コラム

2025.11.19

ばね指の原因と治し方を医師が解説|ストレッチで改善できる?手術は必要?

ばね指とは?指の曲げ伸ばしがしにくくなる疾患

朝起きたとき、指が曲がったまま伸びない。

そんな経験はありませんか?指を伸ばそうとすると「カクッ」と引っかかり、バネのように急に伸びる現象が起こる場合、それは「ばね指」かもしれません。ばね指は、指の曲げ伸ばしという動作において、屈筋腱が筋肉の収縮を関節に伝える際に、腱鞘と呼ばれるトンネルの中を通る腱がスムーズに動かなくなる疾患です。

腱鞘が腱の浮き上がりを防ぎ、滑車のような役割で力を正しく伝えていますが、この腱鞘で炎症が起こることで指の動きの制限とともに痛みが生じます。どの指にも起こりますが、特に親指、中指、薬指での頻度が高く、多くは第二関節で発症します。

指を曲げる屈筋腱は、親指に1本、その他の指には2本存在します。それぞれの腱が通る腱鞘で炎症が起こることで、ばね指を発症します。炎症により腱鞘が厚くなってしまうため、腱が通る道が狭くなり、指は曲げ伸ばしをすることが難しくなります。症状が進むと、腱が腱鞘に引っかかるようになり、無理に動かそうとすると、引っかかっていた部分が一気に外れてしまい、バネのように勢いよく指が動いてしまうのです。

ばね指の原因となりやすい人とは

ばね指は誰にでも起こりうる疾患ですが、特定の条件下で発症しやすくなります。

タイピングなど仕事で指を酷使する人、テニス、バドミントン、卓球などのラケット競技をする人、家事をする人や趣味で手指を使う人が該当します。手を酷使すると、腱と腱鞘の間で繰り返し摩擦が生じ、その結果、炎症が生じてしまい、痛みや腫れを伴う腱鞘炎を起こします。スマートフォンやパソコンを長時間使用する現代では、若い世代でも発症するケースが増えています。

また、更年期の人、妊娠・出産後の人も注意が必要です。更年期や妊娠・出産については女性ホルモンのバランスの変化が影響していると考えられています。女性ホルモンのひとつ「エストロゲン」は、関節や腱のまわりの状態を保つ役割がありますが、更年期や産後の授乳期は、このエストロゲンが短期間で大きく変化する時期です。血中のエストロゲンが低下すると、腱や腱鞘の状態を健康に保てなくなり、炎症が起こりやすくなります。

さらに、糖尿病のある方、人工透析を受けている方には多発することがあります。糖尿病では高血糖により腱・腱鞘が厚くなる変化が起こり、腱の動きが妨げられる可能性があります。関節リウマチの方も、腱鞘の滑膜成分が炎症に関与している可能性があり、腱鞘炎が高頻度に見られます。このような基礎疾患がある場合は、特に注意が必要です。

ばね指の症状と放置するリスク

初期症状について

ばね指の初期症状として、親指の付け根の関節や第二関節での痛み、指の可動域の制限、指を伸ばすときの引っ掛かり感やバネのように伸びる現象が見られます。

手のひらの指の付け根に固い部分ができ、押すと痛みを感じます。指を動かすとカクッという引っかかりを感じることが特徴です。朝起きたときに一番症状が強く、日中は軽減することが多いのも特徴的です。

なぜ朝だけ痛くなる?

ばね指の症状が朝だけ出るというケースは少なくありません。なぜこのようなことが起こるのか、はっきりしたことは分かっていませんが、夜間には指を安静にしているため、炎症で腱がむくむことが関係しているのではないかと言われています。夜間寝ている間は指を動かさないために、屈筋腱がむくむためだと推測されています。指を動かしていると屈筋腱のむくみが減少するので、日中には引っかかりが少なくなるのだと考えられています。

放置するとどうなる?

ばね指を放置していると、次第に拘縮が進みます。

曲がったまま伸ばすことが難しい、一定以上曲がらないといったことが起こり、当然、日常生活への影響も大きくなります。長期間放置したことで、隣の指が動きにくくなることもあります。炎症が長期化してしまい、関節の拘縮などにつながると改善が困難になるため、早めの対処が重要です。

痛みや症状が長引くときは、ばね指の治療を受けずに放置することは避けるべきです。症状が悪化すると日常生活に大きな支障が出るだけでなく、保存療法での改善が難しくなり、手術が必要になる可能性も高まります。

ばね指の検査・診断

ばね指の診断は、問診、触診を行い診断します。

炎症が生じている部分の痛みや腫れがあるかどうかを確認します。痛みは患部を抑えたり、動かしたりする場合に発生するかどうかも確認します。関節リウマチやヘバーデン結節、ブシャール結節との鑑別のため、レントゲン検査を追加することもあります。

指の付け根から指にかけて痛みや腫れ、指を曲げるときや伸ばすときに引っかかり感がある、朝起きたときに指がこわばる、指が動かなくなる「ロック現象」が見られるといった症状が現れた場合は、早めに整形外科などの医療機関を受診してください。

ばね指の治療法

保存療法

保存療法では安静の上、消炎鎮痛剤の内服・外用による薬物療法、温熱療法を行います。

安静が難しい場合には、装具療法を導入することもあります。テーピングや装具で指を休ませることで、炎症の軽減を図ります。ただし、関節を固定することで拘縮が起こるというデメリットがあるため、むしろ関節が固まらないようにストレッチなどを行なうことも重要です。

その他、痛みが強い場合など限定的にステロイド注射を行うこともあります。ステロイド注射は超音波で腱とその周辺を観察しながら、薬液を注入して炎症を改善させる治療です。筋肉の動きが改善され、痛みの軽減が期待できます。特にトリアムシノロンという薬が腱鞘炎に非常によく効きますので、ほとんどの場合はそれで痛みが緩和されます。

ただし、ステロイド注射には相応の副作用もありますので、何度も繰り返し使用することはできません。あまりに頻回に使用すると腱が弱って切れてしまうこともありえますので、最大でも2回までしか行えません

動注治療(動脈注射治療)

炎症により異常な新生血管が生じている場合には、動注治療を行います。

動脈に細い針を刺して、そこから新生血管に蓋をして、炎症・痛みの軽減を図ります。5分程度で治療が可能です。

切らないばね指の治療 

針で直接肥厚した腱鞘を切開する方法で、傷口も小さく、日帰り治療が可能で30分程度で帰宅できます。

手術と異なり、当日から入浴や水仕事ができることがメリットです。

手術療法

ストレッチで十分な回復が得られないもの、注射をしても痛みが十分に取れない場合や、痛みが取れてもまたすぐ症状がぶり返す場合、あるいは痛みが取れても引っかかりが残って不便な場合は、手術による治療に進みます。

局所麻酔を行い、指の付け根の手のひら側を1㎝程度切開し、腱の通り道にあるトンネル(靭帯性腱鞘)を切り開きます。30分程度の手術で、入院の必要はありません。手術の傷は10日程度で治ります。手術は症状をとるために確実な方法ですが、感染の危険性や神経障害の危険性など、合併症の可能性が無いわけではありません。

ばね指になったときにやってはいけないこと

無理なストレッチ

指の動きづらさを感じると、ついストレッチで筋肉や腱を伸ばしたくなります。

しかし、炎症が起こっている状態でのストレッチは、逆効果になることがあります。特に、痛みが強くなるような無理なストレッチは絶対に行わないようにしてください。痛みがあるうちは、安静が基本となります。痛みが和らいでから行うのが原則です。痛みが強い時期は炎症が生じているため、無理なストレッチは逆効果になりかねません。

無理なマッサージ

指で強く押すなどの無理なマッサージも厳禁です。

ストレッチと同様に、炎症が悪化するおそれがあります。症状が気になるかとは思いますが、医師の指示がない限り、マッサージは控えましょう。専門的指導のない自己流マッサージは、炎症部位への過度な物理的刺激になり、組織の損傷をさらに広げてしまう可能性があります。

放置する

炎症がごく軽い場合など、限られたケースでは、安静に努めることで自然に治癒することがあります。

しかし通常、安静の必要性に気づくのはある程度炎症・痛みが強くなってからです。症状に気づいた時点で、自然治癒に期待するのではなく、安静を保って早めに医療機関を受診することをおすすめします。指の痛みや引っかかりに気づいたら、自己判断で様子を見るのではなく、速やかに整形外科を受診し、専門医による適切な診断と治療を受けることが重要です。

まとめ

ばね指は、腱鞘で炎症が起こることで腱がスムーズに動かなくなる疾患です。

特に親指、中指、薬指での頻度が高く、多くは第二関節で発症します。タイピングなど指を酷使する人、ラケット競技をする人、家事をする人、更年期・妊娠出産後の人がなりやすく、放置すると拘縮が進み、曲がったまま伸ばすことが難しくなり日常生活への影響が大きくなります。

問診、触診で診断し、関節リウマチ等との鑑別のためレントゲンや超音波検査を追加することもあります。保存療法として消炎鎮痛剤の内服・外用、温熱療法、装具療法、ステロイド注射を行い、動注治療で異常な新生血管に蓋をして炎症・痛みの軽減を図ります。

無理なストレッチや無理なマッサージは炎症を悪化させるため厳禁です。症状に気づいた時点で安静を保って早めに医療機関を受診することが推奨されます。

当院では切らないばね指の治療が対応可能で、日帰り治療が可能です。指の痛みや引っかかりでお悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。詳しい治療内容や診療時間については、西梅田 ばね指のページをご覧ください。

【著者】

西梅田 静脈瘤・痛みのクリニック 院長 小田 晃義

【略歴】

現在は大阪・西梅田にて「西梅田 静脈瘤・痛みのクリニック」の院長を務める。

下肢静脈瘤の日帰りレーザー手術・グルー治療(血管内塞栓術)・カテーテル治療、再発予防指導を得意とし、

患者様一人ひとりの状態に合わせたオーダーメイド医療を提供している。

早期診断・早期治療”を軸に、「足のだるさ・むくみ・痛み」の原因を根本から改善することを目的とした診療方針を掲げ、静脈瘤だけでなく神経障害性疼痛・慢性腰痛・坐骨神経痛にも対応している。

【所属学会・資格】

日本医学放射線学会読影専門医、認定医

日本IVR学会専門医

日本脈管学会専門医

下肢静脈瘤血管内焼灼術指導医、実施医

マンモグラフィー読影認定医

本記事は、日々の臨床現場での経験と、医学的根拠に基づいた情報をもとに監修・執筆しています。

インターネットには誤解を招く情報も多くありますが、当院では医学的エビデンスに基づいた正確で信頼性のある情報提供を重視しています。

特に下肢静脈瘤や慢性疼痛は、自己判断では悪化を招くケースも多いため、正しい知識を広く伝えることを使命と考えています。