長引く下腹部の痛みと慢性前立腺炎
会陰部や下腹部に重い痛みが続いている方はいませんか?
トイレが近い、排尿後にスッキリしない、長時間座っていると不快感がある…こうした症状が3カ月以上続いている場合、それは**慢性前立腺炎**の可能性があります。慢性前立腺炎は、膀胱のすぐ下にある前立腺に炎症が起こり、排尿困難や痛みなどの症状が長期間続く疾患です。35~50歳くらいの男性に好発しますが、中年以降でも発症することがあります。
この病気は日常生活に大きな影響を与えるにもかかわらず、原因がはっきりしないことが多く、治療に苦労される方も少なくありません。症状を悪化させる要因として、ストレスや長時間のデスクワーク、飲酒、喫煙などが知られていますが、実は**コーヒー**も症状を悪化させる可能性があることをご存じでしょうか?
本記事では、慢性前立腺炎とコーヒーの関係について、医学的な観点から詳しく解説します。なぜコーヒーを控えるべきなのか、その理由と対処法を知ることで、症状の改善につながる可能性があります。
慢性前立腺炎とは?その症状と原因
前立腺の役割と慢性前立腺炎の定義
前立腺は男性特有の臓器です。
膀胱のすぐ下にあり、精子への栄養供給、pHの調整、精液の濃縮などを行う重要な器官です。この前立腺に炎症が起こった状態が前立腺炎であり、急性前立腺炎と慢性前立腺炎に分けられます。急性前立腺炎のほとんどは細菌感染を原因としますが、慢性前立腺炎では約9割の症例で原因を特定できません。
慢性前立腺炎は、3カ月以上症状が続く疾患として定義されています。排尿困難、排尿時痛、陰部の痛み、頻尿などの症状を伴い、患者様の生活の質を大きく低下させることがあります。
多岐にわたる症状
慢性前立腺炎の症状は非常に多様です。
主な症状として、排尿困難や頻尿、排尿時の痛み、陰部や下腹部の痛み・不快感などが挙げられます。さらに、下肢の痛みやしびれ、血尿、残尿感、勃起時の痛み、射精時の痛みなど、症状は多岐にわたります。特に坐位で増悪する会陰部や股関節付け根の痛みは、デスクワークをされる方にとって大きな悩みとなります。
これらの症状は必ずしも全て現れるわけではなく、個人差が大きいのが特徴です。しかし、いずれの症状も日常生活に支障をきたすため、早めの対処が重要となります。
原因が特定できない理由
慢性前立腺炎のうち約1割は細菌感染を原因としますが、それ以外の多くの症例ではっきりとした原因が特定できません。
現在のところ、長時間の坐位や自転車などの圧迫に伴う前立腺への刺激や血流障害、尿の逆流、骨盤周辺の知覚過敏、ホルモンの分泌異常、免疫異常などが発症に影響しているのではないかと考えられています。また、ストレスや長時間のデスクワーク、過労、飲酒、喫煙、カレーなど辛い物の摂取などは、慢性前立腺炎の症状を悪化させると言われています。
なぜコーヒーが慢性前立腺炎を悪化させるのか
カフェインの利尿作用と頻尿の関係
コーヒーに含まれるカフェインには強い利尿作用があります。
カフェインは腎臓での尿の生成を促進し、膀胱に尿が溜まりやすくなります。その結果、頻尿の症状が悪化する可能性があります。慢性前立腺炎の患者様の多くは、すでに頻尿や残尿感などの排尿症状に悩まされているため、カフェインの摂取はこれらの症状をさらに増悪させる要因となります。
特に夕方以降にコーヒーを飲むと、夜間頻尿の原因となり、睡眠の質を低下させることもあります。睡眠不足はストレスを増大させ、慢性前立腺炎の症状悪化につながる悪循環を生み出します。
膀胱粘膜への刺激
コーヒーは膀胱粘膜を刺激する作用があります。
カフェインを含む食品は、膀胱の内壁を刺激し、炎症を悪化させる可能性があります。慢性前立腺炎では前立腺だけでなく、膀胱や尿道にも炎症が及んでいることが多く、コーヒーによる刺激がこれらの症状を増悪させることがあります。治療中は、コーヒーや紅茶などのカフェインを含む食品、唐辛子やワサビなどの膀胱粘膜を刺激する食品の摂り過ぎを控えることが推奨されます。
下腹部や会陰部の違和感の増悪
カフェインの摂取は、下腹部や会陰部の違和感を増悪させる可能性があります。
慢性前立腺炎の患者様では、下腹部や会陰部の違和感、残尿感、尿の切れの悪さなどが続くことがあり、刺激物の摂取が症状の長期化につながる場合があります。カフェインは神経系を刺激し、痛みや不快感の感覚を増幅させることがあるため、症状の改善を目指す上では避けるべき要因の一つと考えられます。
コーヒーの代替案:デカフェという選択肢
デカフェコーヒーとは
コーヒーの味や香りは諦めたくないという方におすすめなのがデカフェコーヒーです。
デカフェとは、生豆からカフェインを90%以上取り除いたコーヒーのことで、風味はそのままに、カフェインによる刺激を大幅に減らすことができます。「カフェインレス」も同じ意味ですが、「ノンカフェイン」はもともとカフェインを含まない飲み物を指します。近年、健康意識の高まりや不眠・動悸、泌尿器症状への配慮から注目が集まり、日本でも2010年代以降、製造技術の進歩によって味や香りの欠点が解消され、大手チェーンやスーパーで手軽に買えるようになりました。
デカフェコーヒーの魅力
最大の魅力は、時間や体調を気にせずコーヒーを楽しめることです。
夜でも睡眠を妨げにくく、膀胱や前立腺への刺激を抑えられるため、カフェイン感受性が高い方や胃の弱い方にも適しています。人によってはかなり少量のカフェインでも反応しやすい方もいらっしゃるため、デカフェでも夜間眠りにくいような夜間頻尿の方は日中のみにされた方が無難です。
おすすめのデカフェコーヒー
忙しい方でも気軽に飲むことのできるデカフェコーヒーをご紹介します。
インターネットや一部のスーパーで簡単に購入できます。スティックタイプが過量にならず、香りも保たれるためお勧めです。「マウントハーゲン オーガニック フェアトレード カフェインレス」は、有機栽培アラビカ豆を使用し、自然な水抽出法でカフェインを除去しており、インスタントでも香り高く、まろやかな甘みとコクが特徴です。「ネスカフェ ゴールドブレンド カフェインレス」は、手軽なインスタントタイプながら深い味わいで、お湯だけで香り豊かな一杯が楽しめ、日常の置き換えに最適です。
慢性前立腺炎の治療と生活習慣の改善
検査と診断
慢性前立腺炎の診断には、いくつかの検査が行われます。
**NIH慢性前立腺炎症状スコア(NIH-CPSI)**というアンケート形式のテストで痛みや不快感、排尿の状態、QOLを調べ、スコアに応じて軽度、中等度、重度と判定します。細菌感染が疑われる場合は尿検査を行い、残尿測定では排尿後に膀胱に超音波を当てて残っている尿の量を測定します。直腸診では医師が手袋をはめて指を使って直腸から前立腺の状態(特に圧痛があるかどうか)とマッサージ後の症状の変化を調べます。造影剤を使用したMRIでは、点滴を取って造影剤を入れながらMRIを撮像し、慢性前立腺炎の方は炎症を反映して早いタイミングで造影剤が炎症のある場所に集積します。
治療の基本:生活習慣の改善と薬物療法
治療では、生活習慣の改善と薬物療法が中心となります。
生活習慣の改善では、ストレス、長時間のデスクワーク、過労、飲酒、喫煙をできる限り取り除き、食事・運動習慣に気をつけた規則正しい生活を送ることを推奨しています。自転車やバイクでの長距離移動も避け、30分に一度は立ったり、座る際円座のクッションなどを使用して前立腺への刺激を減らすことが推奨されます。薬物療法では、排尿状態を改善するα1ブロッカー、鎮痛薬、抗生物質等を使った治療を行い、神経性疼痛への効果が期待できるプレガバリンや抗うつ薬、その他漢方を使用することもあります。
なかなか治らない慢性前立腺炎に、新しい治療としてカテーテル治療
慢性前立腺炎は、抗菌薬や鎮痛薬、漢方薬など、さまざまな治療を受けても症状が長引いてしまうことの多い病気です。
「どこに相談しても異常がないと言われた」
「治療を続けているのに痛みや違和感が取れない」
このようなお悩みを抱えている方も少なくありません。そのような難治性の慢性前立腺炎に対して、近年注目されている治療法の一つがカテーテル治療(動注治療)です。
炎症が“血管”に関係しているケースがあります
慢性前立腺炎では、前立腺周囲に炎症を起こした異常な血管が形成され、それが痛みや不快感の原因となっていることがあります。カテーテル治療では、太ももの動脈から細いカテーテルを挿入し、炎症の原因となっている血管を選択的に治療します。
治療には、イミペネム・シラスタチンという抗生剤を使用しますが、この薬剤は炎症血管を塞ぐ作用もあり、炎症の鎮静と痛みの軽減が期待できます。
MRIで炎症が確認できると、改善率は高くなります
治療前にはMRI検査を行い、前立腺周囲の炎症の有無を確認します。MRIで明確な炎症が確認できた場合、約85%の方で症状の改善が期待できます。一方、炎症がはっきりしない場合でも、約40%の方に改善が見られるとされています。いずれの場合も、効果には個人差があることをご理解ください。
日帰りで受けられる治療です
カテーテル治療にかかる時間は約20~60分。治療後は1時間ほど安静にしていただき、その日のうちにご帰宅可能です。入院の必要はなく、身体への負担も比較的少ない治療法です。本治療は自由診療(自費診療)となりますが、医療行為の区分としては「手術」に該当するため、ご加入中の医療保険の内容によっては給付金の対象となる場合があります。
効果はゆっくり、でも着実に
カテーテル治療は、治療直後に症状が消えるような即効性のある治療ではありません。多くの方が、3週間~3か月ほどかけて徐々に症状の軽減を実感されます。症状が出始めてから早期に治療が行えた場合、約半数の症例で6週間以内に症状の改善または消失が認められています。効果を安定させるため、初回治療から6週間~3か月後に2回目のカテーテル治療をおすすめするケースもあります。
「もう治らない」と諦める前に
慢性前立腺炎は、原因が分かりにくく、周囲に理解されにくい疾患です。しかし、炎症の原因にアプローチすることで、症状が大きく改善する可能性は十分にあります。長期間続く痛みや違和感でお悩みの方は、新しい選択肢としてカテーテル治療を知っていただければと思います。
治療中の生活上の注意点
控えるべき食品
治療中は、コーヒーや紅茶などのカフェインを含む食品、唐辛子やワサビなどの膀胱粘膜を刺激する食品の摂り過ぎを控えることが推奨されます。
カフェインには利尿作用があり、頻尿の原因となります。「好きな味を我慢する」のではなく、体にやさしい形で楽しむ——それが無理なく続けられる予防と改善の秘訣です。夕方以降はカフェイン入りコーヒーを控え、お気に入りのデカフェに切り替えることは、症状緩和の大きな一歩となります。
長時間の座位を避ける
デスクワーク、自転車・バイクなどによる長時間の座位は、会陰部に負担がかかり、症状を悪化させるおそれがあります。
自転車・バイクなどを趣味で楽しんでいる方もいらっしゃいますが、少なくとも治療中はできる限り控えましょう。デスクワークをする場合も、30分に一度は立ち上がってストレッチをしたり、近くを歩いたりして、会陰部を圧迫から解放するようにしてください。
治療中の性行為について
クラミジアなどの細菌感染でない限り、治療中に性行為をすることに問題はありません。
細菌感染が原因である場合には、医師から許可を得てから再開するようにしてください。
まとめ:慢性前立腺炎とコーヒーの関係
慢性前立腺炎は、3カ月以上症状が続く疾患で、原因が特定できないことが多く、治療に苦労される方も少なくありません。
コーヒーに含まれるカフェインは、利尿作用により頻尿を引き起こし、膀胱粘膜を刺激することで症状を悪化させる可能性があります。治療中は、カフェインを含む食品や膀胱粘膜を刺激する食品を控え、生活習慣の改善と薬物療法を中心とした治療を行うことが重要です。
コーヒーの味や香りを楽しみたい方には、デカフェコーヒーという選択肢があります。デカフェコーヒーは、風味はそのままに、カフェインによる刺激を大幅に減らすことができるため、症状の改善を目指す上で有効な代替案となります。
慢性前立腺炎の治療は薬だけでなく、生活習慣の見直しも重要です。長時間の座位を避け、ストレスを軽減し、規則正しい生活を送ることで、症状の改善が期待できます。既存の治療で症状の改善が乏しい場合には、カテーテル治療という選択肢もあります。
長引く下腹部の違和感や痛みにお悩みの方は、一人で抱え込まず、専門医にご相談ください。詳しい診断と治療については、西梅田 静脈瘤・痛みのクリニックの慢性前立腺炎専門ページをご覧ください。
【著者】
西梅田 静脈瘤・痛みのクリニック 院長 小田 晃義
【略歴】
現在は大阪・西梅田にて「西梅田 静脈瘤・痛みのクリニック」の院長を務める。
下肢静脈瘤の日帰りレーザー手術・グルー治療(血管内塞栓術)・カテーテル治療、再発予防指導を得意とし、
患者様一人ひとりの状態に合わせたオーダーメイド医療を提供している。
早期診断・早期治療”を軸に、「足のだるさ・むくみ・痛み」の原因を根本から改善することを目的とした診療方針を掲げ、静脈瘤だけでなく神経障害性疼痛・慢性腰痛・坐骨神経痛にも対応している。
【所属学会・資格】
日本医学放射線学会読影専門医、認定医
日本IVR学会専門医
日本脈管学会専門医
下肢静脈瘤血管内焼灼術指導医、実施医
マンモグラフィー読影認定医
本記事は、日々の臨床現場での経験と、医学的根拠に基づいた情報をもとに監修・執筆しています。
インターネットには誤解を招く情報も多くありますが、当院では医学的エビデンスに基づいた正確で信頼性のある情報提供を重視しています。
特に下肢静脈瘤や慢性疼痛は、自己判断では悪化を招くケースも多いため、正しい知識を広く伝えることを使命と考えています。

