コラム

2025.11.18

下肢静脈瘤は生活習慣病ではない|誤解されやすい真の原因

下肢静脈瘤とは?正しい理解から始めましょう

下肢静脈瘤という言葉を聞いたことがある方は多いのではないでしょうか。足の表面に血管がボコボコと浮き出る状態を指し、成人の4人に1人は罹患しているとも言われる身近な病気です。

しかし、この病気については様々な誤解が広がっています。「生活習慣病だから食事や運動で改善できる」「放置すると足が壊死する」といった間違った情報に不安を感じている方も少なくありません。

血管外科医として多くの下肢静脈瘤患者さんを診てきた経験から言えることは、この病気は決して生活習慣病ではないということです。今回は下肢静脈瘤の本当の原因と正しい知識についてお伝えしていきます。

まずは下肢静脈瘤の基本から理解していきましょう。

下肢静脈瘤は、足の静脈が拡張して蛇行した状態です。通常、静脈には「逆流防止弁」があり、血液が心臓に向かって一方向に流れる仕組みになっています。この弁が壊れると血液が足元に逆流し、静脈の中で血液が渋滞を起こします。

長期間その状態が続くと、体がバイパスを作ろうとして、それが皮膚表面に浮き出てくるのが静脈瘤の正体なのです。

つまり、見た目にボコボコしている血管は「逆流の結果」であり、治療対象はその原因である「静脈の逆流そのもの」なのです。

「生活習慣病」という誤解—下肢静脈瘤の本当の原因

下肢静脈瘤が生活習慣病だと思われがちな理由は何でしょうか?

長時間の立ち仕事や座り仕事が多い方に発症しやすいことから、生活習慣が原因だと誤解されることがあります。確かに、これらの生活習慣は症状を悪化させる要因になりますが、根本的な原因ではありません。

下肢静脈瘤の主な原因は、実は先天的な静脈弁の脆弱性にあるのです。つまり、生まれつき静脈の弁が弱い方が発症しやすいということです。

この事実は意外と知られていません。生活習慣病と混同されるため、食事制限や運動だけで改善しようとする方もいらっしゃいますが、それだけでは根本的な解決にはなりません。

では、具体的にどのような要因が下肢静脈瘤の発症や悪化に関わっているのでしょうか?

遺伝的要因が大きく関わっている

下肢静脈瘤の最も重要な危険因子は「家族歴」です。両親のどちらかが下肢静脈瘤を持っている場合、子どもが発症するリスクは約40%に上昇します。両親ともに下肢静脈瘤がある場合は、そのリスクはさらに高くなります。

これは、静脈の壁や弁の構造的な弱さが遺伝することを示しています。

私の臨床経験でも、「母も祖母も下肢静脈瘤があった」という患者さんは非常に多いです。家族歴がある方は、早い段階から予防的なケアを始めることをお勧めします。

ホルモンバランスの変化も影響する

女性ホルモンの変動も下肢静脈瘤の発症に関わっています。特に妊娠中は、子宮の拡大による骨盤内の圧迫と、ホルモンバランスの変化により静脈の壁が弛緩しやすくなります。

妊娠を経験した女性は、そうでない女性に比べて下肢静脈瘤のリスクが約3倍高くなるというデータもあります。

閉経後のホルモン補充療法も静脈瘤のリスクを高める可能性があります。ホルモンバランスの変化が気になる方は、専門医に相談することをお勧めします。

このように、下肢静脈瘤は単なる生活習慣の問題ではなく、遺伝的要因やホルモンバランスなど、自分ではコントロールしきれない要素が大きく関わっているのです。

下肢静脈瘤に関する3つの危険な誤解

下肢静脈瘤について、インターネットやSNSで様々な情報が飛び交っています。しかし、その中には危険な誤解を招く情報も少なくありません。ここでは特に注意が必要な3つの誤解について解説します。

誤解①:「静脈瘤があると血栓ができて脳梗塞になる」

「下肢静脈瘤があると血栓ができて脳梗塞になる」という情報を目にすることがありますが、これは完全な誤解です。

脳梗塞は「動脈」の病気であり、下肢静脈瘤は「静脈」の病気です。全く別の血管系統の問題なので、下肢静脈瘤が直接脳梗塞のリスクを高めることはありません。

下肢静脈瘤に似た疾患で深部静脈血栓症がありますが、これはエコノミークラス症候群(肺塞栓症)の原因となることがあります。しかし、表在静脈が変性する下肢静脈瘤が、深部静脈血栓症の直接的な原因となることはほぼないのです。

どうですか?少し安心されましたか?

誤解②:「静脈瘤を放置すると足が壊死して切断が必要になる」

「下肢静脈瘤を放置すると足が壊死して切断しなければならなくなる」という情報も全くの誤解です。

足の壊死や切断が必要になるのは、主に糖尿病による血流障害や重篤な動脈硬化症などの場合です。これらは動脈の病気であり、静脈の病気である下肢静脈瘤とは根本的に異なります。

下肢静脈瘤の重症型として皮膚の欠損を伴う「うっ滞性潰瘍」という状態があります。しかし、下肢静脈瘤が潰瘍まで進展する頻度は低く、また、うっ滞性潰瘍が原因で下肢切断となることは稀です。

誤解③:「静脈瘤になったら全員が手術しなくてはいけない」

「下肢静脈瘤になったら全員が手術しなくてはいけない」という誤解も広がっています。

実際には、無症状の方や蜘蛛の巣状静脈瘤などは手術の対象とはなりません。また、手術以外に圧迫療法という有効な治療法も存在します。

治療が必要かどうかは、症状の程度や静脈瘤のタイプ、患者さんの生活スタイルなどを総合的に判断して決めるものです。

私のクリニックでも、まずは超音波検査で静脈の逆流の状態を確認し、患者さんの症状や希望を考慮した上で最適な治療法を提案しています。

このように、下肢静脈瘤に関する誤解を解くことで、不必要な不安や心配から解放されることが大切です。

下肢静脈瘤の本当の症状と進行度

下肢静脈瘤の症状は人によって様々です。軽度のものから重度のものまで、その進行度に応じた症状が現れます。

まず、初期症状としては足のむくみや重だるさ、かゆみなどが挙げられます。特に長時間立ち仕事をした後や、夕方になると症状が強くなる傾向があります。

夜中に足がつる(こむら返り)という症状も下肢静脈瘤に特徴的です。これは血液循環の悪化によって起こるもので、多くの患者さんが経験する症状です。

では、下肢静脈瘤はどのように進行していくのでしょうか?

無症候性から重症まで—4段階の進行度

下肢静脈瘤の進行度は大きく4つの段階に分けられます。

第1段階は「無症候性」です。足にボコボコとした静脈瘤が確認されますが、むくみや痛みなどの症状がない状態です。この段階では積極的な手術が必要ないことが多いです。

第2段階は「軽症」です。足のむくみ、重だるさ、かゆみ、痛み、足のつりなどの静脈うっ滞症状が現れます。これらの症状がある方は圧迫療法に加え、手術の対象となることがあります。

第3段階は「中等症」です。うっ滞性皮膚炎(脛の赤み・ただれ)や、色素沈着を認める方はうっ滞症状が強いため、圧迫療法と共に積極的な手術を検討する必要があります。

第4段階は「重症」です。皮膚が欠損してしまう「うっ滞性潰瘍」に至った場合には感染を伴うことも多く、無治療で経過をみていると悪化することもあるため積極的な治療が必要です。

あなたの症状はどの段階に当てはまりますか?

日常生活への影響—QOLの低下

下肢静脈瘤は命に関わる病気ではありませんが、日常生活の質(QOL)に大きな影響を与えることがあります。

例えば、足の重だるさやむくみのために長時間の立ち仕事や歩行が困難になったり、見た目の問題からスカートやショートパンツを履くことを避けたりする方もいらっしゃいます。

私が診察した40代女性の患者さんは、「子どもの運動会で長時間立っていられず、途中で帰らなければならなかった」と涙ながらに話されていました。このように、下肢静脈瘤は日常生活に様々な制限をもたらすことがあるのです。

症状が進行すると、夜間の足のつりや痛みで睡眠の質が低下し、日中の活動にも支障をきたすこともあります。早期の適切な治療介入が、QOLの維持・向上につながります。

下肢静脈瘤の最新治療法—進化する医療技術

下肢静脈瘤の治療法は近年大きく進化しています。従来の「ストリッピング手術」に加え、より低侵襲な治療法が次々と開発されています。

当院でも最新の治療法を取り入れ、患者さん一人ひとりの状態に合わせた最適な治療を提供しています。ここでは、現在主流となっている治療法について解説します。

日帰りで受けられる最新治療

現在、下肢静脈瘤の治療は日帰りで受けられるものが主流となっています。

「血管内レーザー治療」は、静脈の中に細いレーザーファイバーを通して、レーザーの熱によって静脈をふさぐ方法です。従来のストリッピング手術と比べて体への負担が少なく、回復も早いのが特徴です。

「ラジオ波治療」も同様に、カテーテルを用いて内側から血管を焼く治療法です。一度に7cmずつ焼けるので治療時間が短く、温度を自動制御するため常に一定の条件で治療できるメリットがあります。

最新の治療法として注目されているのが「グルー治療」です。これは瞬間接着剤(医療用グルー)を注入して静脈をふさぐ方法で、熱を使わないため痛みが少なく、特殊な局所麻酔も不要です。

これらの治療法はいずれも日帰りで受けられ、術後すぐに歩いて帰宅できるほど低侵襲です。治療後の痛みも少なく、日常生活への復帰も早いため、多くの患者さんに選ばれています。

症状に合わせた治療選択の重要性

下肢静脈瘤の治療は、「一人ひとりの症状や静脈瘤のタイプに合わせた個別化治療」が基本です。

軽度の症状であれば、圧迫療法(弾性ストッキングの着用)や生活習慣の改善だけで十分な場合もあります。一方、症状が進行している場合や、QOLに大きな影響がある場合は、積極的な治療介入を検討します。

また、静脈瘤のタイプによっても最適な治療法は異なります。例えば、蜘蛛の巣状静脈瘤には硬化療法が適していますが、伏在型静脈瘤にはレーザー治療やラジオ波治療が効果的です。

大切なのは、まず専門医による正確な診断を受け、自分の状態に最も適した治療法を選択することです。当院では超音波検査による詳細な血流評価を行い、患者さんの希望も考慮した上で最適な治療プランを提案しています。

まとめ—正しい知識で下肢静脈瘤と向き合う

今回は「下肢静脈瘤は生活習慣病ではない」という事実を中心に、この病気に関する誤解と真実についてお伝えしてきました。

下肢静脈瘤の主な原因は、生活習慣ではなく先天的な静脈弁の脆弱性や遺伝的要因です。もちろん、長時間の立ち仕事や座り仕事などの生活習慣が症状を悪化させることはありますが、根本的な原因ではありません。

また、「血栓ができて脳梗塞になる」「足が壊死して切断が必要になる」といった誤解も事実ではありません。下肢静脈瘤は命に関わる病気ではありませんが、放置すると日常生活の質を大きく低下させる可能性があります。

現在では、日帰りで受けられる低侵襲な治療法が進化しており、早期に適切な治療を受けることで症状の改善が期待できます。まずは専門医による正確な診断を受け、自分の状態に合った治療法を選択することが大切です。

下肢静脈瘤でお悩みの方は、ぜひ専門医療機関での相談をお勧めします。正しい知識と適切な治療で、快適な日常生活を取り戻しましょう。

当院では、下肢静脈瘤の日帰り手術を含む専門的な治療を提供しています。お気軽にご相談ください。

詳しい情報や診療時間については、西梅田静脈瘤・痛みのクリニックの公式サイトをご覧ください。

【著者】

西梅田 静脈瘤・痛みのクリニック 院長 小田 晃義

【略歴】

現在は大阪・西梅田にて「西梅田 静脈瘤・痛みのクリニック」の院長を務める。

下肢静脈瘤の日帰りレーザー手術・グルー治療(血管内塞栓術)・カテーテル治療、再発予防指導を得意とし、

患者様一人ひとりの状態に合わせたオーダーメイド医療を提供している。

早期診断・早期治療”を軸に、「足のだるさ・むくみ・痛み」の原因を根本から改善することを目的とした診療方針を掲げ、静脈瘤だけでなく神経障害性疼痛・慢性腰痛・坐骨神経痛にも対応している。

【所属学会・資格】

日本医学放射線学会読影専門医、認定医

日本IVR学会専門医

日本脈管学会専門医

下肢静脈瘤血管内焼灼術指導医、実施医

マンモグラフィー読影認定医

本記事は、日々の臨床現場での経験と、医学的根拠に基づいた情報をもとに監修・執筆しています。

インターネットには誤解を招く情報も多くありますが、当院では医学的エビデンスに基づいた正確で信頼性のある情報提供を重視しています。

特に下肢静脈瘤や慢性疼痛は、自己判断では悪化を招くケースも多いため、正しい知識を広く伝えることを使命と考えています。