
下肢静脈瘤とは?症状の特徴と見分け方
下肢静脈瘤(かしじょうみゃくりゅう)は、足の静脈が瘤(こぶ)のように膨らんだ状態を指します。「瘤」とはコブという意味で、足の静脈がコブのように膨らむことから、この名前がついています。
多くの方が「足の血管が浮き出ている」と気にされますが、これが下肢静脈瘤の典型的な症状です。静脈の中にある逆流防止弁が機能不全を起こすと、静脈圧が高くなり、静脈が延びたり、屈曲したり、蛇行したりして瘤を形成します。
下肢静脈瘤は良性の疾患ですので、急に悪化したり命にかかわることはありません。しかし、放置すると症状が進行し、生活の質を大きく低下させる原因となります。
では、どのような症状があるのでしょうか?
下肢静脈瘤の主な症状
下肢静脈瘤の症状は主にふくらはぎに現れます。血液が足に溜まることで起こるため、午後から夕方にかけて症状が強くなるのが特徴です。
具体的な症状としては、以下のようなものがあります:
- 足のむくみ – 特に夕方になると悪化します
- 足の重だるさ – 長時間立っていると強くなります
- こむら返り(足がつる) – 特に夜間に起こりやすいです
- かゆみ – 静脈うっ滞による皮膚の変化で起こります
- 足の冷え – 血行不良によるものです
- 足の血管の浮き出し・目立ち – 最も目に見える症状です
初期段階では静脈瘤が見られるだけで特に症状がないことも多いのですが、進行すると上記のような不快な症状が現れてきます。
さらに症状が深刻化すると、皮膚炎や静脈炎が起き、痛みを伴ったり、治りにくい潰瘍になったりすることもあります。また、皮膚が茶褐色や黒褐色に色素沈着することもあります。
下肢静脈瘤の4つのタイプと見た目の特徴
下肢静脈瘤は見た目の特徴から4つのタイプに分類されます。それぞれのタイプによって症状や治療法が異なりますので、自分がどのタイプに当てはまるのか知っておくことが大切です。
1. 網目状静脈瘤
皮膚下の細い静脈が拡張した状態で、下肢静脈瘤の中でもっとも多いタイプです。皮膚の下に網目状の青い線が見える程度で、美容上の問題がほとんどです。
2. 側枝静脈瘤
伏在静脈から枝分かれした交通枝が拡張した状態です。下腿(すね)にできやすく、皮膚の表面に盛り上がって見えることが特徴です。
3. くも状静脈瘤
皮膚内の毛細血管が拡張した状態で、血管がクモの巣のように広がって見えます。赤や青色の細い血管が集まって見え、主に美容上の問題となります。
4. 伏在静脈瘤
伏在静脈の逆流防止弁が機能しなくなり発症します。悪化すると大腿部まで広がり、太いこぶ状の静脈が目立つようになります。このタイプは外科的な治療が必要になることが多いです。
伏在静脈瘤は他のタイプと比べて症状が強く、むくみやだるさ、夜間のこむら返りなどの症状が現れやすいのが特徴です。
くも状静脈瘤や網目状静脈瘤は主に美容上の問題であり、治療の必要性は低いですが、伏在静脈瘤は症状が進行すると日常生活に支障をきたすため、早めの治療が推奨されます。
下肢静脈瘤の原因と発症リスク
下肢静脈瘤は主に静脈の逆流防止弁の機能不全が引き起こす症状です。では、なぜこの機能不全が生じるのでしょうか?
下肢静脈瘤の発症には、以下のような要因が関係しています。

1. 遺伝的要因
下肢静脈瘤は非常に遺伝性が高い病気です。父親または母親のどちらかに下肢静脈瘤がある場合には約40%、両親ともに下肢静脈瘤がある場合はさらに発症率が高くなります。
残念ながら、生まれた時点で下肢静脈瘤になりやすいかどうかがある程度決まっているのです。遺伝の場合、男女や年齢を問わず発症することがあります。
2. 妊娠・出産
女性は妊娠出産による負荷などで下肢静脈瘤を発症しやすい傾向にあります。特に第二子出産以降、出産回数が多いほど発症・悪化のリスクが高くなります。
妊娠中は子宮が大きくなることで骨盤内の静脈が圧迫され、足の静脈に負担がかかります。また、ホルモンの変化も静脈壁を弱める原因となります。
3. 立ち仕事・デスクワーク
長時間の立ち仕事は血液が脚に滞留しやすく、下肢静脈瘤を発症しやすい傾向があります。美容師、看護師、教師、販売員など立ち仕事が多い職業の方は特に注意が必要です。
また、座りっぱなしのデスクワークも血液の滞留が起こりやすくなります。長時間同じ姿勢でいることで、ふくらはぎの筋肉ポンプ作用が働かず、静脈への負担が増加します。
4. 加齢
加齢とともに逆流防止弁の働きは衰えますが、脚への負担は積み重なり、負荷が増えていきます。特に60〜70代の発症率は高くなります。
若い頃は問題なかった方でも、年齢を重ねるにつれて静脈瘤が目立つようになることがあります。これは長年の重力の影響で静脈壁が少しずつ弱くなっていくためです。
5. その他の要因
- 肥満 – 腹圧が高いと下肢静脈や弁への負荷が大きくなります
- 激しいスポーツ – 脚に外傷を負うスポーツをしていた場合に発症するケースがあります
- ホルモン療法 – 女性ホルモン剤の使用が静脈瘤のリスクを高めることがあります
下肢静脈瘤を放置するリスクと合併症
「見た目が気になるけれど、痛みもないし放っておいても大丈夫かな」と思われる方も多いでしょう。確かに下肢静脈瘤は命に関わる病気ではありませんが、放置することでさまざまな合併症を引き起こす可能性があります。
下肢静脈瘤を放置した場合に起こりうる合併症について説明します。
うっ滞性皮膚炎
静脈の血液がうっ滞すると、皮膚に十分な栄養が行き渡らなくなります。その結果、皮膚が薄くなったり、炎症を起こしたりします。皮膚がかゆくなったり、赤みを帯びたりするのが特徴です。
うっ滞性皮膚炎は下肢静脈瘤の代表的な合併症の一つで、放置すると次第に悪化していきます。
色素沈着
静脈うっ滞が長期間続くと、皮膚に茶褐色や黒褐色の色素沈着が起こることがあります。これは血液中の赤血球が壊れて鉄分が沈着するためで、一度起こると治療しても完全には消えないことがあります。
静脈性潰瘍
最も重篤な合併症が静脈性潰瘍です。皮膚の栄養状態が極端に悪化すると、ちょっとした傷がきっかけで潰瘍(皮膚の欠損)ができてしまいます。
静脈性潰瘍は非常に治りにくく、一度できると数ヶ月から数年にわたって治療が必要になることもあります。痛みを伴い、感染すると重症化するリスクもあります。
血栓性静脈炎
拡張した静脈内に血栓(血の塊)ができ、炎症を起こすことがあります。赤く腫れて熱感や痛みを伴うのが特徴です。
表在性の血栓性静脈炎は命に関わることは少ないですが、不快な症状を引き起こします。また、稀に深部静脈血栓症に進展することもあります。
このように、下肢静脈瘤は放置すると様々な合併症を引き起こす可能性があります。特に症状が進行している場合や、むくみ・だるさなどの症状がある場合は、早めに専門医に相談することをお勧めします。
下肢静脈瘤の最新治療法と選び方
下肢静脈瘤の治療法は大きく分けて「保存的治療」と「積極的治療(手術など)」があります。症状の程度や静脈瘤のタイプによって最適な治療法が異なりますので、専門医と相談して選ぶことが大切です。
保存的治療 – 弾性ストッキング
基本となる治療法は「圧迫療法」です。医療用弾性ストッキングを履くことで、脚を圧迫して静脈拡張や下肢静脈の血液停滞を抑えます。
弾性ストッキングは足首部分の圧力が強く、心臓に向かって圧が弱くなるグラデーション設計になっており、血液の逆流や停滞を抑えることができます。履くだけで脚のむくみや、脚が重い、だるい、痛いといった症状は軽減できます。
ただし、市販の着圧ソックスとは異なり、必ず医師の処方に基づいた医療用弾性ストッキングを使用することが重要です。正しいサイズや圧迫力でないと効果が得られないばかりか、逆に症状を悪化させることもあります。
血管内焼灼術(レーザー・高周波)
現在の下肢静脈瘤治療の主流となっているのが血管内焼灼術です。カテーテルを使い、静脈内からレーザーや高周波を照射して内側から血管を閉塞させる方法です。
小さな傷で済み、回復も早いのが特徴です。局所麻酔で行うため体への負担も少なく、手術時間は片足約15〜20分程度です。手術後はすぐに歩くことができ、日常生活への復帰も早いです。
レーザー焼灼術(EVLA)とラジオ波焼灼術(RFA)がありますが、どちらも効果や安全性は同等です。静脈瘤の状態(蛇行、太さなど)や皮膚の薄さなどによって使い分けられます。
血管内塞栓術(グルー治療)
2019年に日本で保険適用となった最新の治療法です。医療用接着剤(シアノアクリレート)を注入して静脈を閉塞します。
熱を使わないため痛みが少なく、術後の弾性ストッキングも不要なケースが多いのが特徴です。術後弾性ストッキングを着用できない方や早期に職場復帰を希望される方、術中の負担を少なくしたい方に適しています。
硬化療法
硬化剤を注射し、静脈を閉塞させる方法です。小さな静脈瘤や術後の残存瘤に用いられます。費用が安価で身体的負担も軽いのが特徴です。
くも状静脈瘤や網目状静脈瘤など、比較的細い静脈瘤に対して効果的です。ただし、太い静脈瘤には効果が限定的なことがあります。
ストリッピング手術
小さな2カ所の傷から逆流の主たる原因の静脈を引き抜く手術です。以前は主流でしたが、現在は血管内焼灼術や塞栓術に置き換わりつつあります。
再発が少ないのが特徴ですが、血管内治療と比べると回復に時間がかかります。蛇行が強くカテーテル挿入ができない場合や、血管が太すぎる場合など、血管内焼灼術の適応とならない症例に選択されます。

下肢静脈瘤の予防と日常生活での注意点
下肢静脈瘤は完全に予防することは難しいですが、日常生活での工夫によってリスクを減らしたり、症状の進行を遅らせたりすることができます。
効果的な予防法
- 適度な運動 – ウォーキングや水泳などの有酸素運動は、ふくらはぎの筋肉ポンプ作用を活性化させ、静脈の血流を改善します
- 体重管理 – 肥満は静脈への圧力を増加させるため、適正体重を維持することが重要です
- 長時間の同じ姿勢を避ける – 長時間立ちっぱなしや座りっぱなしを避け、定期的に姿勢を変えたり、足を動かしたりしましょう
- 足を高くする – 休息時に足を心臓より高い位置に上げることで、静脈の血流が改善します
- 弾性ストッキングの着用 – リスクが高い方は、医師に相談して予防的に弾性ストッキングを着用することも有効です
日常生活での注意点
下肢静脈瘤がある方は、以下の点に注意して生活することで症状の悪化を防ぐことができます。
- 朝起きたら弾性ストッキングを履く – 足が細いうちに履くと効果的です
- 熱いお風呂を避ける – 熱いお湯は血管を拡張させるため、ぬるめのお湯に入りましょう
- こまめに水分補給する – 脱水は血液を濃くし、血栓のリスクを高めます
- 足を組んで座らない – 血流を妨げる姿勢は避けましょう
- ハイヒールを避ける – ふくらはぎの筋肉ポンプ作用を妨げるため、低めのヒールを選びましょう
下肢静脈瘤は一度発症すると完全に元に戻すことは難しい病気です。しかし、早期発見・早期治療によって症状の進行を抑え、合併症を予防することができます。
気になる症状がある方は、ぜひ専門医に相談してください。当院では下肢静脈瘤の専門治療を行っており、患者様一人ひとりの状態に合わせた最適な治療をご提案しています。
詳しい診断や治療についてのご相談は、西梅田静脈瘤・痛みのクリニックまでお気軽にお問い合わせください。
【著者】
西梅田 静脈瘤・痛みのクリニック 院長 小田 晃義
【略歴】
現在は大阪・西梅田にて「西梅田 静脈瘤・痛みのクリニック」の院長を務める。
下肢静脈瘤の日帰りレーザー手術・グルー治療(血管内塞栓術)・カテーテル治療、再発予防指導を得意とし、
患者様一人ひとりの状態に合わせたオーダーメイド医療を提供している。
早期診断・早期治療”を軸に、「足のだるさ・むくみ・痛み」の原因を根本から改善することを目的とした診療方針を掲げ、静脈瘤だけでなく神経障害性疼痛・慢性腰痛・坐骨神経痛にも対応している。
【所属学会・資格】
日本医学放射線学会読影専門医、認定医
日本IVR学会専門医
日本脈管学会専門医
下肢静脈瘤血管内焼灼術指導医、実施医
マンモグラフィー読影認定医
本記事は、日々の臨床現場での経験と、医学的根拠に基づいた情報をもとに監修・執筆しています。
インターネットには誤解を招く情報も多くありますが、当院では医学的エビデンスに基づいた正確で信頼性のある情報提供を重視しています。
特に下肢静脈瘤や慢性疼痛は、自己判断では悪化を招くケースも多いため、正しい知識を広く伝えることを使命と考えています。

