
下肢静脈瘤とは?足の血管がコブになる病気
下肢静脈瘤(かしじょうみゃくりゅう)は、足の血管がコブのようにふくらんでしまう病気です。下肢とは足のことで、静脈瘤は血管(静脈)が文字どおりコブ(瘤)のようにふくらんだ状態を指します。
この病気は良性であり、急に悪化したり命にかかわることはありませんので安心してください。しかし、足のだるさやむくみなどの症状が慢性的に起こり、生活の質(QOL)を低下させることがあります。
下肢静脈瘤は、静脈内の逆流防止弁が壊れることで血液が下方へ逆流し、血管が膨張・蛇行することで発生します。長時間の立ち仕事や妊娠・出産、遺伝的要因などがリスク因子となります。
まれに湿疹ができたり、皮膚が破れる潰瘍(かいよう)ができ重症になることがあります。このような症状がある方は、できるだけ早く専門の病院を受診されることをお勧めいたします。
下肢静脈瘤は、以下のような病気の原因とはなりませんのでご安心ください。
- 血のかたまりが飛んで脳梗塞や心筋梗塞をおこす
- エコノミークラス症候群になる
- 血管のコブが破裂する
- 足の切断が必要になる
下肢静脈瘤の主な症状
下肢静脈瘤の症状はほとんどがふくらはぎに起こります。足に血液がたまることによって発生するため、午後から夕方に症状が強くなるのが特徴です。
典型的な症状には以下のようなものがあります。
- 足のむくみ
- 足の痛みや重さ、だるさ
- こむら返り(特に夜間に起こることが多い)
- かゆみ
- 足の血管が浮き出る・目立つ
立ち仕事の後や長時間同じ姿勢でいた後に症状が強くなることが多いですね。
あなたは足のむくみや重さを感じることはありませんか?
症状の程度は人によって異なりますが、進行すると日常生活に支障をきたすこともあります。初期段階では症状が軽いため見過ごされがちですが、気になる症状があれば早めに専門医に相談することをおすすめします。

下肢静脈瘤の4つのタイプ
下肢静脈瘤は大きく分けて4つのタイプに分類されます。それぞれ特徴や症状が異なりますので、自分がどのタイプに該当するのか確認してみましょう。
1. 伏在型静脈瘤
伏在型静脈瘤は、最も大きな静脈瘤であり、治療を希望される患者さんの多くがこのタイプです。表在静脈本幹である大伏在静脈や小伏在静脈に発生し、蛇行したり、ボコボコとふくらんでコブ状になった血管が特徴です。
太腿やふくらはぎ、膝の裏などにできるケースが多く、外科的な治療が必要となることがあります。
伏在型静脈瘤はさらに2つのタイプに分けられます。
- 大伏在静脈瘤:足首の内側から鼠径部(足の付け根)まで伸びる大伏在静脈にできる静脈瘤です。下腿から大腿部内側、下腿の外側、大腿部の背側などに静脈瘤が発生します。
- 小伏在静脈瘤:アキレス腱の外側から伸びて膝の裏で深部静脈に合流する小伏在静脈にできるタイプです。足首の後ろや膝の後ろに発症します。
伏在型の下肢静脈瘤では、静脈瘤の原因となっている静脈逆流を止める処置が必要です。レーザー治療、高周波治療、ストリッピング手術、高位結紮&硬化療法などで逆流している静脈を閉塞して治療します。
2. 側枝型静脈瘤
側枝型静脈瘤は、伏在静脈から枝分かれした静脈の拡張によって発症します。ほとんどは膝から下の部分に静脈瘤ができます。分枝静脈瘤とも呼ばれており、伏在静脈瘤よりやや細いとされ、孤立性のケースもあります。
文字どおり、側枝が壊れることで生じるタイプです。クモの巣状・網目状とは明らかに外見が異なります。毛細血管より太くて深い血管が壊れているので、血管の形が浮き上がってコブのように見え、逆に色はあまり目立ちません。
症状を伴わないことが多いですが、まれにだるさや湿疹などを伴うことがあり治療が必要になります。
3. 陰部静脈瘤
膨らんだ血管が皮膚の下で蛇行し、足の付け根から太ももの裏側にボコボコと斜めに浮き出てきたら、陰部静脈瘤の可能性があります。これは、卵巣や子宮周囲の静脈から逆流してきた血液によってできる静脈瘤です。
側枝型静脈瘤と同じように側枝が壊れるタイプで、外見も側枝型静脈瘤と似ています。一つだけ違うのは故障の始まる場所です。側枝型静脈瘤を含めて、他の下肢静脈瘤は故障の範囲が脚に限定されます。それに対して、陰部静脈瘤はお腹の中の静脈の故障が原因になっています。
患者さんのほとんどは出産後の女性で、だるさなどの症状が強く出ることが多く、特に月経・排卵期に強くなる傾向があります。
4. 網目状・クモの巣状静脈瘤
網目状静脈瘤は、直径2~3mmの細い皮下静脈が網目のように透けて見えるタイプです。皮膚の下から血管がボコボコ浮き出てくる症状はなく、青色の網目状のものが多く見られます。
さらに細かい直径0.1~1mmの真皮内静脈瘤はクモの巣状静脈瘤と呼ばれ、非常に細くてはっきりした赤紫色の蛇行した血管が、放射状もしくは平行に認められます。
いずれのタイプも痛みやだるさなどの症状につながることは、まずありません。美容上の問題として治療を希望される方が多いです。
硬化療法できれいに治すことが可能です。クモの巣状静脈瘤の場合は、マイクロ硬化療法や表在レーザーでの治療も可能です。
下肢静脈瘤の進行度別症状
下肢静脈瘤の症状は進行によって変化し、どこまで進行したかにより治療方法が変わってきます。進行度合いを把握し、できるだけ日常生活に影響を与えない治療が受けられるようにしましょう。
1. 足のむくみ・だるさ・重さ
下肢静脈瘤の典型的な初期症状ですが、むくみは他の重篤な疾患である可能性もあります。それを確認するためにも、必ずこの段階で受診してください。
長時間立ち仕事をした後や夕方に起こる足の痛みや重さ、だるさ、むくみなどが主な症状です。この場合、立ち仕事の休憩時間に足を上げて休むと症状が和らぎます。
2. 足の細い血管が浮き出る
足の皮膚から血管が薄く浮き出ているように見えます。網目やクモの巣のように見えるケースもあります。まだコブはできていない軽症の下肢静脈瘤です。
この段階では主に美容上の問題として認識されることが多いですが、進行を防ぐためにも専門医に相談することをおすすめします。
3. 太い血管が浮いてコブのように見える
皮膚の下に太い血管が浮き出てきますが、多くは蛇行したりコブ状になっています。軽い色素沈着や皮膚炎が起こるケースがあります。見た目が気になって受診される方が一番多い時期です。
この段階でも、治療で見た目や症状を改善できます。できるだけ早く受診してください。
少なくとも太い血管が浮き出てきたら、必ず受診してください。それ以上重症化すると治療が困難になり、完治まで何年もかかる場合があります。
4. 色素沈着や皮膚炎
重症化してくると色素沈着や皮膚炎を繰り返し、湿疹や皮膚の硬化につながっていきます。皮膚炎は治りにくくなっていき、さらに放置すると皮膚がただれ、潰瘍ができます。
潰瘍ができてからでも治せないことはありませんが、治療はかなり困難になってしまい、完治まで何年もかかる場合や、皮膚の状態を完全には戻せなくなる可能性があります。
このような重症例は、専門医による適切な治療が不可欠です。
下肢静脈瘤の治療法
下肢静脈瘤の治療法は、症状の程度や静脈瘤のタイプによって異なります。ここでは主な治療法についてご説明します。

保存的治療
初期段階では、医療用弾性ストッキングによる圧迫療法が選択されます。静脈瘤そのものを治すものではありませんが、症状緩和や進行予防には有効です。
弾性ストッキングは朝起きたら履き、寝る前に脱ぐようにします。きちんとした圧迫力が必要で、しわを伸ばしながら履くことが大切です。傷が化膿している時ははかないようにしましょう。
医療用弾性ストッキングは市販の着圧ストッキングとは異なります。必ず医療機関で処方してもらうようにしてください。
積極的な治療
症状が進行している場合や、保存的治療で改善が見られない場合は、以下のような積極的な治療が検討されます。
- 硬化療法:硬化剤を注射し、静脈を閉塞させる方法。小さな静脈瘤や術後の残存瘤に用いられます。
- 血管内焼灼術(レーザー・高周波):カテーテルを使い、静脈内からレーザーや高周波を照射して内側から血管を閉塞する方法。小さな傷で済み、回復も早く、現在の主流です。
- 血管内塞栓術(グルー治療):医療用接着剤を注入して静脈を閉塞します。熱を使わないため痛みが少なく、術後の弾性ストッキングも不要なケースが多いです。
- ストリッピング手術:静脈を物理的に引き抜く方法で、以前は主流でしたが、現在は焼灼術や塞栓術に置き換わりつつあります。
治療法の選択は、静脈瘤のタイプや症状の程度、患者さんの希望や生活スタイルなどを考慮して決定されます。専門医との相談の上、最適な治療法を選びましょう。
まとめ:自分の症状を知って適切な対処を
下肢静脈瘤は4つのタイプに分けられ、それぞれ特徴や症状が異なります。自分がどのタイプに該当するのかを知ることで、適切な対処法や治療法を選ぶことができます。
初期症状である足のむくみやだるさを感じたら、早めに専門医に相談することをおすすめします。症状が進行すると治療が難しくなることがありますので、早期発見・早期治療が大切です。
当院では下肢静脈瘤の専門的な診断・治療を行っております。下肢静脈瘤血管内焼灼術指導医・実施医の資格を持つ医師が、豊富な知識と経験を活かした治療を提供しています。
足の症状でお悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。あなたの症状に合わせた最適な治療プランをご提案いたします。
詳しい情報や診療時間については、西梅田静脈瘤・痛みのクリニックの公式サイトをご覧ください。
【著者】
西梅田 静脈瘤・痛みのクリニック 院長 小田 晃義
【略歴】
現在は大阪・西梅田にて「西梅田 静脈瘤・痛みのクリニック」の院長を務める。
下肢静脈瘤の日帰りレーザー手術・グルー治療(血管内塞栓術)・カテーテル治療、再発予防指導を得意とし、
患者様一人ひとりの状態に合わせたオーダーメイド医療を提供している。
早期診断・早期治療”を軸に、「足のだるさ・むくみ・痛み」の原因を根本から改善することを目的とした診療方針を掲げ、静脈瘤だけでなく神経障害性疼痛・慢性腰痛・坐骨神経痛にも対応している。
【所属学会・資格】
日本医学放射線学会読影専門医、認定医
日本IVR学会専門医
日本脈管学会専門医
下肢静脈瘤血管内焼灼術指導医、実施医
マンモグラフィー読影認定医
本記事は、日々の臨床現場での経験と、医学的根拠に基づいた情報をもとに監修・執筆しています。
インターネットには誤解を招く情報も多くありますが、当院では医学的エビデンスに基づいた正確で信頼性のある情報提供を重視しています。
特に下肢静脈瘤や慢性疼痛は、自己判断では悪化を招くケースも多いため、正しい知識を広く伝えることを使命と考えています。

