コラム

2025.11.20

下肢静脈瘤の痛みを放置すると起こる5つの危険性

下肢静脈瘤とは?足の血管がボコボコする原因

下肢静脈瘤は、足の静脈が拡張して瘤(こぶ)状に浮き出て見える状態です。足の表在静脈で逆流防止弁が壊れたり機能低下することで発生します。

本来、足の血液は重力に逆らって心臓へ戻る必要がありますが、この弁が正常に機能しないと血液が逆流・うっ滞し、静脈が拡張・蛇行して瘤状になってしまうのです。

加齢、立ち仕事、妊娠、肥満、遺伝的要因などが関与し、女性にやや多い傾向があります。症状は見た目のボコボコだけでなく、だるさ、むくみ、こむら返り、かゆみ、色素沈着、潰瘍など多岐にわたります。

残念ながら、下肢静脈瘤は自然に軽快することはまれで、放置すると症状が進行する可能性が高いのです。

下肢静脈瘤の痛みを放置すると起こる危険性①:症状の悪化と生活の質の低下

下肢静脈瘤を放置すると、まず症状が徐々に悪化していきます。初期段階では軽いだるさや夕方のむくみ程度でも、時間の経過とともに症状は進行します。

足のだるさや重さが増し、日常生活に支障をきたすようになるのです。立ち仕事や長時間の座位が辛くなり、仕事の効率も落ちてしまいます。特に夕方になると足がパンパンに腫れて、靴がきつく感じることも。

夜間のこむら返り(足がつる症状)も頻繁に起こるようになり、睡眠の質が低下します。十分な休息が取れないことで、日中のパフォーマンスにも影響が出てくるでしょう。

さらに、足の外見的な変化も進みます。最初は夕方だけ目立っていた血管のボコボコが、次第に常時目立つようになり、人目が気になって服装の選択肢が狭まることも。

これらの症状は単なる「見た目の問題」や「年齢のせい」と軽視されがちですが、実際には生活の質を大きく下げる要因となります。

「足が重くて外出するのが億劫になった」「趣味の旅行も足が痛くて楽しめなくなった」という声も少なくありません。

下肢静脈瘤の痛みを放置すると起こる危険性②:皮膚の変化と色素沈着

下肢静脈瘤を長期間放置すると、足の皮膚に様々な変化が現れます。静脈内の血液がうっ滞することで、皮膚の栄養状態が悪化するためです。

まず目立つのが色素沈着です。足首周辺やふくらはぎの皮膚が茶色や黒っぽく変色します。この変色は一時的なものではなく、治療しても完全に元に戻るとは限りません。

皮膚の質感も変化します。正常な弾力のある皮膚から、徐々に硬くゴワゴワした質感に変わっていきます。これは「脂肪皮膚硬化症」と呼ばれる状態で、皮膚の下の組織が硬くなる現象です。

さらに進行すると、皮膚のかゆみや湿疹が現れることもあります。「うっ滞性皮膚炎」と呼ばれるこの状態は、強いかゆみを伴い、掻きむしることで皮膚を傷つけてしまうリスクも高まります。

これらの皮膚変化は、見た目の問題だけでなく、日常生活での不快感や痛みの原因にもなります。靴下や衣類が擦れるだけでも痛みを感じるようになることもあるのです。

皮膚の変化は下肢静脈瘤の進行度を示す重要なサインです。色素沈着や皮膚の質感変化が見られたら、それはすでに病気がかなり進行している証拠と言えるでしょう。

早期に適切な治療を受ければ、これらの皮膚変化を最小限に抑えることができます。

下肢静脈瘤の痛みを放置すると起こる危険性③:皮膚潰瘍の形成

下肢静脈瘤を放置した場合の最も深刻な合併症の一つが、皮膚潰瘍の形成です。

静脈性潰瘍は、長期間の血液うっ滞によって皮膚の栄養状態が極度に悪化し、皮膚の表面に穴が開いた状態です。主に足首の内側に発生しやすく、一度形成されると治りにくいという特徴があります。

潰瘍は単なる傷とは異なります。皮膚の表面だけでなく、その下の組織にまで及ぶ深い損傷で、じくじくと浸出液が出て、痛みを伴うことが多いのです。

静脈性潰瘍ができると、日常生活に大きな支障をきたします。歩行時の痛みはもちろん、潰瘍からの浸出液が衣類を汚したり、悪臭の原因になることも。また、開いた傷口は細菌感染のリスクも高めます。

「静脈瘤を放置すると足を切断することになる」という誤解もありますが、静脈性潰瘍だけで足の切断が必要になることは基本的にはありません。ただし、潰瘍から細菌が入って重篤な感染症を起こした場合など、極めて稀なケースでは深刻な事態に発展する可能性もあります。

潰瘍の治療には長期間を要し、専門的なケアが必要です。弾性包帯や圧迫療法、創傷被覆材の使用、場合によっては静脈瘤そのものの手術治療が必要になることもあります。

静脈性潰瘍は、下肢静脈瘤を放置した結果として現れる最終段階の症状と言えます。この段階まで進行する前に、適切な治療を受けることが重要です。

下肢静脈瘤の痛みを放置すると起こる危険性④:血栓性静脈炎のリスク

下肢静脈瘤を放置すると、血栓性静脈炎を発症するリスクが高まります。これは、拡張した静脈内に血栓(血の固まり)ができ、その周囲に炎症が起こる状態です。

血栓性静脈炎になると、静脈に沿って赤く腫れ、熱感と強い痛みを伴います。触れると硬いしこりのように感じることもあります。

「血栓ができると心臓や脳に飛んで、心筋梗塞や脳梗塞になるのでは?」と心配される方もいますが、下肢静脈瘤にできる血栓は表在静脈(皮膚の近くにある静脈)に生じるもので、心臓や脳に飛ぶリスクは非常に低いとされています。

ただし、血栓性静脈炎は強い痛みを伴い、日常生活に大きな支障をきたします。また、適切な治療を受けないと症状が長引くことがあります。

血栓性静脈炎の治療には、抗炎症薬の服用や患部の冷却、圧迫療法などが行われます。症状が重い場合は、血栓を除去する処置が必要になることもあります。

予防には、長時間同じ姿勢を避ける、十分な水分摂取、適度な運動、弾性ストッキングの着用などが効果的です。

下肢静脈瘤があると血栓ができやすい状態にあるため、早めの治療で血栓性静脈炎のリスクを減らすことが大切です。

下肢静脈瘤の痛みを放置すると起こる危険性⑤:精神的・社会的影響

下肢静脈瘤の影響は身体面だけでなく、精神面や社会生活にも及びます。見た目の変化や慢性的な症状が、自己イメージや日常活動に大きく影響するのです。

足の血管のボコボコが目立つようになると、スカートや短パンを避けるようになり、服装の選択肢が狭まります。夏でも足を隠す服装を選ぶことで、暑さによる不快感が増すこともあります。

慢性的な足の痛みやだるさは、活動範囲を狭め、社会参加の機会を減らすことにもつながります。「友人との外出が億劫になった」「趣味の旅行も足が痛くて楽しめなくなった」という声も少なくありません。

これらの制限が長期間続くと、自己評価の低下やうつ症状につながることもあります。特に外見の変化に敏感な方や、仕事で足を使う機会の多い方にとっては、大きなストレス要因となり得るのです。

さらに、周囲の理解不足も問題となることがあります。「見た目だけの問題」「年のせいだから仕方ない」と軽視されることで、適切な治療を受ける機会を逃してしまうケースも見られます。

下肢静脈瘤の治療は、単に医学的な問題を解決するだけでなく、患者さんの生活の質を全体的に向上させる意義があります。症状の改善によって活動範囲が広がり、社会参加が増えることで、精神面でもポジティブな変化が期待できるのです。

下肢静脈瘤の早期発見と治療の重要性

下肢静脈瘤は、早期に発見して適切な治療を受けることで、症状の進行を抑え、合併症のリスクを大幅に減らすことができます。

初期症状として注意すべきサインには、足のだるさ・むくみ、夜間のこむら返り、皮膚のかゆみなどがあります。これらの症状が見られる場合は、専門医への相談をお勧めします。

現代の下肢静脈瘤治療は、以前に比べて格段に進歩しています。低侵襲な日帰り手術が主流となり、術後の痛みや回復期間も大幅に短縮されています。

主な治療法としては、血管内焼灼術(高周波やレーザーを使用)、グルー治療(医療用接着剤を使用)、硬化療法(薬液を注入)、瘤切除などがあります。患者さんの症状や静脈の状態に合わせて、最適な治療法が選択されます。

また、軽度の症状には弾性ストッキングの着用や生活習慣の改善も効果的です。立ち仕事の方は定期的に足を動かす、足を高くして休息する、適度な運動を行うなどの工夫も大切です。

下肢静脈瘤は自然に治ることはほとんどなく、放置すると徐々に進行します。「様子を見よう」と治療を先延ばしにすると、より複雑な治療が必要になったり、完全な回復が難しくなったりすることもあります。

早期治療のメリットは、症状の軽減だけでなく、将来的な合併症予防にもつながります。特に皮膚潰瘍などの重篤な合併症は、一度発症すると治療に長期間を要するため、予防が最も重要です。

まとめ:下肢静脈瘤の痛みは我慢せず専門医に相談を

下肢静脈瘤は、放置すると様々な合併症のリスクが高まる進行性の疾患です。初期症状が軽いために「様子を見ても大丈夫」と思われがちですが、適切な治療を受けないまま放置すると、生活の質に大きな影響を及ぼす可能性があります。

放置することで起こりうる5つの危険性をまとめると:

  • 症状の悪化と生活の質の低下
  • 皮膚の変化と色素沈着
  • 皮膚潰瘍の形成
  • 血栓性静脈炎のリスク
  • 精神的・社会的影響

現代の下肢静脈瘤治療は、低侵襲で日帰りが可能な方法が主流となっています。血管内焼灼術やグルー治療など、患者さんの負担を最小限に抑えた治療法が選択できるようになりました。

足のだるさ、むくみ、こむら返り、血管のボコボコなど、気になる症状がある場合は、早めに専門医に相談することをお勧めします。早期発見・早期治療により、症状の進行を抑え、合併症のリスクを減らすことができます。

「年だから仕方ない」「見た目だけの問題」と諦めず、専門医の診察を受けることで、より快適な生活を取り戻すことができるでしょう。

西梅田静脈瘤・痛みのクリニックでは、下肢静脈瘤に対する多彩な日帰り治療を提供しています。IVR専門医による診察から治療、術後ケアまで一貫して対応し、患者さん一人ひとりの症状や生活スタイルに合わせた最適な治療をご提案しています。足の症状でお悩みの方は、お気軽にご相談ください。

【著者】

西梅田 静脈瘤・痛みのクリニック 院長 小田 晃義

【略歴】

現在は大阪・西梅田にて「西梅田 静脈瘤・痛みのクリニック」の院長を務める。

下肢静脈瘤の日帰りレーザー手術・グルー治療(血管内塞栓術)・カテーテル治療、再発予防指導を得意とし、

患者様一人ひとりの状態に合わせたオーダーメイド医療を提供している。

早期診断・早期治療”を軸に、「足のだるさ・むくみ・痛み」の原因を根本から改善することを目的とした診療方針を掲げ、静脈瘤だけでなく神経障害性疼痛・慢性腰痛・坐骨神経痛にも対応している。

【所属学会・資格】

日本医学放射線学会読影専門医、認定医

日本IVR学会専門医

日本脈管学会専門医

下肢静脈瘤血管内焼灼術指導医、実施医

マンモグラフィー読影認定医

本記事は、日々の臨床現場での経験と、医学的根拠に基づいた情報をもとに監修・執筆しています。

インターネットには誤解を招く情報も多くありますが、当院では医学的エビデンスに基づいた正確で信頼性のある情報提供を重視しています。

特に下肢静脈瘤や慢性疼痛は、自己判断では悪化を招くケースも多いため、正しい知識を広く伝えることを使命と考えています。