態が続くと、静脈弁が損傷し、下肢静脈瘤の発症リスクが高まります。

喫煙者は非喫煙者と比較して、下肢静脈瘤の発症リスクが約1.5倍高いという研究結果もあります。特に長期間の喫煙習慣がある場合、このリスクはさらに高まるのです。

 

下肢静脈瘤の合併症リスク

下肢静脈瘤を放置していると、さまざまな合併症を引き起こす可能性があります。特に注意すべき合併症について詳しく見ていきましょう。

最も懸念される合併症の一つが「静脈血栓症」です。静脈瘤がある場合、血流がすでに滞っているため、血栓形成のリスクがさらに高まるのです。

浅い部分の血栓であれば比較的問題は少ないですが、深部静脈に血栓ができる「深部静脈血栓症」は非常に危険です。この血栓が肺に流れると、肺塞栓症という命に関わる重篤な状態を引き起こす可能性があります。

実際、台湾の研究では下肢静脈瘤と診断された患者さんは、深部静脈血栓症のリスクが約5.3倍も高いことが報告されています。これは決して軽視できない数字です。

今日からできる下肢静脈瘤の予防法

下肢静脈瘤の発症を予防し、症状を軽減するためには、日常生活での対策が重要です。今日から始められる効果的な予防法をご紹介します。

適度な運動習慣

ふくらはぎは「第二の心臓」とも言われるほど、血液の還流に重要な役割を果たします。1日20~30分程度のウォーキングや、足首を回す運動だけでも効果があります。

ウォーキングは足の筋肉を使うことで、静脈の血液を心臓に戻すポンプ機能を活性化させます。特に、かかとの上げ下げを繰り返すなど、ふくらはぎの筋肉を収縮させるストレッチがおすすめです。

体重管理

肥満予防と食生活の改善により、静脈への過剰な負担を回避できます。特に腹部肥満は腹圧を上昇させ、下肢の静脈に圧力をかけるため、適正体重の維持が重要です。

バランスの取れた食事と適度な運動を心がけ、健康的な体重を維持しましょう。また、塩分の取りすぎは水分貯留を促し、むくみの原因となるため注意が必要です。

足を高くする習慣

仕事や休憩中に足を心臓より高い位置に置くことで、血液の戻りを促進できます。デスクワークの合間や、帰宅後のリラックスタイムに実践してみましょう。

足を高くすると重力の助けを借りて、足に溜まった血液が心臓に戻りやすくなります。就寝時にクッションなどで足を少し高くするのも効果的です。

弾性ストッキングの活用

弾性ストッキングは特殊なストッキングで、全体的に強い締め付け圧があります。足首から上に向かって徐々に圧力を下げ、静脈の流れを改善します。

適切な圧力をかけることで血液の逆流を抑制し、症状の進行を防ぎます。特に立ち仕事の方や、妊娠中の方におすすめです。ただし、正しいサイズと着用方法が重要ですので、専門医に相談することをお勧めします。

長時間の同じ姿勢を避ける

長時間の立ちっぱなしや座りっぱなしは避け、定期的に姿勢を変えたり、軽い運動を取り入れたりすることが大切です。

デスクワークの方は1時間に1回は立ち上がって歩いたり、足首を回したりしましょう。逆に立ち仕事の方は、休憩時に足を高くして休めることをお勧めします。

下肢静脈瘤の治療法

下肢静脈瘤の症状が気になる場合は、早めに専門医に相談することをお勧めします。現在では様々な治療法が確立されており、症状や状態に合わせた適切な治療を受けることができます。

西梅田静脈瘤・痛みのクリニックでは、下肢静脈瘤に対して以下のような日帰り治療を提供しています。

血管内焼灼術

静脈に細い管(カテーテル)を入れ、内側から熱を加え、原因となる血管を塞ぐ治療です。レーザーや高周波(ラジオ波)を使用する方法があり、当院では両方に対応しています。

日帰りで行える低侵襲な治療法で、術後の痛みも少なく、早期の社会復帰が可能です。私は血管内焼灼術指導医として、安全で効果的な治療を心がけています。

血管内塞栓術(グルー治療)

静脈にカテーテルを入れ、静脈の内側を医療用接着材で接着してしまう治療です。特に傷口は小さな穴一箇所のみで、術後の運動制限はほとんどなく、すぐに普段通りの日常生活を送ることができます。

2019年より保険適用となった比較的新しい治療法ですが、その低侵襲性から患者さんからご好評いただいています。

硬化療法

細い静脈瘤に対して行う治療法で、静脈瘤に直接薬剤を注入して血管を閉塞させます。主に網目状やクモの巣状の静脈瘤に対して行われます。

注射だけの治療なので体への負担が少なく、複数回に分けて治療を行うことが一般的です。

まとめ

下肢静脈瘤は、足の静脈の血流が逆流・停滞して静脈が拡張した状態です。遺伝的要因、長時間の立ち仕事・座り仕事、加齢、女性ホルモン、肥満、喫煙などが主なリスク因子となります。

放置すると深部静脈血栓症などの重篤な合併症を引き起こす可能性もあるため、早めの対策が重要です。適度な運動、体重管理、足を高くする習慣、弾性ストッキングの活用など、日常生活での予防法を実践しましょう。

症状が気になる方は、専門医による適切な診断と治療を受けることをお勧めします。現在では日帰りで行える低侵襲な治療法も確立されていますので、安心して治療を受けることができます。

西梅田静脈瘤・痛みのクリニックでは、下肢静脈瘤血管内焼灼術指導医・実施医の資格を持つ医師が、豊富な知識と経験を活かした下肢静脈瘤治療を行っています。お気軽に 西梅田静脈瘤・痛みのクリニック までご相談ください。

【著者】

西梅田 静脈瘤・痛みのクリニック 院長 小田 晃義

【略歴】

現在は大阪・西梅田にて「西梅田 静脈瘤・痛みのクリニック」の院長を務める。

下肢静脈瘤の日帰りレーザー手術・グルー治療(血管内塞栓術)・カテーテル治療、再発予防指導を得意とし、

患者様一人ひとりの状態に合わせたオーダーメイド医療を提供している。

早期診断・早期治療”を軸に、「足のだるさ・むくみ・痛み」の原因を根本から改善することを目的とした診療方針を掲げ、静脈瘤だけでなく神経障害性疼痛・慢性腰痛・坐骨神経痛にも対応している。

【所属学会・資格】

日本医学放射線学会読影専門医、認定医

日本IVR学会専門医

日本脈管学会専門医

下肢静脈瘤血管内焼灼術指導医、実施医

マンモグラフィー読影認定医

本記事は、日々の臨床現場での経験と、医学的根拠に基づいた情報をもとに監修・執筆しています。

インターネットには誤解を招く情報も多くありますが、当院では医学的エビデンスに基づいた正確で信頼性のある情報提供を重視しています。

特に下肢静脈瘤や慢性疼痛は、自己判断では悪化を招くケースも多いため、正しい知識を広く伝えることを使命と考えています。